スンナとハディース
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/16 05:33 UTC 版)
スンナがハディースという容れ物にそのまま含まれるのかどうかという問題は論争的問題であって、どう扱うかは法学者や文脈に高度に依存している。たとえばイスラーム法の文脈ではイマーム・シャーフィイーはハディースが預言者のスンナそのものを示すと考えたのに対し、マーリク・イブン・アナスやハナフィー学派の法学者らはこれを区別する。たとえばイマーム・マーリクは、ムハンマドから累々と伝えられ彼に到達したハディースのいくつかを拒絶しているが、マーリクによると、それらのハディースがマディーナの人びとの定まった慣行に反するものであったからであるという。 ハディースが口承とその継承者の確認の集成であるのに対し、スンナは、スンナ派においては教友の合意によって確認されたムハンマドの慣行や範例であり、シーア派においてはムハンマドおよび十二イマームの行為と範例である。慣行や範例は伝承によって伝わるものであり、伝承を参照して理解しうるものであるから、スンナとハディースは時に同義となる。しかしこれは文脈に応じて変動するもので、常に同義のものとはいえない。 ハディースは、伝承内容(マトン)とその伝承者の鎖(イスナード)に基づいて、その信頼性が分類される。ハディース学者は、ハディースそれぞれの真正性ないし虚偽性について、イスナードで伝承者それぞれの信用性と、マトンにおいて伝承内容の文脈的論理性を研究し確認していったのである。このようなハディース学のあり方は、初期のイスラーム哲学や現代科学の引用・出典確認の方法に影響を与えている。具体的には、ハディース学者はハディースの伝承者たち(イスナード)の研究、すなわち異なる伝承者たちを通じてもたらされたハディースのそれぞれを比較し、あるいは各人物を研究することによって、それぞれのハディースの内容が、真正か、良好か、脆弱か、誤謬かを立証する体系を編み出した。文書化された伝承には、ムハンマド伝(イルム・アッ=リジャール)にあるものと、累々伝えられ妥当性検証を通じてもたらされたハディースの双方がある。 さて、スンナは大部分は預言者伝ならびに預言者の言行、範例に関わるハディースによって受け継がれてきたものではあるが、必ずしもイスラーム法的テクストを通じてのみ確立されるものではない。実際的な慣例を通じて継承されるものでもある。たとえば礼拝の方法は、個人礼拝と集団礼拝ともに、ムハンマドからその信徒に具体的な動作を示すことで伝えられ、さらにそれが世代間で継承されていったものである。このような範例がハディースによって文書化された形で示されるのは後世のことであり、実際の継承はこのように具体的なあり方をもって学ばれ、伝えられてきたのであった。一方でムハンマドの行いや習慣の多くは、第一にハディースを通じて伝えられるものであった。
※この「スンナとハディース」の解説は、「スンナ」の解説の一部です。
「スンナとハディース」を含む「スンナ」の記事については、「スンナ」の概要を参照ください。
- スンナとハディースのページへのリンク