ジッパリングと融合孔開口
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/10/18 17:06 UTC 版)
「SNAREタンパク質」の記事における「ジッパリングと融合孔開口」の解説
膜の融合は、タンパク質の膜中の移動、脂質二重層の破壊、高度に湾曲した膜構造の再形成、というエネルギーを要する一連の過程からなる。2つの膜を近接させる過程は、膜間の静電的な反発力をの乗り越えるためにエネルギーの入力を必要とする。融合に先立って膜接触領域からの膜結合タンパク質の移動を調節する機構は不明であるが、膜の曲率の局所的な増大がこの過程に寄与していると考えられている。SNAREはタンパク質-脂質、タンパク質-タンパク質相互作用からエネルギーを産出し、それらが膜融合の駆動力となる。 1つのモデルでは、融合の間2つの膜を近接させておくために必要な力は、トランスSNARE複合体からシスSNARE複合体が形成される際のコンフォメーション変化からもたらされるとされる。現在の仮説では、この過程はSNAREジッパリング(zippering)と呼ばれている。 トランスSNARE複合体が形成されたとき、SNAREタンパク質は未だ異なる膜上に存在する。SNAREタンパク質が自発的にコイル形成を続けるにつれて、より緊密で安定した4-ヘリックスバンドルが形成される。このSNARE複合体のジッパリングの過程で放出されるエネルギーの一部は、個々のSNAREモチーフが屈曲するストレスとして貯蔵されると考えられている。この機械的ストレスは、膜貫通ドメインとSNAREヘリックスバンドルの間の準剛体的な(フレキシブルではない)リンカー領域へ貯蔵されると想定されている。このエネルギー的に不利な屈曲は、複合体が膜融合部位の周縁部へ移動したときに最小化となる。結果として、ストレスの解放が小胞-細胞膜間の反発力を上回り、2つの膜は互いに押し付けられることとなる。 その後の段階のストークと融合孔の形成を説明するモデルもいくつか提唱されている。しかし、これらの過程の正確な性質については未だ議論がある。「ジッパー」仮説によると、SNARE複合体が形成されるにつれて、緊密化するヘリックスバンドルがシナプトブレビンとシンタキシンの膜貫通ドメインにねじり力を与える。これによって膜貫通ドメインは各々の膜内で傾き、タンパク質のコイルはより緊密に巻き付くようになる。この膜貫通ドメインの不安定な配置は最終的に2つの膜の融合を引き起こし、SNAREタンパク質が同じ膜上に存在するシスSNARE複合体となる。脂質の再配置の結果として、融合孔が開口し小胞の内容物が外部環境へ漏出する。 ストーク形成過程の連続的過程としての説明は、膜融合は最小限の半径から開始し、ストーク状の構造となるまで融合部の半径が放射状に広がっていくことを暗示する。しかし、このような説明は膜脂質の分子動力学を考慮に入れていないものである。近年の分子シミュレーションでは、膜が非常に近接すると、脂質の一部は疎水的な尾部を隣接する膜へ挿入し、いわば両脚を双方の膜へ伸ばした状態となることが示されている。この脚が広がった脂質状態を解消するために自発的にストーク構造が形成される。この分子的観点からは、ストークの形成ではなく、脚が広がった脂質を形成した中間状態が律速となるエネルギー障壁である。この広がった脂質コンフォメーションの形成のためのエネルギー障壁は、膜間の距離に比例する。SNARE複合体は2つの膜を互いに押し付け、この障壁を乗り越えるのに必要な自由エネルギーを提供する。
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