ショウジョウバエに対する実験
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/08 07:44 UTC 版)
「ハーマン・J・マラー」の記事における「ショウジョウバエに対する実験」の解説
1927年にキイロショウジョウバエの雄にX線を照射する実験を行い、放射線被ばくによる影響が子孫にも伝わること、および放射線によって突然変異を人為的に発生させられることを初めて証明した。 「突然変異がここで起きた」と証明するためにマラーは雌雄で性染色体が違うこと、及び致死遺伝子を持っていてもヘテロ接合体では生存できるケースがあることを利用し、あらかじめホモ接合体に致死となる遺伝子の乗っているX染色体(X´)を持つショウジョウバエ(外観でも区別可能な変異がある、雄はヘテロ接合体に成れないので必ず雌)を用意した。この個体を通常の雄と交配すると以下のような3つの型の子供が生まれるはずである。 外見変異と致死の遺伝子を持つ雌と正常な雄の交配雌(X´X)/雄(XY) X(通常の遺伝子) Y(通常の遺伝子) X´(致死と外見変異遺伝子がある) X´X(外見変異のある雌) -(致死のため誕生しない) X(通常の遺伝子) XX(正常な雌) XY(正常な雄) ところが、正常な雄にあらかじめX線を照射して(生殖細胞のX染色体に変異が起きる可能性がある)からこの変異個体と交配させ、産まれてきた変異のある雌(X´X)と別な正常な雄を交配させたところまったく雄が生まれない組み合わせが確認され、以下のような新しい致死遺伝子が父親の生殖細胞に発生したと推測ができた。 外見変化を起こさない方のX染色体にも別の致死遺伝子がある雌と正常な雄の交配雌(X´X)/雄(XY) X(通常の遺伝子) Y(通常の遺伝子) X´(致死と外見変異遺伝子がある) X´X(外見変異のある雌) -(致死のため誕生しない) X(致死遺伝子がある) XX(正常な雌) -(致死のため誕生しない) この実験が放射線防護において遺伝的影響を考慮する契機となり、米国科学アカデミー原子放射線の生物的影響に関する委員会(Committee on Biological Effects of Atomic Radiation; BEAR)が1956年に集団の防護基準として遺伝線量を提案、国際放射線防護委員会(ICRP)が1958年勧告においてこれを参考値として追認した。 マラーが実験を行った時代には染色体の存在は知られていたもののその細部のDNAについては研究が進んでいなかった。現在ではDNAの修復活動は人間の細胞1個では一日に百万件行われていることに対し、ショウジョウバエの精子は修復活動をしない特別なものであることが判明している。
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