シナプス小胞サイクル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/10 04:19 UTC 版)
「シナプス小胞」の記事における「シナプス小胞サイクル」の解説
シナプス小胞サイクルはいくつかの重要な段階に分けられる。 1. シナプスへの輸送 まず、シナプス小胞の構成要素はキネシンファミリーのメンバーによってシナプスへ輸送される。C. elegansでは、シナプス小胞輸送の主要なモータータンパク質はUNC-104である。UNC-16/Sunday Driverなど他のタンパク質がシナプス小胞輸送に利用されるモーターを調節する証拠も存在する。 2. 神経伝達物質のローディング シナプスに到達すると、シナプス小胞には神経伝達物質が詰め込まれる。神経伝達物質の詰め込みは、輸送体とプロトンポンプを必要とする能動過程である。プロトンポンプは電気化学的勾配を形成するATPアーゼである。輸送体はそれぞれの神経伝達物質の種類に対して選択性を示す。C. elegansでは、UNC-17とUNC-47がそれぞれ小胞アセチルコリントランスポーター(英語版)、小胞GABAトランスポーター(英語版)として同定されている。 3. ドッキング ローディングが行われたシナプス小胞は近傍の放出部位にドッキングする必要があるが、この段階についてはほとんど解明されていない。シナプス小胞と放出部位には多くのタンパク質が同定されているが、小胞タンパク質と放出部位のタンパク質の間のタンパク質間相互作用の中で、ドッキング過程を説明できるものはまだ見つかっていない。C. elegansでは、rab-3とmunc-18の変異体は小胞のドッキングまたは放出部位での小胞の構成を変化させるが、ドッキングが完全に破壊されるわけではない。現在では、SNAREタンパク質もドッキングに関与していると考えられている。 4. プライミング シナプス小胞がドッキングした後、膜の融合が始まる前にはプライミングが必要である。プライミングは、カルシウムの流入に応答して迅速に融合することができるよう、シナプス小胞が準備をする過程である。プライミングはSNARE複合体の部分的な組み立てが関与すると考えられている。この過程には、Munc13(英語版)、RIM(英語版)とRIM結合タンパク質が参加する。Munc13はt-SNAREであるシンタキシン(英語版)の閉じたコンフォメーションから開いたコンフォメーションへの変化を促進し、v-SNARE/t-SNARE複合体の組み立てを促進すると考えられている。RIMもプライミングを調節するようであるが、この段階に必須ではない。 5. 融合 プライミングされた小胞は、細胞質のカルシウム濃度の上昇に応答して非常に迅速に融合する。融合はSNAREによって直接媒介され、SNAREの組み立てによってもたらされるエネルギーによって駆動されると考えられている。カルシウムを検知してこの段階を開始するのは、カルシウム結合小胞タンパク質のシナプトタグミン(英語版)である。SNAREによるカルシウム依存的な融合の媒介は、近年in vitroで再構成が行われている。C. elegansではv-SNAREとt-SNAREの変異体は致死となり、このことはSNAREが融合過程に必要不可欠であることと符合する。同様に、ショウジョウバエの変異体やノックアウトマウスにおいても、SNAREがシナプスのエキソサイトーシスに重要な役割を果たしていることが示されている。 6. エンドサイトーシス この過程は、full-collapse fusion機構におけるシナプス小胞の再取り込み過程である。しかし他の研究からは、このタイプの融合とエンドサイトーシスが常に起こるわけではないことを示唆する有力な証拠が得られている。
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