ガス雲G2の接近
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 04:01 UTC 版)
いて座A*へ接近するガス雲G2の想像図と、接近時の挙動のシミュレーション。出典: ESO / MPE / Marc Schartmann 2012年、銀河系中心でガス雲G2の発見が報告された。ガス雲G2は、2002年の観測データから検出されており、質量は地球のおよそ3倍で、いて座A*に物質が降着する領域へ向かっていると推定された。予報では、2014年5月にブラックホールの近点を通過し、その時の距離はブラックホールの事象の地平面からせいぜい36光時(400億km)と推定された。2009年以降、G2の末端部が徐々に引き裂かれる様子が観測され、近点通過の頃には完全に崩壊し、その際にX線その他で非常に明るくなると予想された。他にも、G2はガス雲というよりガスをまとった恒星で、ブラックホールをそのまま通過して恒星が姿を見せるのではないか、とか、いて座A*以前に、その周辺にある小質量ブラックホールや中性子星に接近し、それらについて何らかの知見が得られるのではないか、といった予想もされた。 ガス雲G2のいて座A*への接近は、超大質量ブラックホールへどのように物質が降着し、エネルギーが放出されるかを観測できる貴重な機会と捉えられ、チャンドラ、XMM-Newton、EVLA、インテグラル、スウィフト、フェルミ、VLT、ケック望遠鏡など、錚々たる望遠鏡が、この接近を観測していた。ヨーロッパ南天天文台とローレンス・リバモア国立研究所のグループは、これに先立って数値計算によるG2の挙動の予測も行った。最接近前の2013年には、VLTがG2の非常に淡い部分まで観測した結果、G2は大きく引き伸ばされており、その先端は既に最接近点を通過したとみられる、と発表された。 ガス雲G2は、銀河系中心の超大質量ブラックホールへの最接近点を通過した。出典: ESO / A. Eckart しかし、爆発などの目立った現象が何も観測されないまま、2014年の最接近は過ぎ、ガス雲G2は最接近後も生存している。 UCLAの銀河中心グループは、いち早くG2が無事だったと発表し、このガス雲には中心星があるとした。その後の分析では、G2がガス雲ではなく、ブラックホールの周りを公転している連星系を形成する恒星が、合体して大きな恒星になった、と提唱した。 一方、MPEのグループは2014年7月21日、VLTでの観測に基づき、G2は独立したガス雲というより、薄く連続した物質の流れの中で一際密集した部分である、と発表した。そして、G2を含むガス流は、勢いよくぶつかる突風ではなくそよ風のように、ブラックホール周りの公転面上を吹き続けている、と予想した。この仮説を裏付けるかのように、G2より13年前にブラックホールに最接近したガス雲G1は、G2とほぼ同じ軌道を通っており、一つの大きなガス流の中にある密集領域であることと整合がとれる。
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