エジェクタサイクル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/10 06:33 UTC 版)
「蒸気圧縮冷凍サイクル」の記事における「エジェクタサイクル」の解説
エジェクタサイクルは、凝縮器出口の冷媒液を絞り弁で減圧する代わりにエジェクタに導き、エジェクタで生じた負圧で蒸発器を出た蒸気を吸引し、圧力回収と気液分離とを行って圧縮機に送り込むサイクルである。このサイクルの概念は以前から存在していたが、低かわき度湿り蒸気のエジェクタが非効率的であったため、実用にはなっていなかった。 2003年6月に日本のデンソーが世界ではじめて、高効率のエジェクタサイクル冷凍機の開発に成功した。エジェクタサイクル冷凍機の構成とエジェクタ部の詳細を下図に示す。 図8.エジェクタサイクル冷凍機の構成 図9.エジェクタ部の詳細 サイクルの動作は以下のようになる(図8、9の番号に対応)。 (6g → 1) :圧縮機(Compressor)で冷媒蒸気を圧縮する。 (1 → 2) :油分離器(Oil Separator)で混入潤滑油を分離し、凝縮器(Condenser)で放熱・冷却して、受液器(図略)で一旦液を溜めておく。 (2 → 3) :エジェクタ(Ejector)のノズル(Nozzle, ラバール・ノズル)で断熱膨張させて、エンタルピー(圧力)を速度エネルギーに変換する(図9)。 (3, 9 → 4) :ノズルで生じた低圧で、蒸発器(Evaporator)を出た冷媒蒸気を吸込み部(Suction Flow)から吸引する。 (4 → 5) :混合部(Mixing Section)で両方の冷媒を混合する。 (5 → 6) :ディフュザ(Diffuser)でさらに減速・昇圧する。 (6 → 6g, 6_l) :気液分離器(Accumulator, 蓄圧器)で気体と液体を分離する。 (6l → 7) :分離した冷媒飽和液を膨張弁(Expansion Valve)で絞り膨張する。 (7 → 8) :蒸発器で周囲から吸熱する。 (8 → 9) :蒸発器を出た冷媒は、エジェクタで生じた低圧に引かれて混合部へ吸引される。 このサイクルでは、冷媒の膨張と圧縮が2段階で行われている(ノズルによる膨張と絞り弁による膨張、およびディフューザによる圧縮と圧縮機による圧縮)。このうちノズルによる膨張は理想的には等エントロピー膨張であり、得られる力学的仕事は速度エネルギーとなっている。この速度エネルギーをディフューザに用いて冷媒の低圧側の圧縮を行っていることになる。 ノズルでは低かわき度二相流となり、液滴(液塊)と蒸気が混在しているため、普通のノズルでは気液の速度差が甚大となって渦を生じ、速度エネルギーが粘性により散逸消失してしまう。これをデンソーは、ノズルでの膨張を2段階に分けて行うことにより液滴の微細化を実現した。さらに混合部、ディフューザ部の形状最適化を行い、高効率なエジェクタ開発に成功した。このエジェクタサイクルを膨張弁サイクルと比較すると、次のような特長がある。 ノズル・ディフューザで動力回収が行われるため圧縮機の動力が低減できる(2段圧縮2段膨張サイクルに損失のない膨張機を用いて、その動力で低圧側の圧縮機を駆動したのに相当する)。 気液分離が行われるため圧縮機での液圧縮を防止できる。 膨張機に比べて極めて単純な構造である。 同一条件での成績係数が、膨張弁サイクルに比べて約 50% 向上する。
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