イトマキボラ科とは? わかりやすく解説

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イトマキボラ科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/02 06:59 UTC 版)

イトマキボラ科
生息年代: Albian–現世
Є
O
S
D
C
P
T
J
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Pg
N
Harfordia robusta
分類
: 動物Animalia
: 軟体動物Mollusca
: 腹足綱 Gastropoda
: 新腹足目 Neogastropoda[1]
上科 : エゾバイ上科 Buccinoidea
: イトマキボラ科 Fasciolariidae
学名
Fasciolariidae
Gray[2]1853[3]

イトマキボラ科(イトマキボラか、Fasciolariiidae)は新腹足類に属する巻貝の科で、イトマキボラやナガニシを含むとても多くの種が知られている。近縁のエゾバイ科が寒冷な海に生息するのに対して、本科は暖かい海に生息する。肉食[1]

形態

紡錘形または上下に円錐を合わせたような形の貝殻をもつ種が多い。ナガニシ類では水管溝が長く伸びる[注釈 1] 。縦肋・螺肋があったり螺層の肩に突起が出てゴツゴツした形態の種のほか(ツノマタガイ類)、殻表面が平滑で丸みを帯びた種もある(チューリップボラ)。軟体部は赤い色の種が多いが、褐色や黄色の種もある。長めの鼻(吻鞘)の両側に触角があり、触角のつけねに眼がある。歯舌は小さい中歯3歯尖とその両側に1対の翼状の大きい側歯を持つ尖舌型[5]。蓋は角質で木の葉型[6]

生態

種によって岩礁上・岩礁間・砂底に生息し、他の貝類・多毛類蔓脚類や死肉を食べる。カニなどに食われることもある[7]。雌雄の別があり交尾して雌はさまざまな形をした多数の卵胞を岩礁上などに産みつける。幼生は種により直達型が確認されているほか、浮遊幼生期をもつ種もあると考えられる[8][9]

分布

世界中の比較的暖かい海の、潮間帯下から水深約400mにかけて分布する[6]

系統発生

イトマキボラ科の系統分岐図の一部と種・分布域の一例を下に示す[8][10][6][11]。上位の分岐は省略したが、エゾバイ科と近縁である。分布域のうちインド洋-西太平洋は”IWP”と略記した。

Fas.

Fasciolaria tulipa チューリップボラ、米東岸、鮮新世以降

Cinctura 米東岸、殻表面平滑   

Pleuroploca イトマキボラ。突起有無有り。中新世以降

Aurantilaria ブラジル産。”aurant”は金色。

Filifusus filamentosus ナガイトマキボラ、IWP.    

Australaria 豪州南東    

Triplofusus giganteus 大型。熱帯アメリカ両岸

Lat.2

Lamellilatirus 螺塔がくびれ畝がある。カリブ海

Leucozonia nassa 太い。”leuco”は白色。カリブ海-ブラジル    

Opeatostoma シマツノグチ、殻口に突起。メキシコ西岸-ペルーの岩礁間。   

Latirus pictus アヤツノマタモドキ, フィジー

Polygona infundibulum ニシキツノマタ、米東岸

Turrilatirus スジグロニシキニナ、水管溝短い。IWP.

Lat.1

Benimakia ベニマキ, IWP.

Latirolagena smaragdula マルニシ、丸い。奄美大島以南、IWP.

Latirus belcheri ツノマタモドキ, IWP.

Latirus polygonus リュウキュウツノマタガイ, IWP.

Nodolatirus rapanus 畝あり、殻口内紅色。IWP.

Hemipolygona armata トゲツノマタ。上下円錐形で肩に突起。西アフリカ

Pustulatirus やや細めで縦肋あり。熱帯アメリカ西岸

Peri.

Fusolatirus ツノマタナガニシと似て肩が張る。フィリピンなど。

Hemipolygona mcgintyi 螺肋あり肩が張る。カリブ海

Peristernia nassatula ムラサキツノマタモドキ、IWP.

Fusolatirus bruijnii 西太平洋離島

Peristernia marquesana 西太平洋離島

Fus.

Vermeijius 管がやや短い。モザンビーク海峡

Chryseofusus 白色。IWP.

Granulifusus アラレナガニシ, IWP, 水深50-200mに普通。

Okutanius ホソニシキニナ, 太平洋離島、150-400m。

Amiantofusus 螺塔が細く高い。太平洋離島、マダガスカル大西洋離島

Aegeofusinus 水管溝が短く小型、エーゲ海

Pseudofusus 同上、モロッコ

Aptyxis シラクサナガニシ。管が短い。地中海, アフリカ北西, カナリア諸島に普通。

Aristofusus 熱帯東アメリカ

Propefusus やや太め。オーストラリア南部

Goniofusus 熱帯アメリカ両岸

Fusinus ホソニシ, ナガニシ, IWP.

Cyrtulus アブサラボラは水管が伸びない。西太平洋

  

Couto et al. (2016), Fassio et al. (2022)によるイトマキボラ科の系統分岐図の一部の一例[8][10]

下位分類

現在3つの亜科に分けられている。現生の主な属と産地の例を亜科ごとに以下に記した[3][6]

イトマキボラ亜科 Fasciolariinae Gray, 1853 [12]

  • Aurantilaria M. A. Snyder, Vermeij & Lyons, 2012 1種。ブラジル[7]
  • Australaria M. A. Snyder, Vermeij & Lyons, 2012 6種。オーストラリア南岸。
  • Cinctura Hollister, 1957 スジイリチューリップボラ[13], NC-Texas。
  • Fasciolaria Lamarck, 1799 チューリップボラなど4種。熱帯アメリカ東岸の浅海の砂底に普通。
  • Filifusus M. A. Snyder, Vermeij & Lyons, 2012 ナガイトマキボラ[14]など6種, IWP。
  • Granolaria M. A. Snyder, Vermeij & Lyons, 2012 モクレンボラ[15]ほか2種, 熱帯アメリカ西岸。
  • Latirus Montfort, 1810 アヤツノマタモドキなどツノマタガイ類。本属名はツノマタガイ亜科にも分散して100種ほど命名されていて、近年属の細分化や種名の整理が進められている[16][8]
  • Pleuroploca P. Fischer, 1884 イトマキボラ[14]含む9種, IWP。
  • Polygona Schumacher, 1817 ニシキツノマタガイ[17]ふくむ18種。熱帯アメリカ東岸。
  • Sinistralia maroccensis =Fusinus maroccensis (Gmelin, 1791) ヒダリマキニシ。アフリカ西岸、カナリア諸島。
  • Triplofusus Olsson & Harbison, 1953 Tripofusus giganteus (Kiener, 1840) ab186 ダイオウイトマキボラ[15]含む2種。熱帯アメリカ西岸。


ツノマタガイ亜科 Peristerniinae Tryon, 1880 [12]


ナガニシ亜科 Fusininae Wrigley, 1927 [29][注釈 2]


人との関係

江戸時代末期の武蔵石壽服部雪斎による『目八譜』にイトマキボラ類が紹介されている。第六巻「刺螺」編の(4)に「糸巻法螺」[43]、(6)に「紅糸懸」として糸巻法螺の若貝、(16)に「長辛螺」(ナガニシ)[44]が掲載されている。寒流系のエゾバイ科の貝は美味いが、暖流系のイトマキボラ科は内臓の苦みが強く、大型のイトマキボラも含めて普通は食用とされない[45]ナガニシは生で内臓を取り足だけを刺身として食用とされる[46]

脚注

注釈

  1. ^ 新腹足類では水管溝が伸びた種が他の科でも多く見られる[4]
  2. ^ Hayashi (2005)によると、小型のエゾバイ科のホラダマシ類Cantharusなどと姉妹属。
  3. ^ 奥谷喬司先生への献名で名づけられたが、昆虫に先行属名があったため、”Takashius”に改名された。

出典

  1. ^ a b 貝類学 2010, p. 83.
  2. ^ サミュエル・フレデリック・グレイ (1766 – 1828) or ジョン・エドワード・グレイ (1800-1875)
  3. ^ a b Fasciolariidae”. WoRMS Serge Gofas. 2024年1月7日閲覧。
  4. ^ 貝類学 2010, p. 155-156.
  5. ^ カロモン, スナイダー & 長谷川 2019, p. 101.
  6. ^ a b c d 奥谷 2004, p. 160-163.
  7. ^ a b Meirelles & Matthew-Cascon 2016.
  8. ^ a b c d Couto et al. 2016.
  9. ^ カロモン, スナイダー & 長谷川 2019, p. 100.
  10. ^ a b Fassio et al. 2022.
  11. ^ アボット & ダンス 1989, p. 186-193.
  12. ^ a b 奥谷 2004, p. 160-161.
  13. ^ a b c アボット & ダンス 1985, p. 187.
  14. ^ a b c d 奥谷 2004, p. 163.
  15. ^ a b c アボット & ダンス 1985, p. 186.
  16. ^ Latirus”. WoRMS. 2024年1月7日閲覧。
  17. ^ a b アボット & ダンス 1985, p. 189.
  18. ^ a b c d e 奥谷 2004, p. 161.
  19. ^ a b Bouchet & Snyder 2013.
  20. ^ Hadorn & 知野 2025.
  21. ^ スナイダー & カロモン 2005.
  22. ^ Hemipolygona mcgintyi”. gbif. 2024年1月7日閲覧。
  23. ^ a b c d e f g h アボット & ダンス 1985, p. 193.
  24. ^ a b 波部 & 小菅 1967, p. 82.
  25. ^ Leucozonia nassa”. gbif. 2024年1月7日閲覧。
  26. ^ a b アボット & ダンス 1985, p. 190.
  27. ^ 波部 & 小菅 1967, p. 81.
  28. ^ a b アボット & ダンス 1985, p. 188.
  29. ^ 奥谷 2004, p. 162-163.
  30. ^ Amiantofusus”. gbif. 2024年1月7日閲覧。
  31. ^ Fedsov & Kantor 2012.
  32. ^ a b アボット & ダンス 1985, p. 192.
  33. ^ a b カロモン & スナイダー 2009.
  34. ^ a b アボット & ダンス 1985, p. 191.
  35. ^ カロモン, スナイダー & 長谷川 2019.
  36. ^ Fusinus”. gbif. 2024年1月7日閲覧。
  37. ^ Hesperaptyxis”. gbif. 2024年1月7日閲覧。
  38. ^ Snyder & Vermeij 2016.
  39. ^ カロモン & スナイダ 2019, p. 80.
  40. ^ Kantor et al. 2018, p. 39-43.
  41. ^ 奥谷 1975, p. 193.
  42. ^ Kantor et al. 2018, p. 47.
  43. ^ 四 糸巻法螺”. 武蔵石壽. 2024年1月7日閲覧。
  44. ^ 十六 長辛螺”. 武蔵石壽. 2024年1月7日閲覧。
  45. ^ イトマキボラ”. 2024年1月7日閲覧。
  46. ^ ナガニシ”. 2024年1月7日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク




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