アルドール反応の立体化学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/20 00:48 UTC 版)
「アルドール反応」の記事における「アルドール反応の立体化学」の解説
二重結合が3置換のエノラートがアルデヒドに付加する場合を考える。このとき生成物のβ-ヒドロキシカルボニル化合物はカルボニル基のα位に1つの置換基を持つので、2種類のジアステレオマーが存在する。この生成物のカルボニル基の炭素とヒドロキシ基の炭素を含む鎖をジグザグ型に描いたときにα位の置換基と水酸基が同じ側に出ているものをsyn(シン)体、反対側に出ているものをanti(アンチ体)という。 アルドール反応の遷移状態モデルとしては、1957年にハワード・ジマーマン(Howard E. Zimmerman)とマージョリー・トラックスラー(Marjorie D. Traxler)が提唱したものがよく持ち出され、これをジマーマン・トラックスラーモデル (Zimmermann-Traxler model) という。これはエノラートの対イオンが付加しようとしているカルボニル基の酸素にも配位して6員環のいす型シクロヘキサンに類似した形をとっているものである。この遷移状態モデルにおいては付加を受けるアルデヒド基の置換基は必ず擬エカトリアル位をとる方が有利である。そのためエノラートの幾何異性によってどちらのアルドールが生成するかが決定される。すなわち(Z)-エノラートからはsyn体が、(E)-エノラートからはanti体が得られることになる。 このため、立体選択的なアルドール反応を行うには生成するエノラートの幾何異性を制御することが重要となる。これは溶媒や触媒を変更することなどにより、ある程度可能であるが完全ではない。しかし、エノラートそのものを単離して一方の幾何異性体だけを精製して取り出すのは、エノラートが水分などに対して不安定なため困難である。そこでエノラートをその幾何異性を保ったまま安定な誘導体として精製し、反応させるときに再びエノラートに戻して反応させる手法が開発された。この種の安定な誘導体の代表がシリルエノールエーテルである。シリルエノールエーテルは低温下でメチルリチウムを作用させるとその幾何異性を保ったままエノラートに戻すことができる。 新たに誘起される立体化学は、基質であるエノラートとアルデヒドの構造(立体化学、水酸基の配位性の有無)、ルイス酸もしくは塩基の選択、溶媒、反応温度および反応時間により支配される。これらの因子を最適化することにより、望むジアステレオマーの選択性を向上させることが可能であり、時として単一生成物として得られることもある。
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