12.7x99mm NATO弾 概要

12.7x99mm NATO弾

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/19 05:16 UTC 版)

概要

本銃弾は第一次世界大戦中、アメリカ陸軍の求めに応じてジョン・ブローニングが開発に着手した。実包の構成は1906年に正式採用された.30-06スプリングフィールド弾(.30口径、7.62 mm)を拡大したものとなっている。

寸法図

1921年に軍に正式に採用された本銃弾のデザインは.30-06弾に基づいている。この銃弾は誕生以来様々な派生型が開発されており、その一例としてフルメタルジャケット曳光弾徹甲弾焼夷弾、サボット(装弾筒)弾が挙げられる。これらの内、機関銃に使用されるものは金属製のベルトリンクに繋がれている。

機関銃に使用して援護制圧射撃を行うほか、狙撃銃に使用して長距離狙撃を行う際にも使用される。この際に使用されるのは通常の掃射用機関銃弾とは異なる高精度弾薬であり、ボルトアクション狙撃銃(主に対物ライフルといった類のもの)から発射される。

なお、本銃弾の正確な直径は巷間よく言われる0.50in(約12.7 mm)ではなく、正しくは0.51in(約13.0 mm)である。これが.50口径と呼ばれる理由は、その弾を発射する銃のライフリング(腔線)間の直径が0.50in(グルーブと呼ばれる腔線の谷間から測定した直径は0.50in(約12.7 mm)より少々大きい)からである。少し大きい理由は、発射される際に腔線に食い込むことで銃弾に旋回運動を与えてジャイロ効果によって直進性を高めるためと、発射ガスの圧力を十分に受けながら加速することができるようにするためである。

歴史

開発

第1次世界大戦への参戦の結果、装甲戦闘車両戦車)や金属製外皮を持つ全金属製航空機の登場を鑑みて、より大威力の機関銃が必要だと考えたアメリカ外征軍総司令官ジョン・パーシング将軍は、当時のアメリカ軍の標準弾薬であった.30-06スプリングフィールド弾(.30口径(7.62 mm))を上回る口径・威力の弾薬とそれを用いる火器の開発を要求した[1]。パーシングからの要求の他にも、前線からは砲兵戦闘において大きな脅威となる敵の砲兵観測気球を射撃できる歩兵部隊用の高精度かつ長射程・大威力の火器が求められていたこともあり、これらの要求を包括できる新弾薬(およびそれを使用する銃)の実用化が急がれた。

この要求に対し、観測気球を射撃することを目的に進められていた弾薬の研究から、まずはフランスおよびイギリスで対気球攻撃に用いられていた11×59mmR Gras弾(英語版)の導入が検討されたが[2]、これは威力の面でパーシングの要求を満たせず[2]、次いで.30-06スプリングフィールド弾を基に拡大化した.50口径(12.7 mm)の弾薬が開発されたが、これも要求に対して能力不十分であった[2]

このような状況下、ドイツの開発した世界初の対戦車ライフルであるマウザー M1918 "タンクゲヴェール"(Mauser M1918 "Tankgewehr")とその使用弾薬である13x92mmTuF弾ドイツ語版を鹵獲したものがもたらされ、この弾薬の性能は要求仕様を十分に満たしていたことから、これをコピーして使用するかどうかの議論があった。分析の結果、13.2 mm弾は連続撃発に適していない点、また対空・対戦車・対人と多目的に使用できる銃弾という意図から対戦車ライフル弾である13.2 mm弾とは用途が異なる点も理由に挙げられた[注 1]。最終的には.30-06弾の拡大形を基本として13x92mmTuF弾を参考にしつつ独自開発したものがウィンチェスター社により.50 BMG弾として完成した[3]

運用

.50 BMG 12.7x99mm弾を用いる機関銃はブローニング自身が20世紀の始めに開発したM1917機関銃を拡大改設計して開発し、この結果誕生したのが“ブローニング・ウィンチェスター.50口径重機関銃(Browning Winchester Cal.50 Heavy Machine Gun)”で、その制式採用型であるM1921重機関銃とM1921の改良発展型であるブローニングM2重機関銃であり、とりわけM2機関銃は銃架に搭載した重機関銃や車両搭載機関銃、そして航空機搭載型のAN/M2が第二次世界大戦P-51などの戦闘機に搭載され盛んに使用された。M2から発射される12.7x99mm弾の焼夷弾は対航空機に、徹甲弾はコンクリート製のトーチカや軽装甲車両の破壊に特に優れた威力を発揮した。

.50 BMGおよびそれを用いる火器は、1921年にアメリカ軍に採用されて以来現在に至るまで多目的な火力支援火器として現役である。現在では世界各国の軍隊で使用されている。対空用途という点では、第二次世界大戦以後、航空機が高速化するにつれ追従が難しくなっていったが、代わって対ヘリ用途に有効性が認められており、軽装甲車両や歩兵中隊の自衛用火器として機能している。対戦車用途では登場当時の薄い装甲には有効性があったが直ぐに通用しなくなった。しかし軽車両には有効であることには現代でも変わりない。対人用としては威力が高すぎるものの、長距離の弾道性が優れているため火力支援用に用いられている。貫通力の高さから障害物ごしに敵兵を殺傷するという使い方もされる。

また、現代では1 kmを超えるような超長距離射撃にも活躍している。この口径の銃を用いる狙撃銃は対物ライフルと呼ばれ、かつて対戦車ライフルと呼ばれていた銃と同カテゴリである。なお、この弾薬で狙撃された兵士の遺体は激しく損壊されるため、ハーグ陸戦条約が定める不必要な苦痛を与える兵器に該当するのではないかという意見もある。もっとも、さらに高威力の兵器は無数にあるため、現実的な批判とはみなされておらず、各国軍は配備・使用を続けている。

フォークランド紛争での運用と狙撃運用説について

フォークランド紛争におけるフォークランド諸島奪還において、アルゼンチン軍は陣地の防衛にしばしば本銃弾を使用するブローニングM2重機関銃を用い高い効果を挙げた。いっぽうイギリス軍の地上部隊は同クラスの機関銃を配備していなかったことから、汎用機関銃で支援された偵察兵を遮蔽物に沿って一人ずつ前進、火点をあぶりだしてミラン対戦車ミサイルや手りゅう弾による攻撃、あるいは銃剣突撃による直接攻撃を敢行するという対応を余儀なくされた[4][5]

なお、この時のアルゼンチン軍の重機関銃運用を、通常の射撃ではなく「単発撃」であったとする記述が一部の和文文献に見受けられるが[6][7][8]、フォークランド紛争、狙撃銃、狙撃手などに関する英文の文献やその和訳書[9][10][11][12]には、「アルゼンチン軍による重機関銃を用いた単発撃」についての言及が見当たらない。また「フォークランド紛争での重機関銃運用の戦訓がきっかけとなって対物ライフルが開発された」とする説も、一部の和文文献のみに見受けられ[6][8]、英文文献やその和訳書[9][10][11][12][13]では言及されていない。

威力

左から12.7x99mm NATO弾、.300ウィンチェスター・ショート・マグナム弾、7.62x51mm NATO弾7.62x39mm弾5.56x45mm NATO弾.22ロングライフル弾

通常、の威力を検証する際には銃口威力(マズルエナジー)が測定される。第二次世界大戦においてアメリカ軍の歩兵装備であったM1ガーランドに使用され、現在においても広く狩猟用ライフル銃に使用されている30-06ライフル弾のマズルエナジーは2 000 - 3 000Feet・Pound(2711 - 4067 ジュール)という単位で表される。

一方、本銃弾の威力は10 000 - 13 000Feet・Pound(13 558 - 17 625 ジュール)以上とされる。ただし、これは銃弾やそれを撃ち出すライフルの種類によって大きく異なる点に注意が必要である。なお、弾道特性として弾道係数英語版が大きいため、他の小口径や軽量弾よりも風に流されることが少ない特徴もある。


注釈

  1. ^ ソビエトでは12.7x108mm弾を使用するDShKNSVといったよく似たコンセプトに基づく車両搭載型機関銃が開発されたほか、より強力な14.5mm口径のKPV重機関銃も開発された。
  2. ^ a b 開発中止

出典

  1. ^ Chinn 1951, pp. 181–182
  2. ^ a b c Chinn 1951, p. 182
  3. ^ Chinn 1951, p. 186
  4. ^ 柳澤潤、宮原靖郁 (2014). “第9章 陸上作戦の観点から見たフォークランド戦争”. フォークランド戦争史. 防衛研究所. pp. 299-318 
  5. ^ Nicholas van der Bijl (2014). Nine Battles to Stanley. Pen & Sword Military. p. 172-173. ASIN B00WQ4QSRW 
  6. ^ a b 床井雅美『アンダーグラウンド・ウェポン 非公然兵器のすべて』日本出版社、1993年、135頁。ISBN 4-89048-320-9 
  7. ^ あかぎひろゆき『40文字でわかる 銃の常識・非常識: 映画の主人公の銃の撃ち方は本当に正しい?(Kindle版)』Panda Publishing、2015年。ASIN B00TG26T6C オンライン版、Google Books)
  8. ^ a b 大波篤司、福地貴子「No.037 コンクリートの壁をも撃ち抜く狙撃銃とは?」『図解 スナイパー』新紀元社、2016年、83頁。ISBN 978-4775314333 オンライン版、Google Books)
  9. ^ a b Martin Pegler (2010). Sniper Rifles: From the 19th to the 21st Century. Osprey Publishing. p. 62. ISBN 9781849083980 オンライン版、Google Books)
  10. ^ a b Martin J Dougherty (2012). Sniper: SAS and Elite Forces Guide: Sniping skills from the world's elite forces. Lyons Press. p. 70. ISBN 9780762782840 オンライン版、Google Books)
  11. ^ a b ピーター・ブルックスミス(著)、森真人(訳)『狙撃手(スナイパー)』2000年、15-18頁。ISBN 978-4562033621 
  12. ^ a b パット・ファレイ、マーク・スパイサー(著)、大槻敦子(訳)「フォークランド戦争の狙撃手」『図説 狙撃手大全』原書房、2011年、262-271頁。ISBN 978-4562046737 
  13. ^ Chris McNab (2016). The Barrett Rifle: Sniping and anti-materiel rifles in the War on Terror. Osprey Publishing. ISBN 978-1472811011 






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