水面 水面と心

水面

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/20 13:07 UTC 版)

水面と心

カラヴァッジオ 『ナルキッソス』
水面に映る自身の姿をみつめるナルキッソス
説話集 『パンチャタントラ』の挿絵

水面は、人類史上最も古くから用いられたであろう、自然の映し鏡である。古代中国においても水鏡が使われていた。瓶や水盤に水を張って覗き込む。おだやかな水面は光を鏡のように反射する。が発明された後でも鏡を所有できたのは一部の人に限られていて、ほとんどの人にとって水面は自らの姿を確かめられるほとんど唯一の手段であった。

20世紀に、鏡を覗き込むことで自我が生まれるとする説を主張した精神医学者がいたが、彼は水面を覗き込んだナルキッソスの話にも言及した[注 3]ギリシア神話に登場するナルキッソスの物語は、いくつかヴァリエーションがあるが、美しい少年が水面に映る自分の姿に見惚れて、想いが満たされぬままにやつれ死んでいったとし、後には水仙の花が残っていた、あるいは水仙に化した、などとするお話である。

イソップ寓話の『犬と肉』では、肉をくわえながら橋を渡ろうとしたが橋下の水面を見て、自分だとは気づかず他の犬だと思い、その犬がくわえている肉まで欲しくなり吠えたところ、自分が口にくわえていた肉を落として失ってしまった、というお話である。200年頃に編まれた古代インドの説話集『パンチャタントラ』にも非常によく似た物語がある。

乗り物と水面

船舶

船舶は排水型と滑走型に分類され、排水型は水面下に船体があり水をかきわけるように進み、滑走型は水面上を滑るように進むものである。

滑走型のものにはモーターボートウィンドサーフィン水上オートバイなどがあり、高速移動時に滑走(プレーニング)状態になる。ヨットも一部にプレーニングをするものがある。また、水中翼船は揚力によって水面を滑走する。

遊具

水上スキーや、娯楽用浮体(バナナボートに代表される、プレジャーボート等で牽引して水上を滑走させる遊具)は、船に牽引されて水面を滑走し、疾走感を楽しむものである。サーフィンも滑走する。なお、モーターボートや水上スキーでは、人の体が水面上に投げ出され、水切り(水の石切り)と同じ状態になって滑走してしまう事故が起こる。

水上機

ブラジルの都市ナタールにある水上滑走路「ランパ (rampa)」

様々な事情によって陸上の滑走路を用意できない場合でも、水面を滑走面として用いることができるのが水上機である。

水上歩行

イエスの水上歩行
985年頃、トリーア大司教エグベルト英語版の依頼によって制作された典礼用福音書抄本『エグベルトの福音書 (de)』内の1図。
レオナルド・ダ・ヴィンチが考案した水上歩行靴のスケッチ
アメンボ(右)とロボストライダー(左)

屈斜路湖などには通称「ゼロポイント」と呼ばれる水深が0に近いポイントがあり、水面に立っているように見える場所がある[3]

動物の水面移動の項目にあるように、アメンボのように常時水面で歩行している例、水鳥のように飛翔の際に水面に助走する例、バシリスク属トカゲが高速の駆け足で短時間水面を蹴り走行することが出来る事から、下記のイエスの例から Jesus Christ lizard と呼ばれる例がある[4]

イエスの水上歩行

新約聖書』はイエス・キリストが水上を歩く奇跡を行ったと記している(イエス等の水上歩行英語版)。

ダ・ヴィンチの水上歩行靴

一大発明家でもあった15世紀イタリアのレオナルド・ダ・ヴィンチは、水上歩行用の装置の開発を模索し、そのアイディアをスケッチに残した。それは、靴に見立てた2つの大きなフロート(浮き具)を両足に履き、長い柄を具えた2つのフロートをスキーストックのように両手で持ち進むというものであった。

忍者の水上歩行術

近世日本では忍者水蜘蛛なる道具を使って水面を渡ったとされるが、実態としては派手な印象のものなどではなくて、鍛錬を要する地道な技術であった可能性が史料によって確かめられる。なお、水蜘蛛そのものを実行不可能な絵空事と見なす論説もあるが、当時であれ後世であれ流布した拡大解釈によるイメージが科学的に否定されたことを根拠に、検証が重ねられるべき原典まで否定しようとする考え方は乱暴である。とは言え、水蜘蛛の実際がどのような道具であったとしても、「イエスの水上歩行」やそれに類する奇跡的行為は、忍者がヒトである限りは不可能である。

水面移動ロボット

アメンボの生態に学んだ水面移動ロボットが開発され、発展を遂げつつある。アメリカ合衆国マサチューセッツ工科大学2003年に開発・発表したロボストライダー(en、“アメンボ・ロボ”。■右列に画像あり)[5][6]を始め、カーネギーメロン大学が開発したものや、日本の中央大学理工学部(代表者:中村太郎)が2006年に開発・発表したバッテリー搭載・自主移動型のものが知られており、将来的に注目される分野となっている[7]


注釈

  1. ^ surface waterではないことに留意。英語でsurface waterと言うのは、地表にある水(表流水)のことであり、地下水と対比される[1]
  2. ^ トビイカは滑空するとき、適度な隙間を保ちながら10本の腕を合わせて菱形を作り、揚力を生み出す翼として機能させる。コース変更が可能であるという事実に基づいて、この翼も調整に使っていると考えられる。
  3. ^ ラカン。「鏡像段階」という説。
  4. ^ 日本では、昭和時代以前の庶民的な逸話として、肥溜めに落ちる話がよく語られるが、ただの地面と見分けが付けられずに踏み抜いて嵌り込むのであり、底無し沼との共通点は多い。

出典

  1. ^ Groundwater and Surface Water” (英語). HistoryofWaterFilters.com. 2022年10月15日閲覧。
  2. ^ 忍術を使う動物”. movspec.mus-nh.city.osaka.jp. 2023年1月17日閲覧。
  3. ^ 湖面に立てる「ゼロポイント」 洞爺湖夏季限定ツアー(毎日新聞)
  4. ^ How "Jesus Lizards" Walk on Water. News.nationalgeographic.com. Retrieved on 2010-08-19.
  5. ^ David L. Hu and John W. M, Bush (2003). “The hydrodynamics of water strider locomotion”. Nature 424 (6949): 663–666. doi:10.1038/nature01793. PMID 12904790. 
  6. ^ WATER-WALKING” (英語). (official website) (2003年8月16日). 2011年12月22日閲覧。
  7. ^ 森山和道 (2006年6月20日). “ミミズにアメンボ、カタツムリ~生物に学び、安全なロボットを目指す -中央大学 バイオメカトロ研究室訪問-”. (公式ウェブサイト). 2011年12月22日閲覧。






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