所得税法 課税単位

所得税法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/23 07:12 UTC 版)

課税単位

所得税の課税単位(税額算定の基礎となる人的単位、担税力の測定単位)を個人とする個人単位主義と家族(夫婦)を単位とする家族単位主義夫婦単位主義)がある。

個人単位主義は家庭内で恣意的な所得分割による累進課税の軽減、排除が行われることがあるという欠点を持つ。家族単位主義も家族(夫婦)が同じ消費単位で共同生活をしているという実態には即しているが、既婚者に比べ独身者の税額が高くなりがちなため税制の婚姻中立性に反する。

日本の所得税法は個人単位主義を採用し、上記の欠点を克服するために、事業主が家族に支払った対価を必要経費に算入できないようにする規定がある(56条)。また、所得控除の一部(配偶者控除、扶養控除など)も家族制度を前提とした規定が採られている。

納税者

納税義務者

「国税(源泉徴収による国税を除く)を納める義務がある者」(第5条)。本来の納税義務者。

個人

所得税法には人的非課税(人的課税除外)は定められておらず、すべての個人は課税要件が定められれば、所得税の納税義務を持つ。外交官は例外的に納税義務がない(外交関係に関するウィーン条約)。

居住者
日本国内に住所を有し、または現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう(第2条第1項第3号)。ここで言う「住所」は生活の本拠をいい、住居、職業、資産の所在、親族の居住状況、国籍などの客観的事実によって判定される。「居所」は、生活の本拠には至らないがその者が現実に居住している場所をいう(民法第22条及び第23条)。
非永住者
居住者のうち日本国籍がなく、かつ過去十年以内の間に日本国内に住所又は居所を有していた期間の合計が五年以下である個人をいう(第2条第1項第4号)。非国外源泉所得、国外源泉所得で国内において支払われたもの、国外源泉所得で国外から送金されたものに対し課税する。
永住者
非永住者以外の居住者をいう。全ての所得(全世界所得)が課税対象。
非居住者
居住者以外の個人をいう(第2条第1項第5号)。国内源泉所得に課税。

法人

内国法人
国内に本店または主たる事務所を有する法人である(第2条第1項第6号)。内国法人課税所得(源泉徴収の対象となる利子・配当)を源泉徴収する義務を負う(第174条)。
外国法人
内国法人以外の法人である(第2条第1項第7号)。外国法人課税所得(日本国内の源泉ある所得で源泉徴収の対象となる所得)を源泉徴収する義務を負う(第175条)。

源泉徴収義務者

源泉徴収義務者とは、「源泉徴収による国税を徴収して国に納付しなければならない者」である(第6条)。

全ての個人又は法人について、人を雇って労働契約に基づく給与を支払い、退職金を支払い、又は役務等について報酬・料金・契約金・賞金を支払った場合、若しくは第174条・第175条に定める所得がある場合には、原則として支払金額に応じた所得税を差し引き、支払った月の翌月10日までに国庫に納める義務がある(第183条~第189条)。また、支払確定日の属する年の翌年1月31日までに関連する法定調書を作成し、所轄の税務署長に提出する義務がある。給与の支払者には被雇用者に対し年末調整を行うことや源泉徴収票の交付が義務付けられている。また、非居住者の国内源泉所得についても、租税条約に特別の定めがない限り、直接の支払者が源泉徴収義務者である(第161条)。

確定申告義務

給与所得者で年末調整されている場合や年金受給者で年金収入が400万円以下の場合(他所得が20万円以下)などを除き、各種所得金額の合計から所得控除を差し引き、課税所得金額に税率を乗じて計算した算出税額から配当控除を差し引いた後に納税額がある納税者は、基本的に第三期(翌年2月16日から3月15日)までの間に所得税の確定申告が必要となる(第120条)。

納税地

所得税の確定申告書等は、提出する時点の納税地を所轄している税務署へ提出する。 この場合、納税者が日本国内に住所があれば、基本的に住民票に記載されされている住所地が納税地となる。日本国外に住所があるが日本国内に居所があれば、居所の所在地が納税地になる。また、事業所等も保有している場合は、事業所等の所在地を納税地に選択できる。 なお、死亡した者の準確定申告の場合は、死亡した者の死亡当時の住所地が納税地となる(申告義務を課される相続人の住所地は関係ない)[9]

源泉徴収義務者(個人事業主、法人)の納税地は、原則として、源泉徴収の対象となる所得を支払う事務所や事業所等の所在地となる[10]

所得の種類

日本では、居住者の所得を次の10種類に区分している。

恒常性所得

資産性所得

利子所得(第23条)
公社債利子預貯金の利子、合同運用信託の収益の分配、公社債投資信託の収益の分配、公募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る所得をいう。利子所得の起因となる資金出所(預貯金など)は問われない。限定列挙。
配当所得(第24条)
法人からの剰余金配当、法人からの利益の配当、法人からの剰余金の分配、法人からの基金利息、投資信託の収益の分配、特定目的信託の収益の分配に係る所得をいう。限定列挙。
不動産所得(第26条)
不動産、不動産の上に存する権利(地上権永小作権・地益権などの物権)、船舶航空機の貸付による所得をいう。事業者の建物貸付けやリース取引に関しては消費税法上の課税資産の譲渡等に該当する。

勤労性所得

給与所得(第28条)
俸給給料賃金歳費賞与、およびこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。
退職所得(第30条)
退職手当一時恩給その他の退職により一時に受ける給与およびこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。分離課税が採られる。

資産性所得と勤労性所得が結合

事業所得(第27条)
農業漁業製造業卸売業小売業サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得・譲渡所得に該当するものを除く)をいう。消費税等の間接税及び事業税とに関わる所得である。
山林所得(第32条)
山林(立木法参照)の伐採譲渡による所得をいい。分離課税・五分五乗方式が採られる。

臨時所得

平均課税制度が適用される(第90条)

譲渡所得(第33条)
資産の譲渡(建物・構築物の所有を目的とする地上権賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む)による所得である。ただし、土地及び土地の上に存する権利、又は建物構築物の譲渡については、申告分離課税であるため、総合課税所得との損益通算が原則不可である(租税特別措置法第31条、第32条)。ただし、特定居住用財産(平成16年以後令和5年までの各年分において5年超の所有期間があるもの)の譲渡について発生した純損失があり、かつ住宅借入金等特別控除(租税特別措置法第41条)を適用する買換資産がある場合についてのみ損益通算(第69条)が可能である(租税特別措置法第41条の5)。また、上場株式等の譲渡所得については、一般口座及び簡易申告口座保管のものは申告分離課税であり、源泉徴収口座保管のものは源泉分離課税である。
一時所得(第34条)
上記の所得以外で営利目的の継続的行為から生じた所得以外で、役務(労務など)・資産譲渡の対価性を持たない所得。一時的かつ偶発的な所得である。ただし、源泉分離課税対象のものもある。

その他

雑所得(35条)
上記の所得のいずれにも該当しない所得。「公的年金等に係る雑所得」、「業務に係る雑所得」と「その他の雑所得」に分けられる。

非課税所得

下記の所得は社会政策その他の見地から所得税が課されない(第9条ほか)[11]


注釈

  1. ^ 調整所得金額に対する1号税額の割合。

出典

  1. ^ 谷口勢津夫『税法基本講義』第2版171ページ
  2. ^ 増井良啓『租税法入門』87ページ
  3. ^ 所得税法 (明治20年3月23日勅令第5号)は、廃止
  4. ^ 第48国会衆議院会議録第1号 1965年2月26日
  5. ^ 第113回国会 衆議院本会議 第8号 (昭和63年9月22日)所得税法等の一部を改正する法律案の大蔵大臣の趣旨説明”. 国会会議録検索システム. 国立国会図書館 (1988年9月22日). 2020年1月31日閲覧。
  6. ^ 所得税法等の一部を改正する法律(昭和63年12月30日法律第109号)
  7. ^ 増井91ページ
  8. ^ 谷口233ページ
  9. ^ No.2029 確定申告書の提出先(納税地)|国税庁
  10. ^ No.2532 給与等に係る源泉所得税及び復興特別所得税の納税地|国税庁
  11. ^ No.2011 課税される所得と非課税所得|国税庁
  12. ^ 谷口勢津夫『税法基本講義』第2版225 - 230ページ
  13. ^ No.2220 総合課税制度国税庁
  14. ^ 谷口272ページ
  15. ^ a b No.2250 損益通算|所得税|国税庁
  16. ^ 第7節 損益通算及び損失の繰越控除 - 所得税法(令和2年度版)|税大講本|税務大学校|国税庁
  17. ^ 谷口304ページ
  18. ^ 谷口305ページ
  19. ^ 申告納税者の所得税負担率(平成19年分) 国税庁「平成19年分申告所得税標本調査(税務統計から見た申告所得税の実態)」より
  20. ^ 国税庁 No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)






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