十勝国 十勝国の概要

十勝国

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/04 10:17 UTC 版)

十勝国の範囲(1869年8月15日)

名称の由来

現在の十勝川に由来するアイヌ語の「トカㇷ゚チ(tokapchi)」という語に由来し、幕末・明治にかけて活躍した探検家、松浦武四郎1870年(明治2年)に明治政府に提出した「国名建議書」において、「元名トウカプ。訳て之儀。此川東西二口に分れ、乳の出る如く絶せぬが故に号しと申伝え候」と提案し、採用されたものである[1]

「十勝」の原義について

「十勝(トカㇷ゚チ)」の名称はこのように十勝川下流域の地名から生じた地名と考えられているが、松浦武四郎自身も『報登加智日誌』(未刊)の冒頭で「土人是をトウカブチと云り。何れの原名なるやをしらず」と書くなど、発祥地・原義も忘れられており、上記も含め様々な説が出されている[1]

アイヌ語研究者の山田秀三は、秦檍麻呂、上原熊次郎、松浦武四郎の3者が記述した説を基に下記の2説を考案している[1]

  • 「トカプシ(tokap-usi)」(乳房・あるところ)
  • 「トカ(オ)ㇷ゚チ(to-ka〔-o〕-p-chi)」(沼・辺り〔・にある〕・処・枯れる)

また、永田方正は「トゥカㇷ゚チ(tokapchi)」は幽霊の意、としているが、これについて山田は「トカㇷ゚チは十勝アイヌが誇りを以て読んでいた名」「他地方のアイヌが、語呂合わせみたいに悪名にしていった言葉であろう」として否定的な見解を示している[1]。また、永田は「トカㇷ゚チ」は本来のアイヌ語名を「シアンルㇽ(shi-an-rur)」(遠き彼方の海浜)である、としているが、これについても山田は「他地の人の呼んだ名」であるとしている[1]

沿革

ここでは十勝国成立までについても記述する。

鎌倉時代から室町時代にかけて、蝦夷沙汰職・蝦夷管領は、北海道太平洋岸におり日の本[注釈 1]と呼ばれる蝦夷(えぞ)を統括していた(『諏訪大明神絵詞』)。

江戸時代松前藩によって場所と呼ばれる知行地が開かれ松前藩家臣と蝦夷との交易が行われた。藩の出先機関の機能も兼ね備えた運上屋では、撫育政策としてオムシャなども行われた。制度的な詳細は商場(場所)知行制および場所請負制を、漁場の状況については北海道におけるニシン漁史を参照されたい。十勝国域にはトカチ場所が開かれていた。

江戸時代から明治時代初頭の交通について、陸上交通[2]は、渡島国箱館から千島国方面に至る道(沿岸部の広尾郡から十勝郡東端まで国道336号の前身、釧路国との国境付近からは国道38号の前身)の途上であったが、一部地形が険しい難所があったため、寛政10年幕吏近藤重蔵によって広尾郡の西隅にあたるビタタヌンケとルベシベツの間2里(7.9km)にルベシベツ山道が開削された。十勝神社には、重蔵の従者下野源助が山道開削について記録し、蝦夷が作った碑文が奉納されたが、この碑文は現在、広尾町タニイソトンネル北側坑口の海側に立つ碑で見ることができる。また十勝国内の河川には政時代から廃使置県までの間6箇所の渡船場数があり渡し船なども運行されていた。

江戸時代初期寛文9年6月、日高国域を中心に蝦夷が蜂起したシャクシャインの戦いによって十勝国域内でも和人が殺された。また、蝦夷アイヌ)同士による戦いも行われており、今から二百年ほど前に十勝に侵入した北見アイヌ(または日高アイヌ)と十勝アイヌの戦いがチョマトー(河西郡域、現帯広市)で行われたという伝説がある。また、蝦夷の人々の間では古くから芽登温泉が知られていたという。

江戸時代後期、十勝国域は東蝦夷地に属していた。国防のため寛政11年東蝦夷地は公議御料幕府直轄領)とされたが、文政4年には一旦松前藩領に復したものの、安政2年再び公議御料となり仙台藩が警固を担当した。その他、安政4年には上川郡域で十勝岳が噴火(安政噴火)。安政6年には6藩分領で十勝国を領国に加えた仙台藩によって広尾に出張陣屋のひとつトカチ陣屋が築城されている。

  • 明治2年(1869年)8月15日に十勝国7郡が制定され、51村が属した。また、同年7月から明治4年(1871年)8月の廃藩置県まで道外の華族によって分領支配される。
  • 明治15年(1882年)2月8日、廃使置県にともない札幌県の所管となる。

注釈

  1. ^ メナシクルの祖先にあたる。

出典

  1. ^ a b c d e 山田秀三 『北海道の地名』(2版)草風館、浦安市〈アイヌ語地名の研究 山田秀三著作集 別巻〉、2018年11月30日、286頁。ISBN 978-4-88323-114-0 
  2. ^ 『北海道道路誌』北海道庁 大正14年(1925年)6月10日出版


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