ユルリ島 概要

ユルリ島

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/31 14:51 UTC 版)

概要

ユルリ島は、エトピリカチシマウガラスケイマフリをはじめとする国内有数の北方系海鳥の営巣地となっている。そのため、隣のモユルリ島とともに、1982年昭和57年)3月31日に国指定ユルリ・モユルリ鳥獣保護区(集団繁殖地、総面積200ha、うち特別保護地区31ha)に指定されている。また、北方を代表する自然草原として代表的な植物をほとんど網羅しているため、植物学的にも大きな関心が持たれている。北海道により天然記念物に指定されているため、メディアをはじめ人の立入りは禁止されている。

地形・地質

ユルリ島は、島の北側に標高40mの平坦面があり、その南側に標高30m~20mの平坦面が発達している[1]。また島の内部には高層湿原が発達しており、そこから流れ出す小河川が散在している。

島全体が海食崖に囲まれており、浜は島の北岸のイシカラ浜、北東の入り江にあるカショノ浜の2箇所のみであり、かつて昆布番屋に利用されていた。また、カショノ浜には島で最も大きな河川が流れ込んでいる。

島の基盤を構成する地質は、根室層群の中の最上部を構成するユルリ累層(ユルリ層)[注 1]から成り、その走向・傾斜はN40°~60°E・20°SEを示す。ユルリ累層の岩質及び岩相は、主として火山円礫岩、集塊岩英語版溶岩礫岩などから構成され、砂岩泥岩をはさんでいる。ユルリ累層の砂岩や泥岩中には化石がまれに産出するが保存状態の良い物は少ない。また、厚さ10cm程度の良質の石炭がレンズ状にはさまれている。基盤のユルリ累層の上位を更新世海岸段丘堆積物が薄く覆い、さらに上位を完新世の風成火山灰層が覆い平坦面を成している[注 2]

ユルリ島の歴史

ユルリ島は古くから船の泊地として知られ、天明年間(1781〜1789年)の初めの頃に書かれた古い文献に登場する。

文化年間(1804〜1818年)以前にはアイヌがユルリ島に住居し、魚を獲っていたという記録が残っている。

江戸時代(1798年)、高田屋嘉兵衛が、航路安全を計りユルリ島に根室初の金刀比羅神社を創祀。天保14年(1843年)、根室市穂香に移転。

明治時代(1868〜1912年)の初め頃から、漁家約9戸がユルリ島に渡り昆布を採っていた。

大正5年(1916年)には北日本養狐場が、ユルリ島で銀狐の飼育をはじめるが約10年で閉鎖。戦時中には軍が放牧養狐をおこなっていたという証言が残っている。島には砲台も整備されたが後に撤去されたと言われている。散兵壕と思われる土塁跡は現在も島に残っている。

大正時代(1912〜1926年)の終わり頃からユルリ島では放牧がおこなわれる。ユルリ島での馬の放牧は約100年の歴史をもつ。第二次世界大戦戦後のユルリ島の馬の歴史は#ユルリ島の馬を参照。

昭和38年(1963年)、ユルリ島が北海道により天然記念物に指定される。しかし島民の生活や馬の放牧が規制されることはなかった。

昭和46年(1971年)、ユルリ島から人が去り無人島となる

年表

  • 1849年 「北海道」の名付け親である松浦武四郎が国後・択捉島へ渡る際、ユルリ島で停泊する。
  • 1869年 「蝦夷地」に代わる名称として「北海道」と命名される。
  • 1882年 北海道開拓使が廃止され、函館県、札幌県、根室県の3県が誕生する。
  • 1921年 国鉄根室駅が開業する。
  • 1945年 北海道空襲の際に根室市内の大半が焼失し壊滅的被害を受ける。8月9日にソ連が有効期限内であった日ソ中立条約を一方的に破棄し、千島列島国後島択捉島色丹島歯舞群島が次々にソ連に不法占拠される。
  • 1950年 昆布の干場を求めて漁師がユルリ島へ移住する。
  • 1951年 昆布漁の労力としてユルリ島に馬が持ち込まれる。
  • 1960年 ユルリ島灯台点灯
  • 1963年 ユルリ・モユルリ島が北海道により天然記念物に指定される。
  • 1971年 ユルリ島から人が去り無人島となる。
  • 1976年 ユルリ島が北海道自然環境保全地域に指定される。
  • 1982年 ユルリ・モユルリ島が国の鳥獣保護区に指定される。
  • 2001年 ユルリ島が環境省選定の「日本の重要湿地500」に選ばれる。
  • 2006年 ユルリ島から牡馬がいなくなり、島の馬は消えゆく運命となる。

注釈

  1. ^ 根室層群は、その下部からイノセラムスアンモナイトの化石が発見されていることよりかつては根室層群全体が白亜系とされた[1]が、根室層群上部から新生代古第三紀暁新世ダニアン有孔虫化石が発見され[2][3]てから層序・年代の見直しが進み、君波(1978)はユルリ累層を根室層群上部の霧多布層に対比した。さらに、Okada et al. (1987)が霧多布層からダニアンのナンノ化石(: nannofossil)を報告していることから、ユルリ層もダニアンの地層(ダン階)とされている[4][5]
  2. ^ 本段落は、ユルリ層の層序・年代に関する注釈以外は原則、三谷ほか(1958)を参照している。

出典

  1. ^ a b 三谷ほか(1958)
  2. ^ 浅野(1962)
  3. ^ Yoshida (1967).
  4. ^ 君波(2010)
  5. ^ 産総研の20万分の1日本シームレス地質図(全国版)V2(地質図Navi)の当該地層の凡例
  6. ^ 「根室沖の無人島ユルリ島で野生馬の間引き」北海道新聞(2006年11月4日)
  7. ^ 「厳寒、雌馬生き抜く 根室・ユルリ島」北海道新聞(2013年2月14日)
  8. ^ ユルリ島 ウェブサイト
  9. ^ 「写真家・岡田敦さん 消えゆく野生馬の姿残したい」毎日新聞(2016年9月8日)
  10. ^ 「写真家岡田敦、消えゆく馬を写す 〜ユルリ島の野生馬〜」NHK(2013年4月5日)
  11. ^ 「ユルリ島の馬 撮り続ける 生活の証し後世に」北海道新聞(2013年04月01日)
  12. ^ 「写真家岡田敦、消えゆく馬 無人島で追う 残りは雌ばかり6頭」朝日新聞(2013年04月03日)
  13. ^ 「北の無人島 野生馬活写」東京新聞(2014年04月03日)
  14. ^ 「(各駅停話1023)JR花咲線(4)昆布盛 無人島、馬だけが残った」朝日新聞(2017年9月19日・朝刊)
  15. ^ a b c d e f 田中 (1973)
  16. ^ a b 橘ほか(1997)
  17. ^ 守田(2001)
  18. ^ ツルコケモモも参照
  19. ^ 環境省レッドリスト2017
  20. ^ 根室市教育委員会(2007)
  21. ^ 北海道自然環境局. 2001. 北海道レッドリスト植物編
  22. ^ a b 鈴木ほか(2016)
  23. ^ 【HTBセレクションズ】ユルリ島と、残された馬 - YouTube(北海道テレビ放送(2017年11月14日公開))
  24. ^ 芳賀 (1973)
  25. ^ 国指定鳥獣保護区一覧 < 環境省公式サイト
  26. ^ ユルリ・モユルリ島海鳥繁殖地 < 文化遺産オンライン
  27. ^ 自然環境保全地域等 | 環境生活部環境局自然環境課 < 北海道庁公式サイト
  28. ^ 生物多様性の観点から重要度の高い湿地 < 環境省公式サイト
  29. ^ 日本野鳥の会 : IBA(重要野鳥生息地)選定事業 < 日本野鳥の会公式サイト
  30. ^ 毎日新聞「ドブネズミ駆除作戦で海のカナリア増加」2017年3月21日
  31. ^ 毎日新聞「馬はなぜ死んだのか」2017年04月03日
  32. ^ 読売新聞「ドブネズミ根絶可能性 根室ユルリ、モユルリ島」2016年12月08日
  33. ^ 「写真家・岡田敦さん 写真の町東川賞」北海道新聞(2017年5月1日)
  34. ^ 「岡田敦さん 写真の町東川賞」毎日新聞(2017年5月6日)
  35. ^ 「岡田敦さんに特別作家賞」根室新聞(2017年5月10日)
  36. ^ 「写真家・岡田敦さん 東川賞受賞」北海道新聞(2017年5月11日)
  37. ^ 「稚内生まれ岡田さん 東川賞特別作家賞に」朝日新聞(2017年5月18日)
  38. ^ 「ほっかいどうアート紀行 消えゆく馬を捉える岡田敦」朝日新聞(2017年8月23日)
  39. ^ NHK金曜特集 「高倉 健・北帰行」 ―さらば道産馬― | 番組表検索結果詳細 | NHKクロニクルも参照。
  40. ^ 番組詳細 グリーンチャンネル ヒュ馬ンアワーセレクション (2011/12/08 13:00 ~ 2011/12/08 14:00)
  41. ^ 番組詳細 グリーンチャンネル ヒュ馬ンアワーセレクション #38「ユルリ島~野生馬との新たな出会い~」制作:1999年 (2016/09/30 09:30 ~ 2016/09/30 10:30)
  42. ^ さわやか自然百景 - NHK - ウェイバックマシン(2018年8月18日アーカイブ分)、さわやか自然百景 「北海道 ユルリ・モユルリ島」 | 番組表検索結果詳細 | NHKクロニクル
  43. ^ さわやか自然百景 2018/08/27(月)16:05 の放送内容 ページ1 | TVでた蔵






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