ミッフィー ミッフィーの概要

ミッフィー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/15 04:53 UTC 版)

アムステルダムのナインチェグッズ専門店。ガラス窓右方に「NIJNTJE」の文字が見える。

原語のオランダ語でのキャラクター名はナインチェ・プラウス(: Nijntje Pluis, [ˈnɛintʲə ˈplœys])。

2017年2月時点で、絵本の日本国内シリーズ累計発行部数は5,000万部を[1]、全世界シリーズ累計発行部数は8,500万部をそれぞれ突破している[1]

誕生

ディック・ブルーナの出身地であるユトレヒト市内にあるナインチェ広場には、次男マルクが制作したナインチェのが建てられている
ロッテルダムヨーロッパ名声の歩道オランダ語版に展示されていたディック・ブルーナの手形

作者のブルーナは、アンリ・マティスフェルナン・レジェに影響を受け[2]オランダ抽象美術運動「デ・ステイル」の傾向を色濃く受け継ぐ画家志望の青年だった[3]。しかし結婚にともない1952年7月から父親が経営するA・W・ブルーナ&ズーン社(以下、ブルーナ社)の正社員となり[4]、フルタイムのデザイナーとしてシンプルな色遣いと印象的なデザインを用いて同社の刊行するミステリ小説のレーベル「ブラック・ベア」シリーズの装幀ポスターなどを大量に手がけていた[5][6][7]。 そして、1950年代当時には文章が中心で挿し絵絵画調の絵作りが当然とされていた児童向けの絵本に、自分のデザインと同様の、シンプルで抽象化された描線と形、原色の色づかい[注釈 1]、余白を生かしたデザイン手法を持ち込み[9]擬人化された小ウサギ主人公たちの日常生活を描写した新しいタイプの[要出典]絵本を書き上げた。ブルーナはその主人公に、オランダ語で小ウサギを意味する konijntje (ウサギ konijn指小辞 -tje)の短縮形である Nijntje という名前を与えた。

こうしてミッフィーは1955年6月にブルーナ社発行の絵本『NINTJE(ちいさなうさこちゃん)』として初めて世に出たが、顔は正面ではなく耳も斜め、視線が読者に向けられていないなど、のちのミッフィーのデザインとは大きく異なる見た目だった[10][11]。また、絵本そのものの形状も長方形で、ページにおける絵と文章の配置ものちのシリーズとは違っていた[12]。8年後の1963年、絵本『ちいさなうさこちゃん』『うさこちゃんとどうぶつえん』の改訂版(第2版)発行に際してミッフィーのデザインはほぼ現在の様式へと大きく変更され、さらに以降も年代によって輪郭に丸みを強めるなど小さな変化を重ねていった[10][13][14]。 この改訂版から本の形も現在まで踏襲される正方形となり、見開きの片側ページに4行ほどの文章、片側ページに絵を配置する体裁となった[15][16][注釈 2]

名前

日本では、母国と同じナインチェと呼ばれる機会は少なく、以下の2種のいずれかの名で呼ばれる[24]

名称 出典 日本での初出 由来
うさこちゃん 福音館書店刊行分など 1964年 訳者石井桃子による訳語[24]
ミッフィー 講談社刊行分、テレビアニメなど、福音館書店以外のほぼ全ての媒体 1981年 1964年イギリス英語訳版が発売される際に付けられた英語風の名前

「miffy(ミッフィー)」という英訳は英語の出版社のオリーブ・ジョーンズという人物のもので、ディック・ブルーナは意味は知らないとしているが、自身も納得した命名であるとしている[25][24]

日本においてもナインチェという名前がまったく使用されていないわけではなく、例えばフェリシモの商品カタログ「ミッフィーとおともだち」(2003年に休刊)では、オランダ直輸入のキャラクター商品に対して「ナインチェ」が使われていた。また、オランダをテーマとするテーマパークのハウステンボスには古くから関連商品の専門ショップ「ナインチェ」があり[26]2022年(令和4年)12月1日には世界最大級のミッフィー専門店体験型ショップ&カフェ「nijntjeナインチェ」オープンした[27]

なお、Nijntje に対するカナ転写には、ナインチェネインチェの両者が見受けられ[注釈 3]かつて福音館書店のサイトでは「インチェ」と表記されていたが[28]、2024年現在は「ナインチェ」表記となっている[29]。また、Pluis に対するカナ転写には、多くプラウスが用いられており、上記の福音館書店も「プラウス」と表記している[28][注釈 4]

ミッフィーの絵本は世界約50カ国語以上に翻訳されて親しまれているが[1]、多くの国では英語版の名称であるmiffyが使われている。オランダ[30]ベルギールクセンブルクではオリジナル名である「ナインチェ」の名前で発行されている[要出典]。フランス語、アフリカーンス語では1996年以降にミッフィーに変更されている[注釈 5]。日本においては、90年代に翻訳を行っていた講談社は国際ルールに従ってミッフィーと訳したほか、キャラクターブームによりミッフィーの呼び名が定着したと言われており、朝日新聞社の主催した展示でも広く親しまれているという判断から「ミッフィー展」という名称が選ばれている[32]。原典の絵本に関しては先訳である「うさこちゃん」に現在は統一されている。

2005年(平成17年)4月時点で、絵本の日本でのタイトル数は福音館書店発行の「うさこちゃん」シリーズが14冊、講談社刊行の「ミッフィー」シリーズが12冊。売上上位3冊のトータル部数は「うさこちゃん」が537万部、「ミッフィー」が17万5,000部と歴史の古い「うさこちゃん」が圧倒していた。2005年以降は講談社からの刊行は終了し、福音館書店の「うさこちゃん」シリーズのみが刊行されている[32]


注釈

  1. ^ ブルーナは絵本に用いる色を当初、のみとしていた(のちに茶色グレーが加えられた)[8]
  2. ^ ブルーナ社が当時は画期的であった一辺15.5センチメートルの正方形の用紙を用いた絵本としてディック・ブルーナ作品を初めて発行したのは1959年であり[17]、以降ブルーナの絵本は「わずかに例外があるものの、ほぼ正方形のみ」となった[18]。正方形の絵本は用紙使用の効率から一度に4冊を発行しており(1959年に刊行されたのは『りんごぼうや(りんごちゃん)』の改訂版、『きいろいことり』『こねこのねる』『ぴーんちゃんとふぃーんちゃん』[19])、1963年の『ちいさなうさこちゃん』『うさこちゃんとどうぶつえん』の改訂版発行に先立つ1962年にもディック・ブルーナは正方形の絵本4冊を刊行している[20]。なお、制作手法の面でも大きな変化が生じており、1955年刊行の初版『ちいさなうさこちゃん』『うさこちゃんとどうぶつえん』は鉛筆絵筆絵の具ポスターカラー)で描かれているが[21][22]、1963年の改訂版以降は透明フィルムに転写した輪郭線と色紙いろがみを用いる、いわば「はさみで描く」手法が採られている[23]
  3. ^ ij」は二重母音 /ɛi/ で発音される。いわば口を開いた「エイ」の音であるが、どちらかと言えば「アイ」に近い。当記事においては「インチェ」で統一する。ウィキメディア・コモンズの音声サンプルも参照。
  4. ^ 二重母音「ui」 の標準的発音は /œy/ であるが、この音は日本語にはない上にカナ表記が極めて難しい。さらに、オランダでも地方によって発音が違う。当記事においては「プラウス」で統一する。
  5. ^ miffy.comの記述を参照[31]
  6. ^ 誕生日の年月日について、ミッフィーの最初の絵本『ちいさなうさこちゃん』と『うさこちゃんとどうぶつえん』を出版した日だからだとブルーナは語っている[34]
  7. ^ このウサギは「バルーンチャーム」などの一部商品では「おともだち」と表記されている[39]
  8. ^ 原題だとふがこちゃんのほうが先のタイトルだが、ブルーナの著作権を管理するメルシス社の見解では本書は「うさこちゃん」の絵本ではない[40]
  9. ^ 日本からは講談社が制作に関わっている。
  10. ^ 1992年12月29日・30日にNHK総合テレビで「ブルーナのうさぎのミッフィーちゃん 1・2」として先行放送された。
  11. ^ a b 「ブルーナのおはなしちえあそび」には未収録だが後に講談社発行雑誌の「げんき」の付録としてDVD化された。
  12. ^ 2010年5月から毎月最終日曜日は「あつまれ!ワンワンわんだーらんど」を再放送する為休止。また、2013年1月6日からは「ヒピラくん」を放送する予定。
  13. ^ 毎月最終日曜は前番組の「ワンワンわんだーらんど」の放送時間の関係で休止。
  14. ^ あさひ銀行は、現在のりそな銀行および埼玉りそな銀行の前身にあたる銀行。

出典

  1. ^ a b c 涙を流す「ミッフィー」が... 生みの親ブルーナ氏死去”. J-CASTニュース. 株式会社ジェイ・キャスト (2017年2月18日). 2021年1月19日閲覧。
  2. ^ ディック・ブルーナ 2005, pp. 39–40.
  3. ^ イングマン&レイヒル 2020, pp. 15–29.
  4. ^ イングマン&レイヒル 2020, p. 35.
  5. ^ イングマン&レイヒル 2020, pp. 42–67.
  6. ^ ディック・ブルーナ 2005, pp. 48–50, 64–69.
  7. ^ 瀬名秀明 (2017年2月19日). “【追悼特別寄稿】ディック・ブルーナさんと海外ミステリー”. 翻訳ミステリー大賞シンジケート. 翻訳ミステリー大賞シンジケート事務局. 2024年2月15日閲覧。
  8. ^ ディック・ブルーナ 2005, p. 54.
  9. ^ ディック・ブルーナ 2005, pp. 54–55.
  10. ^ a b うさこちゃんの誕生”. 福音館書店. 福音館書店. 2017年2月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年4月16日閲覧。
  11. ^ イングマン&レイヒル 2020, pp. 70–72.
  12. ^ イングマン&レイヒル 2020, pp. 70–72, 77.
  13. ^ イングマン&レイヒル 2020, pp. 73–77, 84–85.
  14. ^ ディック・ブルーナ 2005, pp. 64–65.
  15. ^ イングマン&レイヒル 2020, pp. 73–79.
  16. ^ ディック・ブルーナ 2005, pp. 60–61.
  17. ^ ディック・ブルーナ 2005, p. 60.
  18. ^ イングマン&レイヒル 2020, pp. 78–79.
  19. ^ ディック・ブルーナ 2005, p. 61.
  20. ^ イングマン&レイヒル 2020, pp. 79–80.
  21. ^ イングマン&レイヒル 2020, pp. 72–76.
  22. ^ ディック・ブルーナ 2005, p. 57.
  23. ^ イングマン&レイヒル 2020, pp. 80–81.
  24. ^ a b c もちづき千代子 (2019年11月25日). “真のミッフィーファンは「うさこちゃん」と呼ぶ?真相を出版社に聞いてみた”. 女子SPA!. 株式会社扶桑社. pp. 1-2. 2024年2月14日閲覧。
  25. ^ 森本俊司 2019, pp. 43–44.
  26. ^ ナインチェ”. ハウステンボスリゾート (2007年). 2007年3月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年4月27日閲覧。 “木靴とバンダナを身にまとったオリジナルミッフィーグッズをはじめ、オランダ直輸入のものなど、1,000を超えるアイテム数と、お店の規模は、世界最大級。”
  27. ^ 世界最大級のミッフィー専門店 体験型ショップ&カフェ「nijntjeナインチェ」”. ハウステンボスリゾート (2022年). 2023年9月24日閲覧。
  28. ^ a b うさこちゃんとミッフィー”. 福音館書店. 福音館書店. 2001年8月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年4月16日閲覧。 “うさこちゃんのもともとの名まえはオランダ語でネインチェ・プラウス。ネインチェは「うさちゃん」、プラウスは「ふわふわ」という意味です。ミッフィーという名まえは、うさこちゃんの絵本がオランダ語から英語に翻訳されたときにつけられた名まえです。”
  29. ^ うさこちゃんとミッフィー”. 福音館書店. 福音館書店. 2024年2月14日閲覧。 “うさこちゃんのもともとの名前は、オランダ語で「ナインチェ」といいます。「ナインチェ」はうさちゃんといった意味です。日本語訳では、「ナインチェ」という音の響きとその意味から、石井桃子さんが「うさこちゃん」と名付けました。”
  30. ^ ディック・ブルーナ 2005, pp. 59–60, “オランダ語版の絵本では、現在でも「ミッフィー」ではなく、「ナインチェ」を使っています。”.
  31. ^ about miffy”. miffy. 2024年1月28日閲覧。 “In the past, Miffy had a different name in every language. She was known as "le petit lapin" in French, for example, and as "kleintjie" in Afrikaans, but since 1996 she is known as Miffy everywhere outside the Netherlands.”
  32. ^ a b 朝日新聞』2005年4月28日付朝刊。記者は編集委員の森本俊司。
  33. ^ a b ディック・ブルーナ 2005, p. 110.
  34. ^ ディック・ブルーナ 2005, p. 56.
  35. ^ ディック・ブルーナ 2005, pp. 108–109.
  36. ^ a b c d ブルーナさん、おしえてください!”. 福音館書店. 福音館書店. 2008年10月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年10月5日閲覧。
  37. ^ ミッフィーはお姉さん|みみよりブログ”. dickbruna.jp. 株式会社ディック・ブルーナ・ジャパン (2015年6月29日). 2024年2月28日閲覧。
  38. ^ 森本俊司 2019, p. 99.
  39. ^ miffy バルーンチャーム”. ガシャポンオフィシャルサイト. 株式会社バンダイ. 2024年2月25日閲覧。 ※画像を参照。
  40. ^ 森本俊司 2019, p. 244.
  41. ^ 『朝日新聞』1994年12月5日付朝刊、9頁。
  42. ^ 阪急電鉄で「ミッフィー号」運転”. 鉄道ファン・railf.jp. 株式会社交友社 (2021年8月8日). 2022年11月13日閲覧。
  43. ^ 創業100周年に向けた「コミュニケーション・シンボル」の採用のお知らせ』(PDF)(プレスリリース)日本曹達株式会社、2018年8月28日https://www.nippon-soda.co.jp/pdf/20180828.pdf2020年7月28日閲覧 
  44. ^ a b イングマン&レイヒル 2020, p. 108, ディック・ブルーナ 年譜.
  45. ^ 『Bruna Times』2005 Autumn/Winter 号、ぶるーな倶楽部発行
  46. ^ ミッフィー展 — 50 years with miffy —|展覧会”. アイエム[インターネットミュージアム]. 株式会社丹青社. 2024年2月28日閲覧。


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