オリンピックの身代金 (奥田英朗) オリンピックの身代金 (奥田英朗)の概要

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オリンピックの身代金 (奥田英朗)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/11 08:40 UTC 版)

オリンピックの身代金
著者 奥田英朗
発行日 2008年11月27日(単行本)
2011年9月23日(文庫本)
2014年11月14日(文庫本)
発行元 角川書店
講談社文庫(2014年版)
ジャンル サスペンス
日本
言語 日本語
形態 四六判
公式サイト オリンピックの身代金|奥田英朗
コード ISBN 978-4-04-873899-6
ウィキポータル 文学
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主人公の東京大学院生・島崎国男は、深刻な地域格差や貧富の差に疑問と憤りを抱き、オリンピック妨害という大それた犯行を計画するが、島崎の中に強い信念があるわけではなく、成り行きと運とヒロポンによりテロリストへとなっていく様子と、島崎が起こした事件を国民に知らせないまま極秘に捜査し、解決された後も、島崎の存在とオリンピック妨害未遂の事実を隠蔽した警察の姿勢は、何とも言えない空疎な恐ろしさを感じさせ、他のサスペンスにはない奇妙な味わいを持っている[4]

あらすじ

昭和39年(1964年)8月22日、東京オリンピック警備本部幕僚長・須賀修二郎の自宅敷地内から火の手が上がる。それから1週間後の8月29日、中野の警察学校で爆発音と共に火の手が上がる。いずれも新聞報道はなく、現場に駆けつけた警察官だけでなく警察内部全体に厳しい箝口令が敷かれる。第二子の出産を控え、松戸市常盤平団地に引っ越した捜査一課の刑事・落合昌夫が属する五係の面々に召集がかかり、一切を保秘とする旨をきつく申し渡された上で、前年に相次いで発生した連続爆破事件の犯人が差出人の名に使用した「草加次郎」から“オリンピックのカイサイをボウガイする”“もう一度ハナビをあげます。東京オリンピックはいらない”と爆破の予告状が届いていたことが明かされる。

時は遡り昭和39年7月中旬、東京大学大学院生島崎国男の元に、出稼ぎで東京オリンピックの工事に携わっていた異父兄・初男の訃報がもたらされる。故郷の秋田から母や義姉らが上京する余裕はなく、国男が荼毘に立ち会い、遺骨を故郷へ持ち帰ることになる。15歳年上の兄は一家の稼ぎ手として、国男が幼い頃から出稼ぎで1年の半分は家を空け、また国男自身が母親の浮気でできた“種ちがい”の子であるという感情の隔たりもあり、遺体と対面しても家族という実感は希薄だった。

久しぶりに帰った故郷は昔と変わらず貧しく、東京の生活に慣れていた国男はその格差に衝撃を受ける。葬儀を終え東京へ戻った国男は、兄が生前働いていた飯場でひと夏働くことを決意する。大学院でマルクス経済学を学ぶ国男は、日本で近くプロレタリア革命が起こると確信しており、その時にはプロレタリアートの側でいたいと思っていることが大きな理由だった。慣れない土方作業に励む国男だったが、別の飯場を仕切る半分ヤクザ者の男に目を付けられ、花札のイカサマ賭博で負け借金を負ってしまう。工期の遅れを責められ、連日朝の8時から夜の10時まで働き、時には午前2時まで通しで16時間も働きづめで時を過ごすうちに、現場には暗黙のヒエラルキーが存在すること、出稼ぎ人夫たちが疲労感を忘れ仕事を続けるためにヒロポンに手を出していることを知り、プロレタリアートの生活の実態をより正確に実体験しようと自身もヒロポンに手を出してしまう。ある日、1人の出稼ぎ人夫が粗悪なヒロポンの過剰摂取で亡くなり、兄・初男の直接の死因もヒロポンの過剰摂取によるものだったことが分かる。オリンピック開催に沸く東京と搾取され貧困にあえぐ地方との格差を身をもって実感した国男は、今の日本にオリンピックを開催する資格はない、東京だけが富と繁栄を享受するのは断じて許されない、戦う術を知らない彼らの代わりに誰かが阻止しなければならないという思いを一層強くしていく。工事で知り合った発破業者の火薬庫からダイナマイトを盗むことに成功した国男は、爆弾のタイマーの作り方を調べ、爆破を実行していく。報道されないという確信を抱いてからはより冷静さを保ち、ヒロポンの影響もありますます気を大きくしていく。

秋田へ帰郷した際に出会った同郷の村田留吉というスリと再会した国男は、自身の考えと既に2度爆破事件を起こしたことについて話し、オリンピックを人質に一緒に国から金を取らないかと持ちかける。村田はオリンピック妨害については拒んだが、金を取ることには賛同した。行動を共にするうち、村田は国男を実の息子のように感じ始めていく。

一方、警察は「草加次郎」からの爆破予告状に戦々恐々としながらも、捜査一課の刑事たちが一歩一歩確実に島崎国男へと迫っていくが、島崎を国体を揺るがす思想犯だと考える公安部と捜査方針で対立する。

登場人物

主要人物

島崎 国男(しまざき くにお)
本作の主人公。1940年(昭和15年)[5] 生まれ。東京大学大学院マルクス経済学の研究をしている。痩身で色白で端正な顔立ちをしている。秋田県出身。父が出稼ぎに出ている間に、母が巡業の映画技師と浮気してできた子。出稼ぎで首都高速道路の工事に携わっていた15歳年上の異父兄・初男が工事現場で心不全で死亡したことを受け、生前の兄ひいては出稼ぎに出なければ生活していけないプロレタリアート層がどのような暮らしをしているのかを身をもって知るために、兄が働いていた飯場で肉体労働を始める。
村田 留吉(むらた とめきち)
上野秋田間では有名なスリ。55歳。前科8犯。兄の遺骨を携えて帰郷した国男にスリを働く。ツイードハンチング帽をかぶっている。東大大学院生という立場にありながら、人を差別したり見下したりしない国男を気に入る。スリで刑務所を出入りする張り合いのない人生より、反逆精神に満ちた国男の計画に乗った方が良いと考え、国から金を奪う計画に加わる。秋田空襲で妻と2人の子供を失っている。
須賀 忠(すが ただし)
24歳。1940年(昭和15年)、渋谷区千駄ヶ谷生まれ。麻布中学・高校、東京大学経済学部を経て、開局間もない民放テレビ局「中央テレビ」に就職した。歌番組などの制作に携わっている。父は警視庁警務部長、母は旧華族、兄は大蔵省の役人、姉は日本赤十字社に勤務後に外交官と見合い結婚、父方の祖父は元軍人、亡き母方の祖父は衆議院議員。自宅で火事があった後、ガス漏れによる事故だと説明を受け、一方的に勘当され、ミドリのマンションに転がり込む。同僚から爆破事件について聞き、次第に島崎に疑いを持ち始める。

警察関係者

警視庁刑事部捜査一課五係
落合 昌夫(おちあい まさお)
30歳。2歳になる息子・浩志(ひろし)と2人目を妊娠中の妻・晴美(はるみ)と3人暮らし。松戸市常盤平団地に引っ越す。剣道は警視庁一の実力。
岩村(いわむら)
昌夫の同僚で大学の後輩。
森 拓朗(もり たくろう)
警部補。元海軍曹長。あだ名はタンクロー。
宮下 大吉(みやした だいきち)
五係長。警部
沢野 久雄(さわの ひさお)
巡査部長。昌夫より3歳年上。生命保険会社から転職してきた。
仁井 薫(にい かおる)
警部補。36歳、あだ名はニール。長身痩躯、離婚歴がある。
玉利(たまり)
捜査一課長。中央大学法学部出身。刑事部きっての理論派で、古い慣習を嫌う。
薩摩 隼人(さつま はやと)
警察学校第一教養部。剣道五段。元剣道日本選手権覇者。
田中(たなか)
捜査一課長代理。
倉橋 哲夫(くらはし てつお)
捜査一課巡査部長。40歳。
須賀 修二郎(すが しゅうじろう)
忠の父親。一高、東大法科、内務省を経て警察庁へ入ったエリート。警視庁警務部長。オリンピックの最高警備本部幕僚長(警備責任者)。
矢野(やの)
警視庁公安部公安第一課。早稲田大学法学部出身。細面の鷲鼻で、日本人離れした顔立ち。落合とは警察学校の同期。刑法の試験で満点を記録し、公安部に引き抜かれた秀才。

工事関係者

山田(やまだ)
出稼ぎ人夫斡旋業の山新興業社長。男鹿半島出身。兄の遺体を引き取りに来た国男に、初男は病死だったことを認め、訴訟など起こさないよう書面提出を求める。
小倉 貞夫(おぐら さだお)
国男と同郷の男。35歳。初男の葬儀のため帰郷した際、妻から最近連絡が取れず仕送りも途絶えたと相談される。子持ちのホステス・貴子といい仲になってしまった。
塩野(しおの)
国男と同じ飯場の人夫。
米村(よねむら)
国男と同じ飯場の人夫。国男と同郷で25歳。国男にヒロポンを勧める。
矢島 定吉(やじま さだきち)
あだ名はヤマさん。粗悪なヒロポンの過剰摂取で急死する。
新井(あらい)
オリエント土木社員。キツネ目。
樋口 勝男(ひぐち かつお)
糀谷の飯場で夜な夜な賭場を開いて、人夫から金を巻き上げる半分やくざの悪党。30歳。背中から腕にかけて牡丹刺青を入れており、左手の小指がない。殺人の前科もある。

その他

小林 良子(こばやし よしこ)
19歳。1945年(昭和20年)8月20日生まれ。製麺工場「神田製麺」の事務員。実家は本郷古本屋で、常連客である島崎に密かに憧れている。ビートルズの大ファンで、特にポール・マッカートニーが好き。
圭子(けいこ)
良子の高校時代の同級生。同じくビートルズの大ファンで、ジョン・レノンが好き。
ミドリ
赤坂のナイトクラブ「ニューラテンクォーター」の新米ホステス。忠のガールフレンド。日活のニューフェイスだったが、吉永小百合と比べられるのが嫌で小さな芸能プロダクションへ移籍した。向島育ち。
笠原(かさはら)
中央テレビ報道局社会部記者。忠の同期。
大成建設の若手社員
工事の元請け建設会社の社員。過酷な飯場に似つかわしくない国男に目を留め、発破に必要なダイナマイトの受け取りと、競技場の地下通路のひび割れ調査を申し付ける。
北野(きたの)
北野火薬社長。日本大学文学部出身のインテリ。父が倒れたのと勤めていた小さな出版社の倒産が重なり、父の会社を継いだ。妻子持ちだが、国男に関係を迫る。
矢島の妻
夫の遺骨を引き取るために上京。案内役の国男に東京タワーなど名所に連れて行ってもらい圧倒される。
浜野(はまの)
東京大学経済学部教授。マルクスの研究者。島崎が籍を置いている研究室。
ユミ
東京大学文学部の学生。東大の医学部中央館の地下室を不法占拠しているトロツキズム色が濃いサークル《世界史研究会》の一員。「ナンセンス」が口癖。
キン
荒川の三河島、朝鮮人集落にいる男。村田の古くからの知り合いで、裏世界で様々な手配をする面倒見と呼ばれる。



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