Bウイルス病とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 固有名詞の種類 > 病気・健康 > 病気・けが > 病気 > 感染症 > Bウイルス病の意味・解説 

ビーウイルス‐びょう〔‐ビヤウ〕【Bウイルス病】

読み方:びーういるすびょう

ヘルペスウイルス科属すBウイルスによる人獣共通感染症。ニホンザル・アカゲザル・カニクイザルなど、Bウイルス有するマカク属サルかまれたり、体液直接接触したりすることによって感染し神経症状引き起こすBウイルス感染症


Bウイルス病

1933 年ポリオ研究者アカゲザル咬まれ脳脊髄炎発症して死亡した神経組織よりウイルス分離され患者の名前にちなみ、Bウイルス命名された。正式名称はCercopithecine herpesvirusCHV‐1)であるが、BウイルスヘルペスB 、Herpes simiae 、Herpesvirus simiaeとも呼ばれる。なお、 Cercopithecus とはオナガザルのことである。Bウイルスニホンザルなどのマカク属サル自然宿主とし、この宿主では単純疱疹類似の疾患引き起こし致死的感染例外的である。しかし、ヒト感染すると、致命的な疾患(Bウイルス病)を引き起こすニホンザル等との接触機会有している場合注意すべき感染症である。

疫 学

本邦での発症例これまでのところ報告されていないが、世界的に40例を越しており、おもに米国における発症例である。実際に見落とされている例が多いと考えられる罹患者大部分研究者あるいはサル飼育施設従業者で、日常外来診療遭遇するような疾患ではない。マカク属サルとの直接的接触により感染する感染ルートサルによる咬傷擦過症が大部分であるが、本症の患者から看護者に感染したという、ヒトからヒトへの感染例も報告されている。

Bウイルス病

カニクイザル
(cynomolgus monkey

 アジアにいるアカゲザルカニクイザル日本ザルMacaca fuscata)、台湾ザルMacaca cyclopis)などのマカク属旧世界サルでは、半数以上が抗体陽性であり、ウイルス体内潜伏感染している。ヒト単純ヘルペスウイルスのように神経節潜伏し再活性化することにより感染源となる。サル間では性行為含めた水平感染により伝播し、幼ザル抗体陰性であることが多い。

病原体
CHV‐1はヒト単純ヘルペスウイルスと同じアルファヘルペスウイルスに分類され直径160‐180nmの粒子エンベロープ有するウイルス分離にはVero 細胞HeLa 細胞用いられる。25cm2のフラスコ程度使用した少量ウイルス分離P3レベル実験室で行うが、大量培養はP4 レベルバイオハザード封じ込め施設で行う。ウイルス増殖は非常に早くHSV類似した細胞変性効果封入体と多巨細胞)が生じる。ウイルス4 ℃では安定であるが、40 を越す条件では失活しやすく、また有機溶剤容易に感染性喪失する


臨床症状
唾液等に感染性ウイルス排出されているサルによる咬傷主たる感染ルートである。ウイルス潜伏状態にあるサル咬傷では感染しない咬傷後、局所ウイルス増殖し末梢神経経て中枢神経組織到達し脊髄延髄徐々に感染し横断性脊髄炎、上行性脊髄炎脳脊髄炎来す
これらの病態発生相応して臨床症状経時的現れる下表参照)。潜伏期間咬傷早い場合2日で、2週から5週以内臨床症状出現する診断上最も重要なことは、実験用あるいは動物園あるいはペットサルとの接触に関する病歴入手である。感染経路咬傷あるいは擦過傷であることが多くサル使用した注射針針刺し培養使用したガラス器具による外傷によっても感染する
詳細に臨床症状報告されている第1 例(米国例)の臨床症状を以下に提示する
医師(B)実験中に外見健康なサルにより手の咬傷受けた3日咬傷部の紅斑リンパ管炎、所属リンパ節腫大生じた6日目発熱10日目神経症状(上行性麻痺)が出現し脳脊髄液の単核細胞上昇(112/mm3)、蛋白増加認められた。外傷皮膚には水疱生じた17日目に痙攣昏睡状態となり、呼吸不全呼吸筋麻痺)にて死亡した剖検時、神経系組織には急性横断性脊髄炎と、前頭葉延髄にも炎症性変化認められた。  

. Bウイルス病臨床症状Holmes GP et al.,1995準拠

早期症状 1.外傷部位周囲水疱あるいは潰瘍
2.接触部の激痛あるいは掻痒感
3.所属リンパ節腫大
中期症状 1.発熱
2.接触部の感覚異常
3.接触部側の筋力低下あるいは麻痺
4.結膜炎
5.しゃっくり吃逆)の持続
晩期症状 1.副鼻腔炎
2.項部硬直
3.24 時間上の頭痛
4.悪心・嘔吐
5.脳幹部症状複視、構語障害眩暈失調症交差性麻痺交差性知覚障害脳神経麻痺
6.意識障害
7.脳炎ならびに中枢神経症状

病原診断
1.ウイルス分離ウイルス分離が最も信頼できる検査法である。少量サイズ培養細胞用いたウイルス分離P3 実験室において行う(国立感染症研究所規定)。ウイルス分離を行うための検体咽頭拭い液、脳脊髄液サルによる咬傷あるいは擦過部位拭い液あるいは生検組織である。
2.ウイルスゲノムPCR による検出PCR用いたウイルスゲノム検出法報告されている。この場合近縁HSVとの区別問題となる。制限酵素切断様式違いあるいは塩基配列解析が必要となる。また、咬傷加えたサル検索も行う。
3.血清抗体検出CHV‐1はHSV抗原性共通するCHV‐1抗体陽性サル血清HSV対する高い中和活性有している。一方HSV対す抗体有したヒト血清CHV‐1に対して中和活性がある。この抗原交差性のため、両者血清学鑑別は困難である。この区別可能なドットブロット法が開発されCHV‐1抗体陽性ニホンザル確認された。簡便法として、スライド上にCHV‐1感染細胞固定不活化し、抗原抗体反応行い抗体検出する蛍光抗体法がある。この方法ではHSVCHV‐1それぞれに対す抗体区別は困難で、HSV 抗体陽性患者CHV‐1抗体検出できない
剖検時の病理所見として、中枢神経組織出血壊死浮腫血管周囲の単核細胞浸潤みられる。Cowdry A型封入体は見いだしにくい感染部位皮膚・粘膜生検組織には多巨細胞出現しウイルスゲノム検出できる


治療・予防
症例数が少なく確立していないが、アシクロビルあるいはガンシクロビルが有効であり、予防・治療にこれらの投与推奨されている。治療量は体重1kg あたり10‐15mgのアシクロビルを8時間ごとに最低14日間静注、さらに、神経症状がみられた場合にはガンシクロビル体重1kg あたり5mgを12時間ごとに14日間以上投与する静注終了後経口投与考慮する患者外傷部あるいは結膜唾液からウイルス分離されることより治療においては、手袋ならびにマスク眼鏡等粘膜保護が必要である。ヒトヒト間の感染例は現在までに1例報告されている。
サルにより咬傷受けた場合傷口できるだけ早く15分以上流あるいは石鹸水により洗浄する次亜塩素酸による洗浄薦める報告もある。結膜場合流水あるいは滅菌用いる。アシクロビル成人量800mg)の経口投与考慮しその場合、外傷部からのウイルス分離ウイルスゲノム検出外傷加えたサル抗体検査サル唾液結膜擦過外陰部擦過ウイルスゲノム存在するかどうか解析結果がでるまで投与続ける。結果陽性である場合予防投与14日間行う。なお、外傷部位検体採取患者血清採取咬傷加えたサルウイルス学解析ならびに血清の取は必ず外傷部あるいは曝露粘膜洗浄後に行う。患者ならびに患者家族には表に示したBウイルス病の臨床症状説明し、その兆候現れ場合連絡必要性指示する
研究者ならびにサル飼育施設従業者での取り扱い事故予防について、米国エモリー大学CDC ではワーキンググループ形成しガイドライン発表している(Holmes GP et al.Guidelines for the prevention and treatment of B‐virus infections in exposed persons.1995;20:421-39)。
ワクチンはない。


感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
Bウイルス病は4類感染症定められており、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断血清学診断なされたもの。
病原体検出
 例:臨床検体咽頭ぬぐい液、脳脊髄液咬傷部、擦過部位生検組織など)からのウイルス分離中和試験による確認など
病原体遺伝子検出
 例:PCR 法など
病原体対す抗体検出
 例:ドットブロット法、ELISA 法など
ヒトではHSV‐1とBウイルス抗原性交差するので、従来抗原抗体反応系(免疫蛍光等)は使用できない
備 考
 ウイルス外傷部、結膜唾液からウイルス分離されることから、これらの部位治療の際には必ず手袋をする。またマスク眼鏡等により粘膜保護する


国立感染症研究所感染病理部 岩崎琢也)


Bウイルス感染症

(Bウイルス病 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/19 12:30 UTC 版)

Bウイルス感染症(びーういるすかんせんしょう)とは旧世界ザル由来の人獣共通感染症感染症法における四類感染症。ヒトおよび新世界ザルにおいて致死的な疾病として知られる。


  1. ^ Bウイルス病とは 国立感染症研究所
  2. ^ 株式会社新日本科学「Bウィルスに関するお知らせ」(2019年11月28日)
  3. ^ a b 共同通信 (2019年11月28日). “サル由来Bウイルス、人に初感染 鹿児島の施設、拡大の恐れなし | 共同通信” (日本語). 共同通信. 2019年11月28日閲覧。
  4. ^ 本藤良、Bウイルス感染症 わが国への侵入/蔓延が危惧される動物由来感染症 日本獣医学会


「Bウイルス感染症」の続きの解説一覧



Bウイルス病と同じ種類の言葉


固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「Bウイルス病」の関連用語

Bウイルス病のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



Bウイルス病のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
国立感染症研究所 感染症情報センター国立感染症研究所 感染症情報センター
Copyright ©2024 Infectious Disease Surveillance Center All Rights Reserved.
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのBウイルス感染症 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS