足跡
★1a.姿が見えなくても、足跡を残せば、居場所を知られてしまう。
『今昔物語集』巻4-24 若き日の龍樹菩薩と2人の仲間が、隠形薬で姿を消し(*→〔隠れ身〕2)、王宮の后たちを犯す。しかし、王が床に粉をまいたために、3人の足跡がついて、居場所がわかってしまう。2人は切り殺され、龍樹だけが、后の御裳(みも)の裾(すそ)に隠れて助かった〔*『龍樹菩薩伝』では、龍樹と3人の親友のうち、龍樹だけが助かる。「龍樹菩薩に関する俗伝より」と記す『青年と死』(芥川龍之介)では、2人の青年AとBが女たちを犯し、「死」がBの命をとる。Aは死を恐れずに直視したので、命を助けられる〕。
『風流志道軒伝』巻之4 浅之進(志道軒)が、仙人からもらった羽扇を背負って姿を消し、清国・乾隆帝の後宮に忍び入る。警護の者たちが床に細かい砂を散らしておくと、足跡がついたので、火把(たいまつ)を投げかける。羽扇も着物も燃えて、丸裸になった浅之進が現れ、捕らえられる。
*灰を床にまいて、足跡を取る→〔灰〕5aの『ダニエル書への付加』(旧約聖書外典)。
『跡隠しの雪』(昔話) 弘法大師が、貧しい老女の家を訪れ宿を請う。老女は隣家の稲木から稲を盗んで来て、ご飯を炊いて大師をもてなす。老女は足が悪く、足跡で盗みが発覚するだろうと考えた大師は、その夜雪を降らせて、老女の足跡を消す。それが11月23日の夜だったので、毎年その日には雪が降る(京都府船井郡和知町細谷)。
『キリシタン伝説百話』(谷真介)52「一度に咲いたソバの花」 百姓夫婦が畑にソバの種をまいていた時、7~8人のキリシタンが畑を通って逃げて行った。畑には彼らの足跡がたくさん残った。まもなく追手の役人がやって来たが、種をまいたばかりなのに、畑一面に真っ白いソバの花が咲いて、キリシタンの足跡を隠した。役人が引き上げるとソバの花は消えて、ふたたび足跡が現れた(熊本・天草)。
★2.密会の折の足跡。
『ドイツ伝説集』(グリム)457「エギンハルトとエマ」 青年エギンハルトがカール大帝の娘エマの居室を訪れ密会する。翌朝には雪が積もっており、男の大きな足跡があっては密会が露顕するので、エマがエギンハルトを背負って彼の宿所まで運ぶ〔*父帝はそのありさまを見て、2人の中を許す〕。
『トリスタンとイゾルデ』(シュトラースブルク)第24章 マルケ王は后イゾルデと騎士トリスタンの仲を疑い、寝室の床に穀粉をまいて出かける。トリスタンは、足跡をつけぬよう、イゾルデのベッドまで跳ぶ。
*箒で、灰の上の足跡を消す→〔灰〕5bの『ジャン・クリストフ』(ロラン)第9巻「燃ゆる荊」。
『空き家の冒険』(ドイル) シャーロック・ホームズとモリアティ教授がライヘンバハ滝の断崖まで行って決闘し、ホームズが生き残る。ホームズは自らの生還を隠すため、帰りの足跡を残さぬようにしたいと考える。そこで、滝から帰る小道を、靴を前後逆にはいて戻ろうかと思うが、そうすると滝へ向かう足跡が3人分できてしまい、かえって怪しまれるので、小道を諦めて危険な崖を攀じ登る。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)142「老いたライオンと狐」 老ライオンが洞穴で病気のふりをし、見舞いに来る動物たちを食った。狐が遠く離れて挨拶するので、ライオンが「中へ入らないのか?」と問うと、狐は「洞穴へ入る足跡は多く、出て行く足跡が1つもないのを見ていなかったら、入ったでしょうがね」と言った。
『ジャータカ』第20話 蓮池に羅刹(=デーヴァダッタの前世)がいて、水辺に下りて来るものを食った。猿の王(=ボーディサッタの前世)が見ると、池へ行く足跡はあるが、帰って来た足跡がないので、家来の猿たちに「池に下りて水を飲むな」と命じた。そして、岸辺にすわり葦の茎で水を吸って飲む方法を教えた。羅刹はがっかりして去った。
★4.神の足跡。
『伊予国風土記』湯の郡(逸文) スクナヒコナは、大分の速見から引いた温泉の湯につかって蘇生し、立ち上がって足踏みをした。その足跡は、今も温泉の中の石の上にある→〔温泉〕2a。
*天の大神の足跡が、琵琶湖になった→〔湖〕1aの琵琶湖の始まりの伝説。
★5.鬼・異類の足跡。
『古今著聞集』巻17「変化」第27・通巻590話 延長7年(929)4月25日の夜、宮中の所々に鬼の足跡が見られた。大きな牛の足跡に似て、そのひづめの跡には青く赤い毛が混じっていた。1~2日の間に足跡は次第に消えた。
『古今著聞集』巻17「変化」第27・通巻594話 天慶8年(945)8月10日の朝、紫宸殿前の左近の桜の下から永安門まで、鬼の足跡・馬の足跡などが数多く見えた。
*→〔天狗〕1の『太平記』巻5「相模入道田楽をもてあそぶ事」。
★6.巨人の足跡。
『史記』「周本紀」第4 堯の時代、姜原は、野で巨人の足跡を踏み妊娠した。1年後に彼女は子供(=周の后稷)を産み、不吉なことと思って路地うらに捨てた→〔動物傅育〕。
『歴史』(ヘロドトス)巻4-82 スキュティアには、岩に印されたヘラクレスの足跡がある。人間の足跡に似ているが、その長さは2ペキュス(=約90センチ)もある。
★7.河童の足跡。
『遠野物語』(柳田国男)57 川岸の砂の上に、しばしば河童の足跡がある。雨の日の翌日などには、特によく見られる。猿の足と同様に親指は離れているが、全体は人間の手の跡に似ている。長さは3寸(=約9センチ)足らずである。
★8.一本足の足跡。
一本だたら(『水木しげるの日本妖怪紀行』) 紀州・熊野の山中には、一本だたらという妖怪が今でも住んでいるという。その姿を見たものはいないが、一本足で一つ目、人に似た獣のように考えられている。一本だたらは、雪の山中に幅1尺ほどの大きな足跡を残す。一本足で跳んで歩いたような足跡だ。
★9.にせの足跡。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第3巻第10章 ヘルメスは生まれてすぐ活動を始め、アポロンの飼う牝牛を盗んだ。足跡をごまかすために、牝牛の足には靴をはかせた。
★10.足跡からわかること。
『セレンディッポの三人の王子』1章 セレンディッポ(=セイロン)の3人の王子が旅をしていて、ラクダを捜す男と出会った。3王子は道中でラクダの足跡を見ていたので、「そのラクダは、片目が見えず、歯が1本欠けており、脚が悪い。片側にバター、もう片側にハチミツの荷を積み、身重の女を乗せていただろう」と言った。3王子はラクダの足跡だけから、これらのことを察知したのだが、「ラクダを盗んだ犯人」と見なされてしまい、牢屋へ入れられた。
『屍鬼二十五話』(ソーマデーヴァ)第24話 貴族チャンダシンハと息子シンハパラークラマが森へ狩りに行き、2人の女の足跡を見つける。大きな足跡は年長の女、小さな足跡は若い女だろうから、父チャンダシンハは大きな足跡の女を妻とし、息子シンハパラークラマは小さな足跡の女を妻としよう、と父子は相談する。父子は2人の女を捜して結婚を申し込む。ところが、大きな足跡は若い王女で、小さな足跡はその母親だった→〔系図〕3。
*人を導く足跡→〔馬〕5の『捜神記』巻13-9(通巻327話)。
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