暴力の根絶プロジェクト
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/12 03:21 UTC 版)
「女子柔道強化選手への暴力問題」の記事における「暴力の根絶プロジェクト」の解説
4月15日には講道館で山下を責任者とする指導者や大学教授など有識者17名のメンバーによる「暴力の根絶プロジェクト」の初会合が開かれて、暴力の定義や暴力行為への対処法など、ガイドラインに盛り込むべき内容に関する討議が行われた。メンバーの1人であるテレビ朝日アナウンス部の宮嶋泰子は「人の気持ち、組織を変える作業。長い作業になるでしょう。」と述べた。また、このプロジェクトの具体策のひとつとして暴力根絶のポスターを全国の道場に掲示する意向だともいう。 4月16日には女子代表チームが新体制となって初めての遠征となる、バンコクで開催されるアジア選手権に向けて出発した。今回の遠征から男子と同じく女子も移動や合宿の集合時にはスーツ着用が義務付けられることになった。また、2月のヨーロッパ遠征の際には選手から要望のあった気合の張り手をコーチが躊躇って出さなかったものの、南條は選手からの要望があるなら張り手をかますことも厭わない姿勢を示した。 4月21日には横浜文化体育館で女子の全日本選手権が開催されたが、不祥事の影響もあって全柔連のメインスポンサーである「オフィシャルパートナー」の東建コーポレーションでさえ契約更新を保留したのをはじめ、毎年会場に社名入り広告や応援旗を出していた三井住友海上が今回は取り止めるなど、会場や大会パンフレットに広告を出す企業が大きく減ることになった。このような状況の中で今大会初優勝を果たした了徳寺学園職員の緒方亜香里は、「柔道界は周りから駄目だと言われているんですが、見ている方々に『女子柔道、いいね』と思ってもらえれば良かったなと思います」と語った。 4月26日には選手に対して暴力を振るうなどして監督を辞任した前監督の園田を所属先の警視庁が戒告処分に付した。警視庁によれば、園田前監督は2010年8月と2011年7月の合宿で20代の女子選手に対して箒の柄で背中や尻を叩いたり平手打ちを数回喰らわせ、2010年11月と2012年2月の大会後にも平手打ちした。また、2010年12月の大会では別の20代の女子選手に対しても平手打ちをした。さらに、強化合宿において選手数人に対して「消えろ」「家畜じゃないんだから自分で動け」などといった暴言を加えた。ただし、刑事事件としての立件は選手らが望んでいないこともあって見送られることになった。 4月27日には講道館で臨時理事会及び全国理事長会議が開かれたが、上村は自らの進退に関しては一言も触れず、出席した理事からの質問もなく進退問題に関する議論がなされることはなかった。 理事会では、IOCや第三者委員会から代表選考過程や監督人事の透明化を求められていたことを受けてIJFによるランキング制度とは別に、国内にも独自のランキング制度を2014年度から導入することを決定した。詳細な基準は未定だが、IJFグランプリシリーズや体重別など国内外の主要大会をポイント獲得の対象として、オリンピックチャンピオンや世界ランキング1位に勝てばボーナスポイントも付与する方針だという。ただし、このランキングは代表選考の参考資料扱いとなるので1位になっても自動的に代表にはならず、最終決定は強化委員会が行うことになる。毎年11月に開催される講道館杯には、その年のオリンピックや世界選手権代表となった選手は負担を考慮されて出場が免除されることも決まった。男女の代表監督やコーチの選考方法に関しては結論が出ず、引き続き議論されることになった。 4月29日には日本武道館で全日本選手権が開催されたが、主要スポンサーである東建コーポレーションは21日の女子の大会では取り止めた試合会場の広告看板を今大会では掲げることになった。 5月4日には全国少年柔道大会の監督会議に出席した山下が「柔道界から全ての暴力をなくす。4、5年かけて粘り強く啓発活動を続ける。」と参加者に語りかけた。 5月9日には指導部刷新によって一旦は強化の現場から外れていた薪谷翠がコーチとして復帰することに決まった。味の素ナショナルトレーニングセンターの施設管理担当コーチも兼務することになった。また、全柔連はこの日までに「暴力の根絶プロジェクト」第1回会合の議事録を公式サイトに掲載した。そこでは「暴力が問題視されてこなかったのは閉鎖的だったから」「暴力は人権侵害であることを忘れがちではないか」「段位を得た者は精神的にも鍛えられているだろうという善意の解釈があった」などの言及がなされた。 5月11日から2日間選抜体重別が開催されたが、日本航空やセイコー、ミズノなどは選手第一の観点からスポンサー契約を更新した関係で、オフィシャルスポンサーとして大会パンフレット、もしくは会場となった福岡国際センター内に広告を掲示した。しかし、女子選手が多く所属するコマツや三井住友海上は契約更新を凍結していることもあって看板広告を掲示しなかったものの、コマツは個別協賛を行うと、三井住友海上も今後も女子柔道を支援する考えがあることを表明した。 さらに今大会では試合場の審判が一人だけとなり、判定に問題があった場合には審判を統括するジュリーと副審がビデオ映像を分析して試合場の審判に指示を与える一人審判制や、組み合わない柔道への罰則の強化、帯から下への攻撃及び防御の全面禁止など、IJFが暫定的に導入した新ルールを国内で適用する初めての大会となったが、判定が変更されたケースがいくつかあり改善点も認められたものの、全体的に大きな混乱はなかった。 また、11日には強化委員会が開かれて、国際大会に出場した代表選手が計量で失格した場合は強化指定選手を外すことに決めた。これにより先月のアジア選手権78 kg級で失格となったコマツの岡村智美が強化選手を外されることになった。全日本実業柔道個人選手権大会などで好成績を残せば強化選手への復帰を認めることにもなった。 今大会では初戦で敗退した選手が4名も代表に選ばれた。特に女子代表選考ではコーチ会議でまとまった案が強化委員会で差し戻されて再検討されることにもなった。強化委員長の斉藤仁は「今大会で勝ち上がった選手を選ぶのが望ましいが、1年間トータルの内容を踏まえた」と国際大会での戦績と内容をより重視する選考になった。 一方、強化委員の山口香は選手第一の観点から選手側が意見を言える機関をつくりだすことが必要であると、全柔連内にアスリート委員会を設置することを働きかけるという。 5月13日には「暴力の根絶プロジェクト」第3回会合が開かれて、セクシャルハラスメントの根絶を目指す新たな作業部会の設置も決めた。北田典子が部会長となり、宮嶋など4名がメンバーとして加わることになった。 5月18日には全日本ナショナルチームの男女監督及びコーチ陣が世界選手権代表選手の所属先の指導者らを「特別アドバイザー」として、味の素ナショナルトレーニングセンターに招いて情報交換会を行うことになった。そこでは1回の強化合宿の期間を5日間程度に減らすことが確認された。また、8月にブラジルのリオデジャネイロで開催される世界選手権にも代表選手の所属先の指導者が派遣されることに決まった。 5月20日には「暴力の根絶プロジェクト」第4回会合が開かれて、プロジェクト全体の責任者である山下は、暴力行為を2種類に分けて、殴る蹴るなど選手にケガを負わせる行為は「重大な暴力」として一回で指導者資格の永久停止処分とし、額を指ではじく凸ピンや軽いゲンコツなど「軽微な暴力」の場合は、1回目で口頭による厳重注意と誓約書の提出、2回目で文書による戒告、3回目で期限つきの指導者資格停止処分を課すことを運用指針案として盛り込む予定であることを明らかにした。凸ピン行為まで資格停止の対象にすることに対して山下氏は、「3回やるバカだったらね。たぶん、1回やって反省文書けば分かると思うけど。」と語った。 5月23日には大阪市内で開かれた関西プレスクラブの会合で北田が講演して、「柔道は閉鎖的で独特な世界でした。社会通念と照らし合わせ、これまでの感覚を変えないといけない。」との認識を示すとともに、今回の暴力根絶に向けた取り組みが100年後にこれは必要な行為だったと言われるように尽力していきたいと述べた。「選手はアスリートである前に人さまの宝物」であるとも語った。 5月27日には「暴力の根絶プロジェクト」の第5回会合がもたれ、重大な暴力行為には柔道界からの永久追放を含む処罰基準を盛り込んだ指針案をまとめあげた。 加えて、「暴力の根絶プロジェクト」内に設けられたセクハラ根絶のための作業部会は、小学生から実業団選手に至る女子選手にセクハラ行為に関するアンケート調査を実施することになった。希望があれば男子選手に対しても実施するという。また、他競技や一般企業のセクハラ対策を参考にしながら、どのような行為がセクハラに相当するかを定義するためのガイドライン作成にも着手することになった。 5月29日に上村はロシアのサンクトペテルブルクで開催された2020年東京オリンピック招致関連のパーティーに出席した。翌日にはスポーツアコード (のちのGAISF)の会長選挙に立候補しているIJF会長のマリウス・ビゼールの応援のために、同地で開催されるスポーツアコード国際会議の会場に駆けつけると、助成金問題などについての報告も合わせて行った。 6月3日には「暴力の根絶プロジェクト」内に設置されたセクハラ根絶の作業部会において、7月以降の主要大会に参加する男女の選手にアンケート調査を実施することに決めた。また、子供にも理解しやすいようにイラストを付けたセクハラ防止のためのガイドブックを作成する案も提出された。 6月5日には全柔連の専門委員長会議が開かれて、第三者委員会からの提言を受けて、8月1日付けで新設される常務理事会に法曹関係者を含む外部理事と女性理事を登用する方針を定めた。 またこの日には佐賀県嬉野市内で行われていた女子強化合宿が公開されたが、監督の南條によれば、選手の自主性を尊重して練習時間は以前より1時間少なくしたという。また、担当コーチと選手が技術論を交わす光景も見られるようになった。さらに、世界選手権78 kg級代表の緒方亜香里が右膝のケガを抱えているため、都内でリハビリに取り組んでいて今回の合宿には参加しなかったが、このような選択は以前ならば許されなかったともいう。南條は「いろいろな経験をしてきた選手だから心配はない。」とも語った。 6月10日には全柔連に関する問題の把握と、新たにスポーツアコード会長の座に就任したことの挨拶周りを目的に来日していたIJFのビゼール会長が「世界の柔道の現状と展望」と題した記者会見を開いて、上村の会長続投を100%支持すると言明した。上村を「クリーンな人だし、クリーンな精神を持っている」とした上で、今辞任したら問題の解明が遅れるとともに改革も進めることが出来ないと述べた。さらに、8月のIJF会長選挙で自らが再選を果たした場合は、引き続き上村全柔連会長を指名理事として起用していく考えも明らかにした。またIJFは、一連の問題に関する全柔連の報告書を10月15日までに提出するように要求した。この報告によっていかなる処分を下すかの検討をすることになるという。続けてIJF内に女性委員会を設置する意向があることも明かした。続けて、国際オリンピック委員会に男女の団体戦の導入を申請しており、9月のIOC総会で採用される見込みが高まってきたとの見解も示した。
※この「暴力の根絶プロジェクト」の解説は、「女子柔道強化選手への暴力問題」の解説の一部です。
「暴力の根絶プロジェクト」を含む「女子柔道強化選手への暴力問題」の記事については、「女子柔道強化選手への暴力問題」の概要を参照ください。
- 暴力の根絶プロジェクトのページへのリンク