世界のニレ属植物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/09 09:32 UTC 版)
ニレは身近にある木で関心が高く、それでいて地域差も激しいのか、研究者によって相当の相違がある。学名の異名であるシノニムも数多く、ずらっと10個以上並ぶ種もある。日本にはハルニレ、アキニレ、オヒョウの3種が分布する。 Ulmus bergmanniana 中国の標高1500-2500mの山岳地帯に分布。樹高20-25m、直径1m程度の中型種。中国名は興山楡。 U. castaneifolia 中国南部に広く分布。中国名は多脈楡や銹毛楡。種小名castaneifoliaは「クリの葉」の意味。 U. changii 中国南部に分布。個体数が減少しており、一部で保護されている U. chumila U. elongata 中国南部に分布し、樹高30mに達する大型種。中国名は長序楡、種小名elongataは細長いの意味でともに花の長さに由来する。 U. gausseni U. glabra アイルランドからウラル山脈に至るヨーロッパに広範囲に分布。スカンジナビア半島の分布地などではわずかながら北極圏にも入る。樹高40mに達する大型種で、葉の形は後述のオヒョウ (U. laciniata) によく似る。アジアからの侵入病害であるニレ立枯病に弱い。 U. glaucescens 乾燥地にも耐えることから中国名は旱楡。 オヒョウU. laciniata 樹高は25m程度とハルニレよりやや小型。樹形もハルニレやケヤキに比べると幹を真っ直ぐ伸ばす傾向が強いという。葉は先端で3-7つに分裂し、日本産ニレ類では本種だけの特徴的な葉を付ける。葉柄は短く目立たない。種小名laciniataは「細かく分裂した」の意味。 U. lamellosa 中国に分布。樹高10m未満のことが多い小型種。 チョウセンニレ U. macrocarpa 朝鮮半島と中国東北部からチベットにかけての一帯に広く分布。種小名macrocarpaは「大きい果実」の意味。中国名は大果楡だが地域名も多い。 U. mexicana メキシコ南部からパナマに至る中米地域の標高800-2000mの山岳地帯に分布。現地の降水量は年間2000-4000mmに合するという。ニレ属最大の種で樹高80m、直径2.5mを超えることもある。 U. microcarpa 最近報告された種で中国西部チベットの標高3000m付近に局地的に分布。樹高30mに達するといい、結構大きい種である。種小名microcarpaは「小さい果実」の意味。 U. prunifolia 中国中部、湖北省の標高1000 -1500m付近に分布。樹高30m以上に達する大型種。 U. rubra アメリカ東部から中西部にかけて広く分布。樹高20m、直径50cm程度の中型種。樹皮を鎮痛薬に使う。オートミールに近い栄養価があり、アメリカ先住民や初期の入植者は食用として利用したが、そのつかみどころのない味からslippery elmの名で呼ばれている。 アリサンニレU. uyematsui 台湾の阿里山周辺の標高800-2500m付近に分布し、日本人植物学者早田文蔵によって報告された種。樹高は25m程度に達する中型種。和名の漢字表記、現地名ともに阿里山楡。 U. wallichiana ヒマラヤ山脈西部、カシミール地方に分布する。後述するU. villosaと分布地が被るが、U. villosaが湿潤な谷沿いを好むのに対し、本種は乾燥にも耐えて住み分けしているという。 U. canescens 地中海東部地域、イタリア南部からイスラエルにかけて分布する。この地域は地中海性気候で夏の高温乾燥が厳しい、本種は比較的海沿いの湿った森林によく見られるという。U. minorの亜種と考える学者もいる。 U. chenmoui 中国南東部、江蘇省と安徽省に分布。樹高20m未満のことが多い小型種。個体数が減少している。 ハルニレU. davidiana 中国東北部から朝鮮半島、日本にかけて分布。樹高30m、直径1mに達する大型種で日本産ニレ類としては最大種。葉柄は比較的長くよく目立つ。日本産種は大陸産のものと比べて果実の毛が生えてないことからは U. davidiana var. japonicaとし変種扱いすることも多い。かつてはU. japonicaとされ、大陸産種とは別種扱いされていた。和名の漢字表記は春楡とされこれは春に花が咲くことからといわれる。もっとも、ほとんどのニレは春に花が咲くものである。 U. harbinensis 中国東北部黒竜江省に分布。樹高15m以下のことが多い小型種。中国名は哈尔滨楡(ハルビンのニレ)。 U. ismaeris U. lanceifolia 東南アジア地域、中国南部からインドシナ半島一帯とインドネシアの島嶼部に分布。インドネシアの分布地は赤道を僅かに越え、南半球に分布する唯一のニレである。樹高45mに達する大型種。 U. minor U pseudopropinqua 中国東北部の黒竜江省に局地的に分布。中国名は偽春楡。 U. pumila 東はシベリア・モンゴルから西はカザフスタンに至るまで分布。乾燥地にもよく耐える樹高10m-20mの小中型種。葉は寒冷地では落葉するが、温暖地だと半常緑だという。種小名pumilaは「小さい」の意味。中国名は垂枝楡。基本的にニレ立枯病に強いとされる。 U. szechuanica 中国中南部長江に沿って江蘇省から内陸の四川省にかけて分布する。種小名szechuanicaは「四川の」の意味で分布地に因む。中国名は紅果楡。 U. villosa ヒマラヤ山脈西部、カシミール地方の標高1200-2500mの山岳地帯に分布。滑らかな樹皮は皮目が発達し、サクラなどバラ科樹木を思わせる様相になる。 U. alata アメリカ合衆国南東部から南部にかけての広い範囲に分布。枝にはコルク質の翼が発達する。アジアから侵入したニレ立枯病に弱い。 U. americana 北米大陸東部に広く分布。樹高30m、直径1.2m以上になる大型種で英名もAmerican elm(アメリカのニレ)、種小名americanaは「アメリカの」で名実ともにアメリカを代表するニレ。ニレ立枯病に弱く壊滅的な被害を受けた。 U. laevis 西はフランスから東はウラル山脈に至るまで南部を除くヨーロッパに広く分布。 U. thomasii 五大湖南岸を中心に分布。樹皮は荒々しく裂け、枝にはコルク質の翼が発達する。英名rock elm, cork elm。 U. crassifolia アメリカ南部地域、ミシシッピ川より西からテキサス州・メキシコ国境のリオグランデ川に至る範囲に分布。英名cedar elm(針葉樹のようなニレ)、針葉樹の中でもテキサス周辺で特に目立つビャクシン属を指しているといわれる。樹高25m程度の中型種、葉は3-5cm程度と小さくかつ厚い。種小名crassifoliaは「分厚い葉」の意味。花は晩夏から初秋にかけて咲く珍しい種で後述のU. serotinaとは簡単に交雑し雑種を作るという。 アキニレU. parvifolia 中国の中部以南の広い範囲、朝鮮半島と日本に分布。日本では西日本に分布し河原等の水辺を好む。樹高は15m程の小型種で、ハルニレに比べるとだいぶ小さく、樹皮の感じも平滑で鱗片状に剥がれる所などハルニレというよりはケヤキに似ている。このため別名イシゲヤキ(イシは木材の硬さ由来)やカワラゲヤキなどと呼ぶこともある。種小名parvifoliaは「小さい葉」の意味で、実際に葉は3cm程度と小型である。縁には二重鋸歯を持つが、小さい葉では発達が悪くしばしば単鋸歯に見える。世界でも3種しかない秋に花が咲く珍しい種類で和名はこれに由来。中国名は榔楡。ニレ立枯病に強い。 U. serotina アメリカ合衆国南部テネシー州を中心に隣接する州にも点々と分布する。樹高は20m以下のことが多い小型種。花は9月頃咲くことから英名をSeptember elm(9月のニレ)という。種小名serotinaは「晩生の」の意味で、これもおそらくは花の咲く時期に由来する。かつては公園樹などとして良く用いられたが、アジアから侵入したニレ立枯病に弱く現在はほとんど姿を消した。
※この「世界のニレ属植物」の解説は、「ニレ」の解説の一部です。
「世界のニレ属植物」を含む「ニレ」の記事については、「ニレ」の概要を参照ください。
- 世界のニレ属植物のページへのリンク