酒米 酒米の概要

酒米

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/17 23:57 UTC 版)

酒米

酒米として広い地域で使用される品種・産地としては山田錦兵庫県産など)や雄町岡山県産など)が有名であるが、近年は地方自治体が新たな酒造好適米を開発したり、酒蔵が地元産酒米(自社栽培を含む)を使ったり[4]するなど注目すべき変化がある。

特徴

1951年以降は正式には酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)といい、公的な統計で使われる農産物規格規程(農産物検査法)の醸造用玄米(じょうぞうようげんまい)に分類される品種を指し、一般米と区別されるようになった。心白米(しんぱくまい)と呼ばれることもある。イネ科でほとんどがジャポニカ米である。酒造適正米に関しては「酒の原料に使われる一般米」参照。

外観

同じ米でも、家庭の炊飯器などで調理して食べる食用米に比べ稈長(稲の背丈)は高くなり、穂長(稲穂の長さ)も長いのが通例である。しかし、風の強い地方では倒れにくいように、品種改良によって稈長も穂長も小さいものが次々と作られている(「都道府県開発の酒米」参照)。

一般に米の粒が大きい。これは中央部の心白を出すため精米しやすい大きさでもある。このことは専門的には「精米特性高度精米/高度精白に耐えられる」などと表現される。食用米のように粒が小さいと、深く精米するとすぐ砕けてしまうからである。

性質

心白(「構造」参照)が大きく、タンパク質の含有量が少ない。また、磨きこんでも砕けることがないよう粘度が高く、によく溶ける。その品種の心白の大きさは心白発現率(%)で表される。

食用米と同じように、気候・土壌などそれぞれに好適な栽培環境があること(現地適応性)も重要な性質の一つで、同種であっても産地によって品質の違いが生まれる。ゆえに、たとえば山田錦のように人気の高い品種には、栽培地によって特A地区、A地区などと栽培地区分が存在する。

醸造適性

日本酒への醸造のしやすさのこと。「醸造適性が高い」などと表現される。「醸造適正」「酒造適性」などと書かれることも多い。内容としては、心白発現率の大きさ、精米特性の態様、製麹性すなわちへの造りやすさ、破精込み(はぜこみ)の良し悪し、蒸米吸水率、粗タンパク質含有率などが挙げられる。

米が豊作の年には、米の質の関係から、醸造に失敗しやすい事もある。これは豊作の年の米が比較的硬いため、酒を造る時に米が溶けにくく酵母が充分繁殖するのに時間がかかり、その間に雑菌が繁殖してしまうためだとされる。大正4年(1915年)には、この現象(後に「大正の大腐造」とも呼ばれたという)により日本各地で醸造に失敗、酒造業全体に深刻なダメージを被ったとされている[5]。反対に、不作の年は、酒を造る杜氏の大半が農家出身であるために、不作の年は貴重な米を特に大切にして丁寧に酒を造り、不作の年は米が軟らかいために、酒の醗酵が早まりやすくなるものの、それを抑えるために低温で仕込む[5]ので非常に良い酒ができやすい[6][5]とされる。

構造

米粒の中心部にある白色不透明な部分を心白(しんぱく、言葉では「目ん玉」などと称される)という。デンプンから成っている。この部分は細かい空隙を含んでいて光を反射するので不透明になる。またこの空隙に麹菌が入っていって醗酵することも、酒造りにおいて心白が好まれる一因である。逆に、精米の工程で削り落とされる外殻部は、デンプンだけでなくタンパク質脂肪を含んだ混合体なので、空気が入っても光を透過するため白色透明である。

醸造適性の大きい(酒に造りやすい)酒米の条件とは、

  • ある程度、粒が大きい。
  • ほどよい線状心白(せんじょうしんぱく)がある。
  • タンパク質や脂肪分が少ない。
  • 外硬内軟(がいこうないなん)。外側はかたく、内側はやわらかいこと。
  • 保水力に優れていること。

などである。

酒造りにおける醸造工程では、麹菌と酵母がデンプンとアルコール二酸化炭素に変えていくので、米に含まれるデンプン質が重要視される。米粒の含むその他の成分、すなわち食用米の旨みの素となるタンパク質や脂肪は日本酒にとっては雑味の原因となるため[7]、酒米もこれらの成分ができる限り少ないことが望ましいとされることから、酒米には食用米の旨み成分がほとんど含まれていない。また酒米は心白の空隙が多いゆえに炊飯するとパサパサした食感になりがちで炊き方も非常に難しく、たとえ特A地区山田錦のように高価な酒米を炊飯しても美味には仕上がりにくいことも、酒米が食用のうるち米と区別される理由になっている。[8][9]

またこれゆえに酒米として用いる米は、 などの外殻部を食用米の場合よりも大きく削り落とす。この工程を酒造りの用語では「精米する」、あるいは平たく「米を磨く」「削る」と表現する。元の米粒の大きさや重量に比べてどれくらいまで外殻部を削り落とすかが、精米歩合(単位: %)として示される。精米歩合とは磨かれて残った割合を示すものであり、数値が低い程磨きがかかっていることを指す。ちなみに精白度という呼び方もあるが、こちらは逆で磨いた割合を示すもので、数値が高いほど磨かれていることとなる。

心白発現率

その品種の一粒に対して、心白がどのくらいの大きさを占めるかを%で表したもの。たとえば「美山錦」で20%程度、「蔵の華」で9%程度とされる。 1998年平成9年)以前は、全ての酒造好適米において心白は「粒の平面の1/2以上の大きさ」と規定されていたが、多様な新種の開発にともなって同年、食糧庁検査課長による通達により「品種固有の特性をふまえ、形質全体で判断する」という内容へ規制緩和された。


  1. ^ 清酒の原料「酒造好適米」について『愛産研ニュース』2009年6月号 2019年8月4日閲覧
  2. ^ 獺祭、コロナで売り上げ減 原料の山田錦を食用販売朝日新聞デジタル2020年5月13日(2020年9月18日閲覧)
  3. ^ 食用米が醸す美酒の味わい/ゆきさやか、つぶぞろい、新之助…酒米 あえてこだわらず「なじみの米」で間口拡大『日経MJ』2019年10月28日(フード面)
  4. ^ 「酒蔵 米で個性UP 愛知 産地固有品種を自社栽培」毎日新聞』夕刊2022年8月16日(社会面)2022年9月14日閲覧
  5. ^ a b c 篠田次郎「吟醸酒誕生―頂点に挑んだ男たち」、実業之日本社、1992年2月、ISBN 9784408131658 
  6. ^ 酒、ちょっといい話
  7. ^ しかし、これらの雑味の中には調理に有効な旨味成分も多く含まれていることから、料理酒用として醸造される日本酒の中にはあえて雑味を残す醸造方法をとっているものもある。どちらを使えばいい?「料理酒」と「清酒」の【5つの違い】家のコトで役立つ 東京ガスくらし情報サイト ウチコト 2019年7月31日閲覧
  8. ^ a b c d 「日本酒の基礎知識」『蔵元を訪れ美食を楽しむ 日本酒入門』(初版)ダイヤモンド社、2007年6月1日、8頁。ISBN 978-4-478-07787-0 
  9. ^ なお酒米でも、粘りの少なさなど食感への評価や供給過剰から食用とされることもある。「酒米食べて!!消費喚起/兵庫で山田錦など パン原料やカレーに」「供給過剰、3年連続/低等級、買い手つかず」『日経MJ』2019年8月26日(フード面)。
  10. ^ a b c 「米とつくりの重要性」『純米酒を極める』(初版)光文社、2002年12月20日、86頁。ISBN 4-334-03178-1 
  11. ^ 「高まる日本酒人気/国産酒米 英に輸出/全農、秋田・兵庫の計4トン」日本経済新聞』朝刊2018年3月21日(経済面)
  12. ^ a b 資料2 酒造好適米の農産物検査結果(生産量)と令和4年産の生産量推計(銘柄別) 農林水産省
  13. ^ 法律第二十号(平二九・四・二一)◎主要農作物種子法を廃止する法律 附則衆議院(2019年8月26日閲覧)。
  14. ^ 『酒米ハンドブック』株式会社文一総合出版 P.17
  15. ^ a b 酒米ハンドブック 改訂版. 文一総合出版. (2017年7月31日) 
  16. ^ a b 『J.S.A SAKE DIPLOMA Second Edition』一般社団法人日本ソムリエ協会、2020年3月1日。 
  17. ^ a b 白瀑・試験醸造酒 山本 純大吟「秋田酒 120号 & 121号」(2019.05.16 THU.)”. 2021年1月30日閲覧。
  18. ^ 【3755】仙台坊主 純米吟醸 原酒(せんだいぼうず)【秋田県】”. 47NEWS. 2021年11月11日閲覧。
  19. ^ 水稲新品種大吟醸酒向け酒造好適米「夢ささら」 - 栃木県”. 2021年1月30日閲覧。
  20. ^ “北越後・新発田も田植えの季節”. 北越後だより. (2020年5月7日). https://kikusui-tsushin.com/shibata_taue/ 
  21. ^ “菊水酒造渾身の一本、23%精米の純米大吟醸「J23 KIKUSUI」に込められた想いとは?”. SAKETIMES. (2016年6月3日). https://jp.sake-times.com/special/pr/pr_j23kikusui_story 
  22. ^ “幻の酒米「菊水」を復活させて誕生した菊水酒造株式会社の「酒米菊水純米大吟醸」”. にいがた経済新聞. (2021年8月19日). https://www.niikei.jp/176836/ 
  23. ^ “酒米菊水の田植えをしました”. 菊水酒造. (2019年4月30日). https://www.kikusui-sake.com/home/jp/info/kikusui-news/post-4020-2/ 
  24. ^ “酒米「菊水」純米大吟醸原酒”. 菊水酒造. https://www.kikusui-sake.com/home/jp/products/products-3268/ 
  25. ^ “酒米「菊水」純米大吟醸”. 菊水酒造. https://www.kikusui-sake.com/home/jp/products/p013/ 
  26. ^ 福井県独自開発の新酒米の名前、「さかほまれ」に決まる 産経ニュース(2018年12月7日)2020年9月18日閲覧
  27. ^ 百年前の酒米で日本酒復刻へ 姫路の新特産品に”. 神戸新聞NEXT (2018年9月18日). 2018年9月18日閲覧。






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