磁性 磁性の概要

磁性

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/12/15 00:21 UTC 版)

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電磁気学
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概要

磁性は様々に分類がなされている。例えば、磁性の分類の中では強磁性がよく知られているが、強磁性を持つ物質は自ら持続的な磁場を生み出し得る。また、電流などによっても磁場は発生する。ところで、あらゆる物質は程度の差こそあれ、磁場によって何らかの影響を受ける。磁場に引き付けられる物質もあれば(常磁性)、磁場に反発する物質もある(反磁性)。さらに、磁場と複雑な関係を有する物質もある。しかも、ある物質の磁性状態(または相)は、温度(あるいは圧力や周囲の磁場)に依存するため、1つの物質であっても温度などの条件によって様々な磁性を示すことがある。ただし、ほとんどの場合、磁場によって物質が受ける影響は、特別な装置を使わなければ検出できないほど小さい。中でも、磁場の影響が無視できる物質は非磁性 (non-magnetic) 物質と呼ばれ、これには例えば、アルミニウム、一般的な気体合成樹脂などが含まれる。非磁性物質に対して、特別な装置など使わずとも容易に判るほど強い磁性を示す物質(強磁性物質)として、ある種ののような人工的な合金がよく知られている。また、磁鉄鉱(天然磁石)や磁硫鉄鉱などといった鉱物も強磁性物質であり、その名に「磁石」の「磁」が付いていることからも明らかなように、人間が手を加えるまでもなく、磁力を持っていることが見て取れる磁石が天然に生成される場合もあることが知られている。

磁力は、電荷の運動によって引き起こされる基本的なである。磁力を支配する源や場の振る舞いはマクスウェル方程式で記述される(ビオ・サバールの法則も参照のこと)。よって磁性は電荷を持つ粒子運動をすればいつでも現れる。磁性は電流の中の電子の運動によって発生して電磁気と呼ばれたり、電子の量子力学的な軌道運動やスピンによって生じ、永久磁石の力の源となったりする(電子は太陽を周る惑星のような軌道運動を行なっているわけではないが、「実効的な電子の速度」は存在する)。

歴史

アリストテレスによれば、世界最古の磁性に関する科学的議論をしたのはタレス(紀元前625年-545年)だという[1]。同じころ古代インドでは医師ススルタが磁石を手術に利用している[2]

古代中国では、紀元前4世紀の『鬼谷子』に「磁石は鉄をひきつける」という磁性に関する記述がある[3]。紀元20年から100年の間に書かれた『論衡』には「磁石が針をひきつける」という記述がある[4]。11世紀中国の科学者沈括 (1031–1095) は『夢渓筆談』で方位磁針について記述している。

1187年、アレクサンダー・ネッカムはヨーロッパで初めて方位磁針とその航海への応用を記述した。1269年、ペトルス・ペレグリヌスが書いた『磁気書簡』(Epistola de magnete) は、磁石の性質について記した現存する最古の論文である。1282年、イスラムの物理学者で天文学者、地理学者のアル=アシュラフが磁石と方位磁針の性質について記述している[5]

1600年、ウィリアム・ギルバートDe Magnete, Magneticisque Corporibus, et de Magno Magnete Tellure(磁石及び磁性体ならびに大磁石としての地球の生理)を出版。その中で地球をモデル化した terrella を使った様々な実験結果を示している。そういった実験により、彼は地球自体が磁性を持っていて、それによって地磁気が発生して方位磁針が北を指すのだと結論付けた。それまでヨーロッパでは、方位磁針を引き付けているのは北極星(ポラリス)だという説や北極にある巨大な磁石でできた島だという説が信じられていた。

電気と磁気の関係の解明は1819年、コペンハーゲン大学の教授だったハンス・クリスティアン・エルステッドが電流によって方位磁針が影響を受けることを発見したのが始まりである。その後、アンドレ=マリ・アンペールカール・フリードリヒ・ガウスマイケル・ファラデーといった人々が実験を行い、電気と磁気の関係をさらに明らかにしていった。ジェームズ・クラーク・マクスウェルはそれまでの知見をマクスウェルの方程式にまとめ、電気と磁気と光学を一分野にまとめた電磁気学を生み出すことになった。1905年、アインシュタインはそこから特殊相対性理論を生み出した[6]

古典電磁気学は19世紀末には完成していたものの、物質の磁性の起源を本格的に議論するには、20世紀初頭の量子力学の成立を待たねばならなかった。これは、ボーア=ファン・リューエンの定理のために、マクロな古典系においては物質の磁性を説明できないためである。 量子力学の成立以後、電子や原子核の持つスピン角運動量が微視的な物質中の磁性の起源の本質である事が認識された。 量子力学の成立においても中心的な役割を果たしたヴェルナー・ハイゼンベルクは、量子論に基づく強磁性体の理論を1928年に提出した[7]。ハイゼンベルクの理論を始めとして、量子力学を用いた物質の磁性の研究が本格的に始まったが、原子核近傍に局在した電子が磁性を担っているとするハイゼンベルクの理論に対立して、 フェリックス・ブロッホ、エドマンド・ストーナー等が物質中を遍歴する電子が磁性を担っているとする遍歴電子理論[8][9]を擁立し、どちらの理論が的を射ているのか、30年に渡って論争が続いた。その間も、ネール反強磁性弱強磁性等、新しい磁気構造の発見、説明が行われた。局在電子理論vs遍歴電子理論の戦いは、結局の所それぞれの理論が有効な物質が見つかり、どちらの理論もある程度的を射ている事が明らかになった。

1949年になると、ネヴィル・モットによって、電子相関に伴う遍歴電子の局在化の概念がもたらされ[10]、1959年にはフィリップ・アンダーソンによってモットの概念を用いてハバード・モデルにおける電子の局在化の基礎付けがなされた[11]。これによって、遍歴電子と局在電子を統一的に扱う枠組みが確立した。 この功績によってモットとアンダーソンは、同じく磁性について研究していたジョン・ヴァン・ブレックと共に、1977年ノーベル物理学賞を受賞した(授賞理由:磁性体と無秩序系の電子構造の基礎理論的研究)。

20世紀後半になると、銅酸化物系高温超伝導体と磁気秩序の関連、磁性の工業的利用、スピントロニクスの発展等から、物質中の電子の持つスピンの性質に対するより深い理解への欲求が強まり、物質中の磁気秩序の解明が進んだ。 物質中の磁気構造を人工的に操作することも可能になり、磁区と呼ばれる強磁性の構造に情報を記録するハードディスクドライブも実用化された。




  1. ^ Fowler, Michael (1997年). “Historical Beginnings of Theories of Electricity and Magnetism”. 2008年4月2日閲覧。
  2. ^ Vowles, Hugh P. (1932年). “Early Evolution of Power Engineering”. Isis (University of Chicago Press) 17 (2): 412–420 [419–20]. doi:10.1086/346662. 
  3. ^ Li Shu-hua, “Origine de la Boussole 11. Aimant et Boussole,” Isis, Vol. 45, No. 2. (Jul., 1954), p.175
  4. ^ Li Shu-hua, “Origine de la Boussole 11. Aimant et Boussole,” Isis, Vol. 45, No. 2. (Jul., 1954), p.176
  5. ^ Schmidl, Petra G. (1996-1997). “Two Early Arabic Sources On The Magnetic Compass”. Journal of Arabic and Islamic Studies 1: 81–132. 
  6. ^ a b A. Einstein: "On the Electrodynamics of Moving Bodies", June 30, 1905.
  7. ^ Heisenberg, Werner K. (1928年). “zur theorie des ferromagnetismus”. Zeitschrift für Physik A Hadrons and Nuclei 61 (3-4): 619-636. 
  8. ^ Bloch, Felix (1930年). “zur theorie des ferromagnetismus”. Zeitschrift für Physik A Hadrons and Nuclei 61 (3-4): 206-219. 
  9. ^ Stoner, Edmund C. (1930年). “The magnetic and magneto-thermal properties of ferromagnetics”. Philosophical Magazine Series 7 10 (62): 27-48. 
  10. ^ Mott, N. F. (1949年). “The Basis of the Electron Theory of Metals, with Special Reference to the Transition Metals”. Proceedings of the Physical Society. Section A 62 (7): 416. 
  11. ^ Anderson, P.W. (1959年). “New Approach to the Theory of Superexchange Interactions”. Physical Review 115 (1): 1. 
  12. ^ B. D. Cullity, C. D. Graham (2008). Introduction to Magnetic Materials (2 ed.). Wiley-IEEE. p. 103. ISBN 0471477419. http://books.google.com/?id=ixAe4qIGEmwC&pg=PA103. 
  13. ^ Catherine Westbrook, Carolyn Kaut, Carolyn Kaut-Roth (1998). MRI (Magnetic Resonance Imaging) in practice (2 ed.). Wiley-Blackwell. p. 217. ISBN 0632042052. http://books.google.com/?id=Qq1SHDtS2G8C&pg=PA217. 
  14. ^ Griffiths, David J. (1998). Introduction to Electrodynamics (3rd ed.). Prentice Hall. ISBN 0-13-805326-X. OCLC 40251748. , chapter 12
  15. ^ Jackson, John David (1999). Classical electrodynamics (3rd ed.). New York: Wiley. ISBN 0-471-30932-X 
  16. ^ Milton, Kimball A. (2006年6月). “Theoretical and experimental status of magnetic monopoles”. Reports on Progress in Physics 69 (6): 1637–1711. doi:10.1088/0034-4885/69/6/R02. http://arxiv.org/abs/hep-ex/0602040.  - Milton はいくつかの決定的でない事象に言及し (p.60)、「磁気単極子が存在したという証拠は全く残っていない」と結論している (p.3)。
  17. ^ Guth, Alan (1997). The Inflationary Universe: The Quest for a New Theory of Cosmic Origins. Perseus. ISBN 0-201-32840-2. OCLC 38941224. .




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