焼玉エンジン 構造・シリンダーの各工程

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焼玉エンジン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/26 21:02 UTC 版)

構造・シリンダーの各工程

焼玉機関の始動時に使用するブロートーチ
ランツ・ブルドッグ製トラクターの焼玉機関ヘッド部を加熱している様子

焼玉エンジンの特徴はそのシリンダーヘッドの構造にあり、焼玉と呼ばれる球殻状の点火装置と燃料気化装置を兼ねた燃焼室が取り付けられている。焼玉とシリンダー上部はくびれた通り道によってつながっている。

4ストローク型焼玉エンジンのサイクルの各行程は次のようになる。

吸気行程では、ピストンが下降する間、焼玉内に状の燃料が噴射され続け、熱せられた焼玉の内表面に燃料が接触して気化されガス状の燃料が供給される。そして吸入空気と混合撹拌され混合気が形成される。

圧縮行程では、出来上がった混合気がピストンの上昇とともに圧縮され、混合気の圧力と温度が上昇する。

着火は、ピストン上昇による混合気の圧力上昇と温度上昇により、混合気の最少熱面着火温度が低下し、焼玉の内表面の温度と一致すると、焼玉の内表面で起こる。焼玉内の高圧の燃焼ガスは、焼玉自身に熱エネルギーを与えるとともに、焼玉とシリンダーとの間のくびれた通り道を通じてシリンダー内に勢いよく噴出し、ピストンを押し下げる。燃焼はもっぱら予混合燃焼である。着火時期は、最も効率よくエンジンの出力を発生するには、ピストンの上死点から幾分か手前で起こるのが望ましいが、焼玉エンジンではそのコントロールが困難である。

混合気の燃焼により発生した圧力でピストンは押し下げられ、コネクティングロッドを介しクランクシャフトに回転エネルギーを与えるのは、他の4ストロークレシプロ内燃機関と同様である。その後の排気行程も同様である。

始動方法

比較的に小型の焼玉エンジンの始動方法は次のように行った。

まずシリンダーヘッドの焼玉を外部からバーナーで加熱して高温状態にする。 次に、焼玉を貫通し設けられた排気コックを開放し、シリンダー内の圧力を逃がす(デコンプ)。この状態ならば、はずみ車を回して同軸のクランシャフトを回転させ、ピストンを上下させても圧力がかからないため、はずみ車を幾分楽に回すことができる。はずみ車を回転し続け勢いがついた所で、排気コックを閉めつつ燃料噴射を開始させる。もし焼玉内表面の熱面着火する時点のピストンの位置が適正ならば、エンジンを始動することができる。

また幾分大きな小型船舶用の竪型単気筒焼玉エンジンでは、次のように行ったようである。 上記の小型エンジンと比べサイズが大きく、はずみ車、ピストン、コネクティングロッド、クランクシャフトが重く、摩擦も大きいため動かすのが困難である。そのため、はずみ車の動かし方が異なる。 まず焼玉を外部から加熱する。その後、排気コックを開放しガスを抜く。この状態でピストン内の圧力が大気圧と同一となりピストンが自重で下死点まで下がる。次に排気コックを閉める。そして、はずみ車を左右に揺すり、その動きの幅が180度程度になった所で、逆回転側に勢いよく動かす。それと同時に燃料を噴射させる。これにより逆回転早期着火(プレイグニッション)を起こし、クランクシャフトを正回転側に向けて勢いよく回転させてエンジンを始動させた。

また概ねエンジンの出力が30日本馬力を超えると、始動用に圧縮空気ボンベ圧縮空気によるエンジン始動が一般的であった。

焼玉エンジンの特徴である、起動した後の連続運転中に外部から焼玉へ加熱を必要としない所は各々共通である。

焼玉エンジンの利点

焼玉エンジンは、火花点火式の石油発動機と比べれば点火プラグマグネトーなどの電装系もキャブレターのような燃料供給系もなく、ディーゼルエンジンのように高価で複雑な噴射機構もなく、簡便な構造なので製造が容易であった。エンジン本体の価格を安くできたため、20世紀の前期は世界各国で汎用エンジンとして普及した。また、適正な圧縮比や焼玉内でうまく燃料を気化できれば、燃料費の安い常圧蒸留残油成分の多い低質重油でも動かすことが可能であった。ただし低質重油は、燃料噴射性能に影響を与える粘度が高く、含まれる硫黄分によるエンジン内部の錆びやエンジンオイル酸化の進行が速く、エンジン寿命にも影響を与えるため、推奨はされなかった。さらにはそもそも石油系の鉱物油である必要もなく、太平洋戦争時など石油系燃料が欠乏した際には、植物油を混用した例もある。しかし、早期着火(プレイグニッション)の問題でディーゼルエンジンほどの高圧縮比にできなかった。加えて、ガソリンと比べて自発火温度が低くアンチノック性(ディーゼルノッキングではない)に劣るため、火花点火式ガソリンエンジンと比べても圧縮比は低いものとならざるを得なかった。


  1. ^ 一部文献にこれを「水の熱分解による水素と酸素に発生により、それが燃焼した」という記述が散見されるが、この当時の焼玉機関程度の温度(400℃前後)では水の熱分解(少なくとも700℃以上が必須)は発生しないため誤りである。
  2. ^ 重油はもちろん、例えば日本ではJIS1号灯油(主に暖房・灯具用)制定前の石油系軽質燃油には多量の硫黄が含まれていた。後年ディーゼルエンジンの排ガス浄化の妨げにもなっており、動力用の石油系脱硫燃油が主流となるのは時代も大きく下って21世紀を待たなければならない。
  3. ^ 藤田護『小型船エンジン読本、三訂版』成山堂書店、1998年、157頁。ISBN 4-403-61051-X 
  4. ^ 大半の車両は歯車駆動。
  5. ^ 文献によっては80輌以上とするものもあるが、早期に運用停止した事業者から他社に譲渡された車両を重複計算している可能性があり、正確な数値は判然としない。
  6. ^ 申請に対する認可という形で各軌道ごとに施行された。
  7. ^ 最大在籍輌数は20輌。廃線前の1939年(昭和14年)4月に偶然同地を訪れた牧野俊介が撮影した写真と記述(『昔々の軽便のアルバム 自転車に抜かれたコッペルたち』プレス・アイゼンバーン、1980年、pp94-99)によれば、当時少なくともNos.2・7・10・12・18の5両が現役として存在し、車庫には10両分以上の石油発動車用部品が蓄積されていたという。なお、1934年(昭和9年)の段階で羽犬塚 - 黒木間の路線長は17.2 km、自動車では所要50分のところを石油発動車は1時間20分かけて運行していた。
  8. ^ 中岩瀬SLを走らせる会(NSL)”. 2014年9月20日閲覧。





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