女子教育 世界の状況

女子教育

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/02 09:05 UTC 版)

世界の状況

欧米

中世ヨーロッパでは修道女学校が存在したが、修道女の育成が目的であり、一般庶民の女性が教育を受ける場は存在しなかった[3]。この頃、イタリアヴィットリーノ・ダ・フェルトレ英語版

フランスでは14世紀に女子教育論の文献が出され、フランス革命期にはシャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴールコンドルセらが女子教育を支持した[4]。1850年3月15日の法律(ファルー法フランス語版)によって女子初等教育が義務化され[5]、1880年12月21日の法律(カミーユ・セーフランス語版法)によって女子中等教育体制が確立した[6]。教育者エリザ・ルモニエは1862年にフランス初の女子職業教育学校を設立した[7]

ドイツではフランスに影響を受け、17世紀末にフランケ学院に女子の中等教育機関が設置された[8]。また同時期の教育学者コメニウスは以下のように述べ、男子同様に女子にも教育が必要であると主張した[1]

男子のみがそれ(教育)に携わって、女性が知識の探求ということから、まったく除外されて差支えないという理由が、どこにあるのだろうか。……彼らは男性と同様の、鋭敏なる精神と知識に対する能力とを与えられているのである。(否しばしば、男性よりもすぐれた能力に恵まれているのである。) — コメニウス『大教授学』

18世紀前半にはイギリスダニエル・デフォーが「この世界で最も野蛮な習慣の一つは、女子の学問の利益を否定することだ」と主張した[9]。一方でサミュエル・ジョンソンは「男というものは、一般には、食卓の上で御馳走にありつける方が、自分のギリシア語を話すことよりも喜ぶものだ」といったようにすべての人に女子教育の必要性・重要性が一般認識であったわけではなかった[10]アメリカでは、1833年にオベリン・カレッジ(オーバリン大学)が男女共学を採用、1841年に同校が大学がBachelor of Arts(教養学士)の学位を与えるなど世界的に見て女子への高等教育の門戸を開いたのは早かった[11]。イギリスで大学が女子の入学を認めたのは1841年ロンドン大学のクインズ・コレジが最初である[12]

アフガニスタン

2021年、かつて自由な女子教育を否定していたターリバーンが復権。教育相は会見の中で女子教育の必要性を否定しなかったが、中等教育(日本の中学校、高等学校)ではイスラム法に沿って男女別に教育の場を分ける必要があること、女子の通学には自動車などの男子と異なる通学手段を確保しなければならないこと、こうした教育環境を整えるには資金が圧倒的に不足していることを説明。女子中等教育の再開の目途が立たない状況となっている[13]

その後、女子中等教育は再開されないまま、2022年3月には中等教育を受ける7年生以上の女子生徒の復学を禁じたほか、同年12月には女性の大学教育の停止を決定。実行に移した[14]

アラブ諸国

アラブ諸国では2010年現在も女子教育が十分とはいえず、非識字が広がっており、2010年10月28日にはアラブ連盟の付属機関であるアラブ女性機構の第3回会議の場で女性への教育・訓練に力を入れるよう呼び掛けられた[15]。また、女子教育への関心が女性の就業や社会発展に必ずしも結び付いていないことも問題視された[15]

女性の識字率

識字率は特定の地域の総人口に占める「識字者」の割合であり、経済社会の発展と密接に関連する数値とされる[16]。ただし、「識字者」の定義が国によって異なり、読み書き能力を問う場合、自己の名前を書けるかを問う場合などさまざまで、日本では就学率をもって識字率と見なしている[16]。ゆえに、一概に比較できないことに注意を要する。

二宮書店発行の『データブック オブ・ザ・ワールド 2011年版』によれば、男性の方が女性よりも識字率の高い国が多いが、いくつかの国では女性の識字率が男性を上回っている[17]

以下に女性の識字率が男性の識字率より高い国を列挙する。(ただし、『データブック オブ・ザ・ワールド 2011年版』には識字率のデータが掲載されていない国がある(先進国など)[17]。)なお、1990年の統計では、日本の女性識字率は99.7%、男性識字率は99.9%である[18]

統計年 女性識字率
(%)
男性識字率
との差[注 1]
アラブ首長国連邦 2005 91.5 2.0
フィリピン 2008 93.9 0.6
モルディブ 2007 97.1 0.1
モンゴル 2008 97.8 1.1
セーシェル 2008 92.3 0.9
ボツワナ 2008 83.5 0.4
レソト 2008 95.1 12.5
マルタ 2004 93.5 2.3
アンティグア・バーブーダ 2008 99.4 1.0
コスタリカ 2008 96.2 0.5
ジャマイカ 2008 90.8 10.2
セントルシア 2001 90.6 1.1
バハマ 2003 96.5 1.8
ベリーズ 2000 77.1 0.4
アルゼンチン 2008 97.7 0.1
ウルグアイ 2008 98.5 0.7
 コロンビア 2008 93.4 0.1
 チリ 2008 98.7 0.1
ブラジル 2007 90.2 0.4
トンガ 2007 99.3 0.1
マーシャル諸島 1999 93.7 0.1

注釈

  1. ^ 女性識字率から男性識字率を引いて得られた値

参考文献

  1. ^ a b 一番ヶ瀬 (1967):10ページ
  2. ^ a b 一番ヶ瀬 (1967):29ページ
  3. ^ 川畑・浅井 編 1958, p. 20.
  4. ^ 平塚 1965, pp. 9–10.
  5. ^ Loi relative à l'enseignement du 15 mars 1850” (フランス語). Ministère de l'Éducation nationale et de la Jeunesse. 2019年8月7日閲覧。
  6. ^ Les lois scolaires de Jules Ferry : la loi du 21 décembre 1880 sur l'enseignement secondaire des jeunes filles” (フランス語). www.senat.fr. Sénat. 2019年8月7日閲覧。
  7. ^ Charles Lemonnier (1866) (フランス語). Élisa Lemonnier, fondatrice de la Société pour l'enseignement professionnel des femmes. L. Toinon. https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k6322965j/f1.image 
  8. ^ 平塚 1965, p. 9.
  9. ^ a b 平塚 (1965):4ページ
  10. ^ a b 平塚 (1965):5ページ
  11. ^ 平塚 (1965):8ページ
  12. ^ 平塚 (1965):7ページ
  13. ^ 「教育に反対する人はいない」 タリバン高等教育相インタビュー”. 毎日新聞 (2022年8月18日). 2022年8月18日閲覧。
  14. ^ タリバン、女性の大学教育を停止 アフガン”. CNN (2022年12月21日). 2022年12月24日閲覧。
  15. ^ a b クドゥス・アラビー紙"アラブ女性機構会議 非識字率に警告"神田春菜 訳、東京外国語大学(2011年5月18日閲覧)
  16. ^ a b 国立国会図書館"識字率の調べ方"2010年8月29日更新(2011年5月18日閲覧)
  17. ^ a b 二宮書店編集部 編 (2011):世界各国要覧(161 - 475ページ参照)
  18. ^ 二宮書店編集部 編 (2011):225ページ
  19. ^ 学制
  20. ^ 妻妾論抜粋『森有礼』海門山人 、民友社、明30
  21. ^ 『高等女学校関係法令の沿革』(文部省教育調査部、1941)
  22. ^ a b 初めての東大女子入学生は19名 | 東京大学男女共同参画室
  23. ^ a b 河西秀哉「<資料紹介> 1953年11月 関西女子学生大会」『京都大学大学文書館研究紀要』第6号、京都大学大学文書館、2008年1月、99-121頁、doi:10.14989/68875ISSN 13489135NAID 120001009532 
  24. ^ おおたとしまさ (2015年4月19日). “日本で「名門女子校」が生まれた理由”. プレジデントオンライン. p. 2. 2019年6月1日閲覧。
  25. ^ a b 中沢 (2011):1ページ
  26. ^ a b 2019年度山脇学園中学校入学式を行いました | 山脇学園中学校・高等学校 2019.6.9閲覧。
  27. ^ 「女子大生の日」は8月21日 東北大が16日説を修正”. 河北新報 (2020年8月5日). 2020年8月16日閲覧。
  28. ^ 女子大生の日”. 日本記念日協会. 2020年8月16日閲覧。
  29. ^ 同志社社史史料編集所 『同志社百年史』 通史編一、学校法人同志社、1979年、810頁
  30. ^ 旧制大学時代を通じて131名の女子卒業生を送り出した(『女性と学歴』 84頁)。
  31. ^ 旧制大学時代を通じて111名の女子卒業生を送り出した(『女性と学歴』 84頁)。
  32. ^ 『関西大学百年史』 通史編上巻、1986年、419-422頁
  33. ^ 『東洋大学百年史』 通史編Ⅰ、1993年、751頁
  34. ^ 『明治大学百年史』 第四巻 通史編Ⅱ、913頁
  35. ^ a b 『明治大学百年史』 第四巻 通史編Ⅱ、82頁
  36. ^ 『法政大学八十年史』 1961年、437頁
  37. ^ 『東洋大学百年史』 通史編Ⅰ、768-773頁
  38. ^ 法政大学百年史年表 40頁(『法政大学百年史』所収)
  39. ^ a b 『慶應義塾百年史』 下巻、58-64頁
  40. ^ 早稲田大学百年史 第三巻/第七編 第七章
  41. ^ 心理科学研究室年表-歴史|関西学院大学心理科学研究室
  42. ^ 『立教学院百年史』 648頁
  43. ^ タイムトラベル中大125:1885→2010』 学校法人中央大学、66-67頁
  44. ^ 『関西大学百年史』 通史編上巻、898-899頁
  45. ^ 一番ヶ瀬 (1967):17ページ
  46. ^ 吉田 (1965):60 - 61ページ
  47. ^ 吉田 (1965):62ページ
  48. ^ a b 一番ヶ瀬 (1967):18ページ
  49. ^ a b 一番ヶ瀬 (1965):136ページ
  50. ^ a b 一番ヶ瀬 (1968):140 - 141ページ
  51. ^ 学校法人越原学園"学校法人越原学園 教育の理念(女子教育の意義)"(2011年5月8日閲覧)
  52. ^ 学校法人愛徳学園"愛徳学園 [兵庫県神戸市] - 小中高一貫女子教育"
  53. ^ NPO法人女子教育奨励会"NPO法人JKSK(女子教育奨励会) 〜女性の活力を社会の活力に〜"(2011年5月8日閲覧)


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