乳母車 乳母車の概要

乳母車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/19 20:01 UTC 版)

古典的な乳母車(1910年製)

歴史

13世紀の手押し車の利用法

ヨーロッパでは中世13世紀ごろから子供を手押し車に載せて運ぶことが行われていた。

専用のものとしては、古くはイギリスの著名な造園家ウィリアム・ケント1733年、第3代デヴォンシャー公の求めに応じ製作したものが知られているが、これは犬や子馬に牽かせる荷車のようなもので豪華な装飾が施されていた[1]1830年代にはアメリカの玩具製作者ベンジャミン・ポッター・クランドール[注釈 3]が販売していたことが知られており、その息子ジェス・アーマー・クランドール[注釈 4]は様々な改良を加えて数多くの特許を取得している[2]。日本最初の乳母車は、1867年福沢諭吉アメリカから持ち帰った乳母車とされている[3]

初期の乳母車は木製ないし枝編みで、時として芸術的なまでの装飾が施されており、王侯に因んだ名を付けられるような重量感ある高価なものだった。しかし1920年代になると一般家庭でも使われるようになり、軽量化も図られるようになった。

1965年、航空技師オーウェン・マクラーレンが、娘がイギリスからアメリカへ旅行した際に乳母車が重いことに不満を言ったため、アルミ製の折りたたみ式乳母車を開発した。これを製品化したマクラーレンは、現在世界的な人気ブランドとなっている。

種別

現在普及している乳母車には、大別して箱形で寝かせるものと椅子形で座らせるものと2種類があり、英語圏では異なる名前で呼び分けている。日本では名前の区別はないが、SGマーク認定基準のA形・B形はおおよそこれに対応している[4]。もっとも、組み換えることで両用できる製品などもあり、絶対的な区別ではない。

箱形
主に乳児を押し手と対面するように寝かせるもので、日本では「A形」に区分される。pram(元々は perambulator)は古典的な大型のもの、carrycot は軽くて付け外しできるもの。
椅子形
主に3〜4歳までの幼児を前向きに座らせるもので、日本では「B形」に区分される。pushchair は古典的な呼び名だが、マクラーレンのヒットにより、軽い折りたたみ式のものはbuggyと呼ばれるようになった。アメリカ合衆国で buggy と言った場合には stroller よりも大型で、組み換えることで寝かせたり座らせたりできるものを指す。

日本の状況

日本では近年、ベビーカーと呼称されるケースが増えている(それに倣って以下、本節ではベビーカーと呼称)。また日本の市場規模は、売上げベースで約130億円、台数ベースで約70万台(2006年)との推定があるが[5]、規模は年々縮小しており、2007年2001年比で20%以上の減少となっているという[6]アップリカ・チルドレンズプロダクツコンビによる寡占市場であったが、2002年に発売されたマクラーレン製品がヒットしたことを機に、ほかの外国製製品も輸入され始めた状況にある[6]

近年、軽量で丈夫な材質で製造されており大人一人でも持ち運びが出来る上に、収納時に場所を取らず折りたたみ可能な商品も多く出回っている。公共交通機関では基本的に折りたたまずに乳児を乗せたままの乗車が可能[注釈 5]とされており、国土交通省がベビーカーの安全な使用方法や利用者のマナー向上を推進している[7]。多くのベビーカー利用者が混雑時を避ける、優先席付近や車端部に乗車するなどしており一般にマナーは良好であるとされる一方、一部の非常識なベビーカー利用者による迷惑行為やそれによる他の乗客とのトラブルがクローズアップされて社会問題化しており(先述の国交省による呼びかけや、2014年の「ベビーカーマーク」制定も論争を受けての動きである[8])、列車内でのベビーカー利用は国交省や各鉄道事業者による一応のお墨付きこそあるものの、個々の状況に応じて良識的な判断が求められるとの指摘もある[9]

また、2015年にはベビーカーの自動ブレーキが発明された[10]


注釈

  1. ^ 和製英語であり、英語でbaby carというと幼児が乗れるおもちゃの車などが連想される。
  2. ^ 元はイギリスマクラーレン社の商品名だった。
  3. ^ : Benjamin Potter Crandall
  4. ^ : Jesse Armour Crandall
  5. ^ 乗降方式が前乗り前降りの路線バスは除く。

出典

  1. ^ “Baby Stroller”. How Products Are Made: An Illustrated Guide to Product Manufacturing. 4. Detroit: Gale group. (1998). ISBN 978-0787624439. http://www.madehow.com/Volume-4/Baby-Stroller.html 2013年8月25日閲覧。 
  2. ^ Toys and More”. Museum of American Heritage. 2013年8月25日閲覧。
  3. ^ 三島あずさ (2010年7月2日). “「日本最初」の乳母車 慶応大”. asahi.com. 2013年8月25日閲覧。
  4. ^ 乳母車の認定基準及び基準確認方法” (PDF). 財団法人製品安全協会 (2009年3月2日). 2013年8月26日閲覧。
  5. ^ 「ベビーカー:増える『SGマーク』なし--「基準外」外国製大型品人気で」『毎日新聞2007年5月26日付配信
  6. ^ a b 川又英紀 (2008年9月18日). “英マクラーレンのベビーカーが急成長 販売台数は5年で80倍、寡占市場に風穴”. 日経BP社. 2011年9月10日閲覧。
  7. ^ 「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」決定事項の公表について 国土交通省 総合政策局安心生活政策課、2014年3月26日
  8. ^ 電車内のベビーカー使用問題依然くすぶる 「たたまずに、が基本」との指針出たものの... J-CASTニュース、2014年12月31日
  9. ^ 電車内の「ベビーカー問題」は解決できるのか 迷惑な子連れと不寛容な乗客の無益な争い 東洋経済オンライン・鉄道ジャーナル(2016年9月21日)、2023年8月31日閲覧
  10. ^ 毎日新聞 2016年7月1日 自動ブレーキ ベビーカーに装着 中学生の発明が特許
  11. ^ a b 法律|警察庁Webサイト”. 警察庁Webサイト. 2020年1月29日閲覧。


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