リンクトレーナー リンクトレーナーの概要

リンクトレーナー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/08 13:55 UTC 版)

リンクトレーナー

オリジナルのリンクトレーナーは新人パイロットに安全に計器飛行の手法を教えるために1929年に作られた。元はオルガンジュークボックスの製造者であったリンクは自身のポンプバルブふいごに関する知識を利用してパイロットの操縦に反応し、装着された計器を正確に読み取るフライトシミュレータを作り出した。50万人以上のアメリカ合衆国のパイロットがリンクトレーナーで訓練を受け[2]オーストラリアカナダドイツイギリスイスラエル日本パキスタンソビエト連邦といった数多くの国のパイロット訓練にも使用された。

日本では1970年代まで唯一フライトシミュレータメーカーの東京航空計器ライセンスを受け製造した。推定製造数は40 - 50機で、戦時中は陸軍、海軍、空軍、戦後は陸上、航空、海上自衛隊、航空局、航空大学校に納入した。旧日本軍で正式に「地上演習機」と呼称され、日本海軍予科練では「ハトポッポ」とも称された。

リンク・フライトトレーナーはアメリカ機械工学会により歴史的機械技術遺産(英語: A Historic Mechanical Engineering Landmarkに選定された[3]。リンク社 (Link Company) は、現在L-3 コミュニケーションズ社の一部となり、宇宙船用のシミュレータを造り続けている[4]

起源

エドウィン・リンク設計のフライトシミュレーターの図(USA - 1930)

エドウィン・リンクは青年期に飛行することに熱注したが費用が高額で実際に飛行できず、1927年に学校を卒業するとシミュレーターの開発を始めて実験に18か月を要した。1929年に発表された最初のパイロットトレーナーは、外観上は短い木製の主翼とユニバーサルジョイント上に載った胴体を持つ玩具の飛行機であった。家族が所有してニューヨークのビンガムトンで営業するリンク・オルガン工場で作られた、オルガン用ふいごが電気ポンプで駆動され、パイロットが動かす操縦桿に追随してトレーナーのピッチロールの姿勢を制御した[5]

リンクの最初の軍向けの販売は、アメリカ陸軍航空隊U.S.エアメール英語版の事業を引き継いだ時に起こったエアメール・スキャンダル英語版から生まれた。計器飛行方式に習熟していないことが原因で78日間で12名のパイロットが死亡した大量の犠牲が、陸軍航空隊にリンクのパイロットトレーナーを含む多種の問題解決手法の検討を促した。1934年に陸軍航空隊は、自らの評価チームが飛行不能と判定した霧の立ち込める気象条件下でリンクが会合に出席するために飛行したことで、計器飛行訓練の潜在能力を強く認識し[5]、最初のパイロットトレーナーを単価3,500ドルで6基発注した。

リンク社は急速に成長し、第二次世界大戦の期間中に数万名の未熟なパイロット達に「ブルーボックス」(他の国々では別の色で塗装されていたが)として知られたANT-18基本計器トレーナーはアメリカ合衆国や連合国のあらゆる飛行学校の標準装備品となった。戦争期間中にリンク社は1万基以上のブルーボックスを製造し、これは換算すると45分に1台の割合であった[4]

リンクトレーナーの各型

1934年から1950年代終わりの期間に数機種のリンクトレーナーが販売された。これらのトレーナーはその時代時代の航空機の増加する計器や飛行特性に応じて改良が加えられたが、最初の製品で開発された電気と油圧を使用した基本構造は踏襲していた。

1934年から1940年代初めまでに製造されたトレーナーは胴体を明るい青色、主翼と尾翼を黄色に塗装されていた。この主翼と尾翼はパイロットが操作する方向舵のペダルと操縦桿の動きに従い実際に動翼部が可動したが、大戦中期から後期にかけて生産されたトレーナーは物資不足と生産時間短縮のために可動する主翼尾翼は取り付けられなかった。

パイロットトレーナー

パイロットトレーナーはリンクの最初の製品であり、1929年の試作型からの発展版であった。

ANT-18

セイモア英語版フリーマン・フィールド英語版にあるリンクトレーナー。第二次世界大戦中にフリーマン・フィールドは米陸軍航空隊の飛行場であった。
アメリカ海軍で使用されるリンクトレーナー

2機種目で最も量産されたリンクトレーナーはC3型を多少改良したANT-18 (Army Navy Trainer model 18) であった。この型の計器盤に幾らか改造を施されたD2と命名された型がカナダ空軍イギリス空軍向けにカナダ国内で生産された[6]。これは第二次世界大戦前と中に数多くの国々でパイロット訓練に使用され、特にイギリス連邦航空訓練計画英語版において多用された。

ANT-18は全3軸の回転機構を有し、全ての飛行計器を効果的に再現していた。失速兆候の振動、引き込み式降着装置の速度超過、スピン英語版の条件を作り出せた。取り外し可能な不透明の風防を取り付けることができ、これを使用することにより暗視飛行の状態を再現し、特に計器飛行と航法の訓練に有用であった。

ANT-18の設計と構造

ANT-18は2つの主要な部位から構成されている。

一つ目の主要部位はトレーナー自体である。これはほぼコックピットと全部胴体の形状を模した木製の箱であり、自在継手を介して土台部と結合されている[7]。単座のコックピットには主/従の操縦装置と飛行計器一式を備えており、台座の中には姿勢変化を作り出すための空気圧で作動するふいご、ふいごと幾つかの計器を作動させるための真空ポンプ、残りの計器を作動させるテレゴン・オシレーター(Telegon Oscillator)として知られる装置といった複雑な機器が幾つか内蔵されている。

2つ目の主要な部位は、大きな地図台、飛行計器の表示器、「クラブ」("crab")として知られる可動式マーカーで構成される外部の教官席である。クラブは地図台の上のガラス面上に航行軌跡を記録していく。パイロットと教官はお互いヘッドフォンマイクロフォンを通じて交信することができた[8]

ANT-18は主となる3つのふいごのセットを有している。1つ目のセットである4つのふいご(コックピット底部の4隅)がピッチングローリングを制御している。コックピット前部の非常に複雑なフイゴのセットはヨーイングを制御しており、10個のフイゴ、2本のクランクシャフトと様々な歯車と滑車で回転モーターを構成し、このモーターがコックピット全体の360度方向への滑らかな回転を可能にしている。一組の電気スリップリングが下部の台座内で接触していることで、コクピットと台座間の電気の伝達を実現している。

3つ目のフイゴのセットはストールバフェットなどの振動を再現している[9]。訓練生と教官の機器には標準の交流110ボルト/240ボルトを変圧器を通して膨大な数の内部配線に低電圧の電気が供給されている。シミュレーションのロジックは全てアナログであり、真空管を応用したものであった。


  1. ^ Kelly 1970, p. 33.
  2. ^ "C3 Flight Trainer." American Society of Mechanical Engineers. Retrieved: 20 February 2010.
  3. ^ "Landmarks." asme.org. Retrieved: 20 February 2010.
  4. ^ a b c "U.S. Air Force Fact Sheet: Link Trainer." Archived 2012年1月24日, at the Wayback Machine. National Museum of the United States Air Force. Retrieved: 20 February 2010.
  5. ^ Jaspers, Henrik. "Paper to Royal Aeronautical Society Conference." Archived 2007年3月19日, at the Wayback Machine. wanadoo.nl, May 2004. Retrieved: 30 March 2009.
  6. ^ Kelly 1970, pp. 70–71.
  7. ^ Kelly 1970, pp. 65–68.
  8. ^ Kelly 1970, pp. 65–66.
  9. ^ "ADF Serials, A13 Link Trainer." adf-serials.com. Retrieved: 29 September 2010.
  10. ^ "130 (Bournemouth Squadron) ATC." aircadets130bournemouth.org. Retrieved: 29 September 2010.
  11. ^ "Wellingborough School CCF." Archived 2008年3月28日, at the Wayback Machine. RAF via rafsection.com. Retrieved: 29 September 2010.
  12. ^ アーカイブされたコピー”. 2007年7月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年6月29日閲覧。
  13. ^ http://neam.org.uk/Exhibits/Exhibits.htm
  14. ^ "Contents of 'Hangar One'." Archived 2009年2月7日, at the Wayback Machine. Museum of Aviation, Robins AFB. Retrieved: 1 August 2010.
  15. ^ "Permanent Exhibits: Link." roberson.org. Retrieved: 1 August 2010.
  16. ^ "Link Trainer." Boland Balloons. Retrieved: 1 August 2010.
  17. ^ "Link Trainer." Archived 2010年6月19日, at the Wayback Machine. simlabs.arc.nasa.gov. Retrieved: 16 September 2010.
  18. ^ Rich, David. "Collection: Link Trainer (photograph)." Archived 2010年11月30日, at the Wayback Machine. Valiant Air Command Warbird Museum via vacwarbirds.org. Retrieved: 6 November 2010.


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