ホウ酸 毒性

ホウ酸

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/06 07:02 UTC 版)

毒性

半数致死量 (LD50)は 5 g/kg 程度で、体重60 kg では約300 g で半数致死量となる[8]。継続してホウ酸を摂取すると下痢など消化器系の不良が生じる可能性がある[9]。 腎臓機能で排泄できない昆虫には毒性が強く現れ、通常殺虫剤として利用される[10]

濃度にもよるが植物では1年草全般で有害であり、樹木によってはギンモクセイゴールドクレストなどはホウ酸に弱い。逆に少量では必須栄養素となり肥料として市販もある。土壌から抜けにくいため施肥濃度には注意を要する。作物から人体への影響はほとんどない。

その濃度毒性を利用し、欧米では建築用木材で、シロアリや菌類への防虫防腐剤として塗布されている事が多い。近年では日本でも毒性の低さと長期有効性から優良住宅認可/認定され始め注目を浴びている。

用途

  • 水酸化カリウム水溶液の中和剤としても用いられる。工業用メーカーは、アメリカ合衆国トルコロシアチリペルーアルゼンチン日本は全量を輸入に依存。用途はホウ酸塩ガラスガラス繊維、ホウ素系合金鉄、目に入った場合の中和(後述)。
  • ホウ素の高い中性子捕獲能力を利用して、原子炉の核分裂で生成する熱中性子への毒物質[注 1]として利用される。この場合は容易に水溶するホウ酸として利用することが多く、ホウ酸水の場合は冷却材も兼ねる。なお、放射性核種の原子核崩壊は熱中性子がなくても自発的に起こるものであるため、吸収剤としてのホウ素は役に立たない。従って、崩壊熱で原子炉が高温となる状態は、別の手段で冷却を行う必要がある。
  • 小学校5年の理科の実験(物の溶け方)で溶解度の実験を行なう際、食塩(塩化ナトリウム)と並ぶ代表的な試薬。ホウ酸のほうが溶解度が低いため、水に良く溶ける塩化ナトリウムと溶解度を比較したり、水温を上げた場合に両薬品の溶け方がどう変化するかなどの実験で用いられる。
  • ゴキブリ駆除の食毒剤として、ホウ酸団子 (10 % - 50 %) が使用される場合がある。完成された市販品があるほか、タマネギ米ぬかジャガイモをペースト状にして、ホウ酸を混入させることで自作することも可能だが、ペットが誤飲すると、脱水で死に至る場合がある。市販の「ゴキブリキャップ」などは、ホウ酸と餌の混合物を収容ケース内に収めたもので、ゴキブリは収容ケースに開けられた小さな穴を通過し内部の毒餌を食べることができる。ホウ酸濃度が高いと(30%以上)二次駆除も可能となる。
  • シロアリ防除薬剤としてホウ酸が用いられる場合も増えてきている。生体内でおこる食物をエネルギーに変える代謝反応では、アミノ酸リン酸などを要素とする多数の補酵素コエンザイム)が働くが、ホウ酸は糖に由来する水塩基とキレート結合を形成し、補酵素の機能を失わせることで代謝を停止させる働きがある。腎臓を持つ哺乳動物は、ホウ酸を摂取しても細胞に届く前に腎臓で濾過され、体外に排出されるためホウ酸の毒性は微弱であるものの、シロアリをはじめとする昆虫やダニ、バクテリアなどに対しては厳しく作用する。各シロアリの毒性閾値はイエシロアリで3.0、ヤマトシロアリで<3.0、アメリカカンザイシロアリで1.0(kg/㎥BAE)。
  • アリ駆除にホウ酸液が使用される場合がある。ホウ酸1: 砂糖1: 水適量 (約10)※溶媒のH2Oはお湯でなければ溶けない。市販の「アリメツ」もそれに類似した製剤である。また、ホウ酸と糖蜜などとの混合物を収容ケース内に収めた製剤も用いられる。
  • かつては農薬(殺虫剤)としても用いられていた。(現在は登録失効)
  • 眼科領域においては、結膜嚢の洗浄と消毒に、また目薬の保存料としても用いられる。特に、塩基性の薬品が目に入った際の中和剤として用いられる。
  • ホウ酸は単独では溶解度が低いが、特殊生成すると水への溶解度が大きく増加する。この濃い水溶液はセルロース用の難燃剤 (SOUFA: ソウファ)として用いられ、処理した木材は不燃木材として市販されている[11]。その他樹脂への応用が研究されている。
  • 販売されなかった新聞を繊維状に加工し、ホウ酸を塗したものが、セルロースファイバーとして住宅用断熱材として利用される。日本では数パーセントの住宅に使用されているに過ぎないが、アメリカでは住宅用断熱材として40 % 前後のシェアを占めている。駆虫性・透湿性・耐水性・防火性・防音性を兼ね備えているが、施工に専用の機材を必要とするなどの欠点もある[12]

結晶構造

ホウ酸の結晶は水素結合による層状構造からなる。層同士の距離は318ピコメートル (0.318 nm )である。

ホウ酸の結晶構造
ホウ酸同士の水素結合

注釈

  1. ^ 減速材は中性子のもつエネルギーを低くするためのもので核反応を促進する役割があり、冷却材は発生する熱を吸収する役割のものであり、この場合はいずれとも役割が異なる。

出典

  1. ^ a b 丸内 (2005) p.103。
  2. ^ Eti Mine Works.
  3. ^ 丸内 (2005) p.104。
  4. ^ a b Wagman et al. (1982).
  5. ^ a b c d コットン、ウィルキンソン (1987)。
  6. ^ 千谷 (1959) p.369。
  7. ^ 田中 (1981).
  8. ^ safety data ホウ酸”. 日本医薬品添加剤協会. 2014年10月21日閲覧。
  9. ^ Nielsen, Forrest H. (1997). Plant and Soil 193 (2): 199. doi:10.1023/A:1004276311956. 
  10. ^ Klotz, J. H.; Moss, JI; Zhao, R; Davis Jr, LR; Patterson, RS (1994). “Oral toxicity of boric acid and other boron compounds to immature cat fleas (Siphonaptera: Pulicidae)”. J. Econ. Entomol. 87 (6): 1534–1536. PMID 7836612. 
  11. ^ 露本 第 3 回特許ビジネス市。
  12. ^ 山本 (2009).


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