ハードディスクドライブ 名称

ハードディスクドライブ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/10 20:16 UTC 版)

名称

「ハードディスクドライブ」「HDD」「ハードディスク」「ハードドライブ」「磁気ディスク」「固定ディスク[注釈 1][1]」などと呼ばれる。JIS情報処理用語では「ハードディスク」である。

構造上、本来は回転する円盤(円板)が「磁気ディスク」または「ハードディスク」で、回転軸やモーターなどの駆動装置を含めた全体が「磁気ディスクドライブ」または「ハードディスクドライブ」であるが、特に区別せず呼ばれることも多い。また、ディスクが駆動装置やコンピュータ本体などに固定され、容易には着脱できないものが多かったために「固定ディスク」とも呼ばれる[注釈 2]。2013年現在、市場へ出回る全てのハードディスクドライブは金属製の筐体でほぼ密閉されているため、「密閉型ハードディスクドライブ」とも呼ばれている。

名称の歴史には様々ある。「磁気ディスク記憶装置」または単に「ディスク装置」と呼ばれていたり、コンピュータから見たアクセス特性によって当時の磁気ドラムなども含めて「DASD」とも呼ばれたが、これは直列記録方式であるテープと対比してのものである。「柔らかいディスク」を意味する「フロッピーディスク」(または「フレキシブルディスク」)が登場すると、その対比で「硬いディスク」を意味する「ハードディスク」の名称が一般化した。なお、かつては磁気ヘッドの形状から連想した「ウインチェスター・ディスク[注釈 3]も別名として用いられることがあるが、本来はIBM 3340の開発コード名である。

概要

円盤(プラッタ)がアルミニウムガラス等の硬い(ハードな)素材で作られていることから「ハードディスクドライブ」と呼ばれる。プラスチック製で柔らかいフロッピーディスクに比べて、遥かに大きい記憶容量を持ちアクセス速度も非常に高速である。しかし近年のSSDなどの物理可動部品のないメディアには及ばない。

元々はメインフレーム補助記憶装置として利用されていたが、価格の低下とともにパーソナルコンピュータからスーパーコンピュータを含めたコンピュータに加えて、カーナビゲーションDVD/BDレコーダーゲーム機などでも用いられている。

ハードディスクドライブはその構造上、使用過程において故障する可能性も高く、消耗品として扱われる場合も多い[2][3][4][5][6]。外部からの衝撃やダスト(埃)、熱に弱いため、ヘッドクラッシュによりディスクを傷つけ、致命的な障害に至ることがある。 加えて、経年変化によりベアリングが磨耗するため、結果として機械部品のガタツキ等が発生し、読み書きに障害が発生する恐れがあるほか、何の前触れもなく動作不能に陥ることもある。こうした障害の発生頻度を低減させるために、装置に加わる衝撃を吸収緩和できる構造や、ヘッドを安全な位置へ退避させるリトラクト機能などといった装置の改良が行われている。加えて、障害発生時のデータ喪失を未然に防ぐために、ハードディスクドライブの健康度を検知し障害回避に役立つS.M.A.R.T.や、冗長化を行うRAIDといった技術が普及している。しかし完全に障害を回避することはできないことから、重要なデータは定期的にバックアップを取ることが一般的となっている。バックアップを取っておらずにデータが消えた場合のユーザー向けに、データ復旧ソフトウェアやデータ復旧サービスを提供する業者も存在する。

歴史

世界初のハードディスクは1956年IBM 305 RAMACの一部として登場した、IBM 350ディスク記憶装置である。直径24インチ(約60cm)のディスクを50枚も重ねたもので、ドライブユニットのサイズは大型冷蔵庫2台分程もあるが、約4.8MB(原稿用紙5000枚程度)の記憶容量しかなかった(IBMのディスク記憶装置を参照)。

最初のフライングヘッド導入は1961年IBM 1301ディスク記憶装置で[7]、また最初のリムーバブルディスク装置は1962年のIBM 1311であった。

1980年代にはウエスタンデジタルマックストアなどがハードディスクドライブ市場に参入し、またパーソナル・コンピュータでもハードディスクドライブが徐々に普及した。

2000年代に入り家庭電化製品のデジタル化が進み、音声映像等のデータをデジタルデータとして記録する用途が生じてきたことから一般の家電製品での利用も増え始めた。容量単位の価格が安価で大容量、ランダムアクセスが可能で、下記のRAMディスクには劣るがアクセス速度も比較的速く、さらに書き換え可能という特性を生かし、2003年以降、特にハードディスクレコーダーデジタルオーディオプレーヤーといった用途での搭載が増加しているほか、カーナビゲーションにも搭載され、地図情報の保存などに利用されている。

2009年現在、上記の家電製品やパーソナルコンピュータ等での使用においては、筐体内に内蔵する方式が多いが、本体とは別の外付ユニットをUSBIEEE 1394等の通信ケーブルで接続する方式も増設用途などで存在する。また、ネットワーク上で特定コンピュータ装置に従属しない独立した外部記憶装置として利用できるネットワークアタッチトストレージ (NAS) と呼ばれる製品も存在する。

ハードディスクドライブは半導体メモリと比較して読出・書込には時間が掛かる。そのためOSから見てハードディスクドライブと同様のオペレーションで、より高速なアクセスを実現するための工夫もされてきた。2020年現在では、主流である3.5インチサイズのHDDの記憶容量は、1台で最大20TBに達した。また、2.5インチサイズでは、ノートパソコンでよく用いられている9.5mm厚サイズ以下で1台で最大2TB(1.86TiB程度)に、15mm厚では4TB(3.73Tib程度)に達している。

近年では小型化や低消費電力を重視する傾向が強まり、出荷台数ではPC用で主流の3.5インチサイズばかりでなく、それまではノートPCが主な用途だった2.5インチサイズ以下のHDDがゲーム機(PlayStation 3Xbox 360)やサーバ用途を中心に需要が広がっている。2007年のHDD国内出荷台数は、2.5インチ以下のHDDが全体の53%となっている[8]

ちなみに、日本においても1990年代の後半辺りからは安価なハードディスクが出回り始める事となるが、それ以前の日本のハードディスクに対し、ビル・ゲイツは「日本のHDDはまるで金塊だ」という言葉を残している。


注釈

  1. ^ fixed disk
  2. ^ HDDが21世紀現在、固定ディスクと呼ばれることがあるのは、概ね取り外しに手間がかかりほとんど固定されて使用されるためや、PC環境でのCD/DVD/BD-DVDとの対比が原因だと考えられる。HDD単体や外付けHDD装置では、SATAUSBによって容易に脱着できるようになると、同じHDDでも「固定ディスク」とは呼ばれなくなる。
  3. ^ : Winchester disk
  4. ^ 3.5インチ型ではHGSTWDが採用。2.5型ではすべてのHDDが採用している。
  5. ^ その多くは半導体プロセス技術の進歩の恩恵を受けている。その応用例の一つとして、IBMが発明したPixie Dust技術(反強磁性結合メディア、AFCメディア)がある。これはディスク表面の磁性体の上にルテニウム原子を3個コーティングして、さらに磁性体でコーティングしてサンドイッチにした物である。この技術は2001年、1平方インチあたりの記録密度を100Gbitに高める可能性を示し、同技術の改良版によって2002年100Gbitに達する製品を実際に発売した。その他に、2002年に富士通がディスク表面に微細な凸凹(テクスチャ)を施し磁性体の表面積を大きくし、記録密度を高める技術を発表した。東北大学岩崎俊一博士(現 東北工業大学学長)が1977年に発明した垂直磁気記録方式は、理論上では水平磁気記録方式よりも安定して高密度化できるが、いくつかの技術的困難があった。2005年東芝が実用化し、今日の超高密度記録を実現している。さらに東芝では、この垂直磁気記録方式のプラッタに溝を加えることにより磁気の相互干渉を抑えてさらなる記録密度向上を狙ったディスクリート・トラック・レコーディング (DTR) 技術、パターンド・メディア・レコーディング技術が開発された。現在実用化に向けて研究されている。
  6. ^ 関西大学システム理工学部では保護膜上の潤滑膜層の形成に「電圧印加ディップ法」を使い、現行の1.6 - 1.8nmから1.1nmへと薄膜化することで磁気ヘッドの浮上量を2nmから1.4nmへと小さくすることで面記録密度を現行品 (400GB/inch2) の2倍以上の1TB/inch2にまで向上させるとしている。(Nikkei Electronics 2009.6.15 p14 - 15)
  7. ^ : fluid dynamic bearing
  8. ^ : magneto resistive head
  9. ^ : giant magneto resistive head
  10. ^ : tunnel magneto resistive head
  11. ^ 日立製作所の技術開発により、クーロンブロッケード異方性磁気抵抗効果が発表された。これは1平方インチ当たりの記録密度を現在[いつ?]の5倍、1Tbitに引き上げるものとされる
  12. ^ : longitudinal magnetic recording
  13. ^ : perpendicular magnetic recording
  14. ^ : shingled magnetic recording
  15. ^ : primary defect list
  16. ^ : grown defect list
  17. ^ 論理的消去の直後であればファイル復元ソフトによってほとんど100%が復元されうる。

出典

  1. ^ 1985年、「アルファベット順 F」、『情報処理用語32000』、株式会社インタープレス p. 255
  2. ^ 必ず壊れる記録メディアに万全の備えを!:徹底研究 メディアの寿命”. 日経BP 日経PC21 仙石 誠 (2010年5月25日). 2011年9月30日閲覧。
  3. ^ ハードディスクは消耗品、万が一の時のために覚えておきたいオープンなデータ復旧会社「日本データテクノロジー」”. Gigazine (2011年5月9日). 2011年9月30日閲覧。 - インタビュー記事後半、「やはりハードディスクは消耗品であると考えていただいた方が良いです。」
  4. ^ ハードディスクは「消耗品!」/デジタルデータを守りたい。ミラーリングやRAID 5対応HDDが好調!”. HDD NAVI・株式会社インターコム (2008年11月26日). 2011年9月30日閲覧。
  5. ^ データ保護ノススメ2 ハードディスク (HDD) のトラブル対策”. データレスキューセンター・株式会社アラジン. 2011年9月30日閲覧。 - 「ハードディスクが消耗品である以上、故障を完全に防止することはできません。」
  6. ^ HD革命-DISK Mirror Ver.3”. 株式会社アーク情報システム. 2011年9月30日閲覧。 - 「ハードディスクは消耗品ですので寿命があります。」
  7. ^ IBM Archives: IBM 1301 disk storage unit
  8. ^ JEITA. “2007年情報端末関連機器の世界・日本市場規模および需要予測”. 2008年10月23日閲覧。[リンク切れ]
  9. ^ Hisa Ando『コンピュータアーキテクチャ技術入門 : 高速化の追求×消費電力の壁』技術評論社、2014年6月5日、307頁。ISBN 978-4-7741-6426-7 
  10. ^ 窓の杜 - 自分のマシンのハードウェア情報をのぞいてみよう!”. forest.watch.impress.co.jp. 2018年10月22日閲覧。
  11. ^ Hisa Ando『コンピュータアーキテクチャ技術入門 : 高速化の追求×消費電力の壁』技術評論社、2014年6月5日、293頁。ISBN 978-4-7741-6426-7 
  12. ^ a b c Windows XPでは再設定が必要な1TB HDDが発売”. インプレス. 2023年6月24日閲覧。
  13. ^ a b 【平澤寿康の周辺機器レビュー】Western Digital「WD30EZRS」 ~世界初、容量3TBに到達した3.5インチHDD - PC Watch”. インプレス. 2023年6月24日閲覧。
  14. ^ 【元麻布春男の週刊PCホットライン】大容量HDDがOSの64bit化を招く - PC Watch”. インプレス. 2023年6月24日閲覧。
  15. ^ モバイル機器に搭載可能な0.85型ハードディスクドライブの開発について - 東芝プレスリリース(2004年1月8日発表)2018年5月11日閲覧
  16. ^ DSP 5200S hard drive”. 2020年10月25日閲覧。
  17. ^ Digital Storage Products Model DSP5200 Model DSP5350 Installation Guide EK-DS002-IG. C01”. Digital Equipment Corporation. 2022年3月1日閲覧。
  18. ^ Failure Trends in a Large Disk Drive Population (PDF) (2008年4月6日時点のアーカイブ
  19. ^ HDD Reliability for Cloud Data Centers 2013 05 02 Bernhard Hiller WD.pdf Page.22”. 2014年11月18日閲覧。
  20. ^ シーゲート製BarraCudaとBarraCuda Proなどやウェスタンデジタル製WD Blue/WD Blackなど、HGST製Deskstarが該当。
  21. ^ シーゲート製IronWolfとIronWolf Proなど、ウエスタンデジタル製WD Red/WD Red Pro/WD Goldなど、HGST製Ultrastarが該当。
  22. ^ a b オートリトラクト ‐ 通信用語の基礎知識”. www.wdic.org. 2018年10月22日閲覧。
  23. ^ Scientific American記事(英文)[1]
  24. ^ 参考: データ復旧 成功事例”. 大塚商会. 2015年1月17日閲覧。
  25. ^ ハードディスククラッシャー&テープイレーサー[2]
  26. ^ storagevirtualization (2009年9月18日). “A brief History of Areal Density (Barry Whyte - An exchange and discussion of Storage Virtualization)” (英語). www.ibm.com. 2018年10月22日閲覧。
  27. ^ a b 日本HDD協会2013年1月セミナーレポート
  28. ^ Financial Press Releases - seagate社(英語、2011年4月19日発表)
  29. ^ WESTERN DIGITAL TO ACQUIRE HITACHI GLOBAL STORAGE TECHNOLOGIES - Western Digital社(英語、2011年3月7日発表)
  30. ^ Western Digital Unveils New Addition: 8TB Ultrastar® DC HC320 - Western Digital Corporate Blog Western Digital 2018年3月15日





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