トリカブト
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/31 03:27 UTC 版)
トリカブト属 | ||||||||||||||||||
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分類(APG IV) | ||||||||||||||||||
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英名 | ||||||||||||||||||
monkshood | ||||||||||||||||||
種 | ||||||||||||||||||
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概要
ドクウツギやドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされ[1]、トリカブトの仲間は日本には約30種が自生している。沢筋などの比較的湿気の多い場所を好む。トリカブトの名の由来は、花が古来の衣装である鳥兜・烏帽子に似ているからとも、鶏の鶏冠(とさか)に似ているからとも言われる。英名の "monkshood" は「僧侶のフード(かぶりもの)」の意味。
多くは多年草である。草丈は80 -120センチメートルほどある[2]。葉は深く3裂から5裂して、夏から秋に紫色のほか、白、黄色、ピンク色などの花を咲かせる[2]。茎葉を傷つけても、特別な臭いや汁液が出るわけではない[2]。
塊根を乾燥させたものは漢方薬や毒として用いられ、烏頭(うず)または附子(生薬名は「ぶし」、毒に使うときは「ぶす」)と呼ばれる。本来、「附子」は球根の周りに付いている「子ども」の部分。中央部の「親」の部分は「烏頭(うず)」、子球のないものを「天雄(てんゆう)」と呼んでいたが、現在は附子以外のことばはほとんど用いられていない。俗に不美人のことを「ブス」というが、これはトリカブトの中毒で神経に障害が起き、顔の表情がおかしくなったのを指すという説もある[3]。
毒性
全草、特に根に致死性の高い猛毒を持つことで知られる[2]。主な毒成分はジテルペン系アルカロイドのアコニチンで、他にメサコニチン、アコニン、ヒパコニチン、低毒性成分のアチシンのほか、ソンゴリンなど[4]を全草、特に根に含む。採集時期および地域によって、毒の強さが異なることがある[5][6]。
誤食すると嘔吐、呼吸困難、臓器不全、痙攣などによる中毒症状を起こし、心室細動ないし心停止で死に至ることもある[2]。毒は即効性があり、摂取量によっては経口後数十秒で死亡することもある。半数致死量は0.2gから1g。経皮吸収および経粘膜吸収されるため、口に含んだり、素手で触っただけでも中毒に至ることがある。蜜や花粉にも毒性があるため、養蜂家はトリカブトが自生している地域では蜂蜜を採集しないか、開花期を避けるようにしている。また、天然蜂蜜による中毒例も報告されている[7]。特異的療法および解毒剤はないが、各地の医療機関で中毒の治療研究が行われている[8]。
芽吹きの頃にはニリンソウ、ゲンノショウコ、ヨモギ、モミジガサなどと外見が似ているため間違えやすく、誤食による中毒事故がしばしば報道されている[2]。
株によって葉の切れ込み具合が異なる(参考画像参照)。
利用
古来、矢毒として塗布するなどの方法で、狩猟・武器目的で北東アジア・シベリア文化圏を中心に利用されてきた。北アメリカのエスキモーもトリカブトの毒矢を使用したことが報告されている[9]。 アイヌはトリカブトとその根を「スㇽク」と呼び、アマッポに使用した[10]。
- ^ 古泉秀夫 (2007年8月17日). “毒芹(water-hemlok)の毒性”. 医薬品情報21. 2014年8月31日閲覧。
- ^ a b c d e f 金田初代 2010, p. 184.
- ^ a b 山崎,昶『ミステリーの毒を科学する : 毒とは何かを知るために』講談社〈ブルーバックス〉、1992年。ISBN 4061329197。
- ^ トリカブトの毒性 (2007/12/04) 医薬品情報21
- ^ a b 和田浩二「トリカブト属ジテルペンアルカロイドのLC-APCI-MSによる構造解析と末梢血流量増加作用について」『藥學雜誌』第122巻第11号、日本薬学会、2002年11月1日、929-956頁、doi:10.1248/yakushi.122.929、NAID 10010204168。
- ^ 坂井進一郎、高山広光、岡本敏彦「高尾(東京都)産トリカブト塩基成分について」『藥學雜誌』第99巻第6号、日本薬学会、1979年6月25日、647-656頁、NAID 110003653012。
- ^ 高田清己、「はちみつによる食中毒」『食品衛生学雑誌』 Vol.34 (1993) No.5 p.443-444, doi:10.3358/shokueishi.34.443。
- ^ 岩手医科大学医学部-救急救命情報(トリカブト)
- ^ L・ベルグ『カムチャツカ発見とベーリング探検』龍吟社、1942年、133頁。
- ^ “アイヌとトリカブト” (2005年7月). 2022年4月20日閲覧。
- ^ 鹿野美弘、縦青、小松健一「漢方エキス製剤の品質評価について(第6報)呉茱萸の修治によるアルカロイド成分含量変化について」『藥學雜誌』第111巻第1号、日本薬学会、1991年1月25日、32-35頁、doi:10.1248/yakushi1947.111.1_32、NAID 110003649175。
- ^ “Four Patients Being Treated In Kyrgyz Hospitals For Poisoning With Toxic Root Promoted By President”. RadioFreeEurope/RadioLiberty. 2022年4月20日閲覧。
- ^ 日高奈緒 (2022年4月17日). “トリカブトの溶液でコロナ治療? WHO「勧めないで」”. 朝日新聞. 2022年4月20日閲覧。
- ^ a b c 門田裕一 (2016)「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物2』pp.120-131
- ^ 門崎允昭『アイヌの矢毒トリカブト』北海道出版企画センター、2002年。ISBN 4832802089。
- ^ 清水建美 (2001) 「草本」『図説 植物用語事典』pp. 20-21
- ^ a b 荒川弘 (w, a). 百姓貴族, vol. 4, p. 90. 新書館
- 1 トリカブトとは
- 2 トリカブトの概要
- 3 医療用
- 4 附子・トリカブトが出てくる作品
- 5 外部リンク
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