サキュバス 生殖能力

サキュバス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/12 23:48 UTC 版)

生殖能力

カバラとラシュバによると、リリスを除く3人の元悪魔の女王、アグラット・バット・マハラトナアマエイシェト・ゼヌニムは子供を産んでいる[53]。他の伝説によると、リリスの子供たちはリリンと呼ばれている。

魔女に与える鉄槌』によると、サキュバスは自分の誘惑する男性から精液を集め、その後、インキュバスまたは男性の悪魔が、人間の女性に性的挿入する際に精液を使用することで[54]、悪魔は明らかに生殖できないという伝統的な考えがあったにもかかわらず、子供を儲けることができると説明している。そのように生まれた子供たち – カンビオン –は、生まれながらに異形なもの、あるいは超自然的な影響を受けやすいものとされていた[55]。この本は、人間の男性の精液を注入された人間の女性が産んだ子が人間ではない理由については触れていないが、精液が女性に注入される前に変更されている可能性[56]があると説明することができる。しかし、自然に反した懐妊であったがために子供は異形に生まれるという伝承もある。ポール・ケーラスは、このような方法で産まれたサキュバスに相手をされた男の子供は、魔的な影響により普通の子供よりずる賢くなると述べている[57]

ルイス・スペンスの『オカルティズムと超心理学の百科事典』は、サキュバスは直接子供を産むことができ、前述の人間の男性の精液を別の人間の女性に注入するというプロセスを経る必要はないとしている[58]

科学的説明

医学の分野では、サキュバスとの出会いに関する話は、宇宙人による誘拐を報告する人々が金縛りにあっているという現代における現象と類似しているとの考えがある[59]。したがって、サキュバスとの出会いを経験している人々の歴史的な説明は、おそらく金縛りの症状であり、その時代背景の文化に基づいた幻覚である可能性があることが示唆されている[60][61]

フィクション

歴史を通じてサキュバスは音楽、文学、映画、テレビ、そして特にビデオゲームやマンガ・アニメにおいてありふれたキャラクターである。

現代フィクションでの典型的なサキュバスは、ビキニビキニアーマー)やスリングショットノースリーブレオタードなど露出度の高い煽情的な格好をした女性、もしくはインキュバスを兼ねる両性具有であり、頭部に、背中にコウモリのような翼、尻にのようなスペード型の先端を持つ尻尾がそれぞれ生えている悪魔的な姿であることが多い。しかし、これらのパーツは必然ではなく、角や尻尾が欠けている(翼は欠けることが少ない[注 3])、任意で自在に出し入れできるといった設定も多い[注 4]

エミリー・マーフィは、『パインの種』でアダムの最初の妻リリスを「サキュバスの女王」と表現した[62]ラルフ・アダムス・クラムは、サキュバスを巨人の力を持ち、ゼリー状の不定形な死んだコウイカを思わせるような濡れた氷のような口で、必死の抵抗を試みる犠牲者が窒息するまで口吸いし続ける、極度の恐怖を呼び起こす怪物として描写している[63]ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの『レッド・フックの恐怖』では、サキュバスは魔術の女神ヘカテーを崇拝していた[64]

『妖精事典 異世界からの訪問者』で著者の篠崎砂美は、日本では『ウィザードリィ』がサキュバスのキャラクターイメージを一般的に持ち込んだとされ、特に1987年ファミリーコンピュータ版『ウィザードリィ』のモンスターデザインを担当した末弥純のデザインが秀逸だったため、海外へ逆輸入に近い形でこのデザインが広まったとの説を唱えている。そして上記のようなコウモリの翼を持ち、煽情的な衣装をまとった現代フィクションの典型的サキュバス像(それまでの視覚イメージで登場する伝統的サキュバスは、翼は必須ではなく一糸まとわぬ裸体が基本だった)は、その後登場したコンピュータゲームディアブロ』や『ヴァンパイア』シリーズのサキュバス像にも影響を与えていると指摘している[65]

能力的には幻覚や淫夢を見せたり、魔眼体液に含まれるフェロモンのような催淫成分を周囲に蒸散させたリ、淫気を増大させて対象を魅了するサキュバスが多く、たいていは対象の性欲増大と同時に精子製造能力をブーストさせて大量製造させ、それを搾精して犠牲者を死に至らしめる力を有している[66]。しかし、夢魔的なサキュバスの中には性交せずにエナジードレインと言う形で、キスなどで接触相手の精力(生命力)や経験、ロールプレイングゲームで言うところのレベルを奪うタイプもいる[注 5]

中には己の姿を隠す、または性交の場を用意するための結界を張れたり、瞬間移動や次元転移のような移動能力に優れたサキュバスもおり、攻撃魔法や治癒魔法のような魔術を駆使する[注 6]、魔法的才能に優れた者もいる。


注釈

  1. ^ ラテン語ではスックブス(Succubus、ラテン語発音: [ˈsʊkkʊ.bʊs])。
  2. ^ 後述の「ボローニャの淫魔娼館」のように、肉体持ちのサキュバスばかりを集めた売春宿すら出現している。
  3. ^ 例として『ヴァンパイア』シリーズのサキュバスは背には翼があるが、尻尾や頭に角がない代わり、頭部にも翼が生えている。
  4. ^ 自在に出し入れは人間に擬態するための能力。翼を持っているサキュバスは飛行可能な場合が多い。アダルト作品では尻尾が変形して管状の吸精器官と化したり、インキュバスの(股間に生じる物とは別の)男性器として射精機能を持つケースもある。
  5. ^ 犠牲者が生命力を残らず奪われたり、レベル低下による死亡に至った場合、たいていはミイラの様な死体が出来上がるが、吸精しつくされて死体も残さず塵と化してしまうパターンもある。
  6. ^ これらの魔術はサキュバス生来の魔法的能力ではなく、TRPGにおける後天的に学ぶ、一般魔法の類いであるのが多い。

出典

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