アクアスキュータム アクアスキュータムの概要

アクアスキュータム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/09 10:27 UTC 版)

アクアスキュータムのクラブチェックのマフラー

歴史

ロンドン万国博覧会の1851年に、仕立て人ジョン・エマリーがロンドンの中心地リージェント・ストリート46番地で創業した。1901年には、同通り100番地に移転した(同地はアクアスキュータム撤退後、2011年にオースチンリードが出店し、2018年からはマルベリーが出店している)。

ブランド名の由来はラテン語」を表すaquaと「」を表すscutumの2語を組み合わせた造語で「防水」を意味する。また、同社の紋章に描かれているラテン語の「IN HOC SCUTO FIDEMUS」とは「この盾の中を信ずる」という意味である。(イギリス紋章院公式登録)

クリミア戦争でイギリス軍が高級将校用(将官や佐官を中心とした当時の貴族将校、及び裕福な家庭出身の将校)のコートに、この防水生地で作ったコートを採用した。その後「サービスキット」として下士官以下に支給され、機能性と品質の高さから知名度が飛躍的に上がった。

1939年から始まった第二次世界大戦では、冬季ヨーロッパ戦線を中心にした戦いにおいて、王立海軍王立空軍の将兵が同社のコートを着て戦っていた。そして終戦後に生まれたのが、同社のトレンチコートの型として有名である「キングスゲート」の基となった「キングスウェイ」である。[1]続いて、当時の皇太子(後のエドワード7世)はプリンス・オブ・ウェールズ・チェック(グレンチェックに青や赤等の格子を配した柄)のコートを注文し、アクアスキュータム初の王族の顧客となった。

1897年には王室御用達(Royal Warrant Holder)となる。このエドワード7世の影響もあって、家庭向け・ファッション向けにも広められた[要校閲]。1900年には婦人服部門を設立し、撥水性のケープやコートを売り出した。これは婦人参政権論者の間で広く使われるようになった。コート以外の服飾品も展開し、1977年に高級服飾店「ドレイクス」(Drake's)として独立するマイケル・ドレイクスやイザベル・ディックソンも在籍していた[2]

1980年代にアメリカカナダフランス香港シンガポールの各国に対し市場を展開した。日本は先駆けて、既に1970年代に横浜信濃屋[3]等の洋品店にて取引が行われていた。

1994年のリレハンメルオリンピック大会及び1996年のアトランタオリンピック大会において、イギリス代表公式ユニフォームの公式スポンサーに選ばれた。[4]

1990年に日本企業のレナウンが買収したが、業績不振により、2009年に全株式をイギリスのブロードウィック・グループ(Broadwick Group Limited)に譲渡した(ただし、レナウンによるライセンス製造は継続)。しかし、景気低迷や販売不振により業績が悪化したことから、2012年4月17日に会社管理手続(日本の会社更生法に該当)に入り経営破綻、破産管財人によって法的管理されることとなった。

事業継続を前提に新たなスポンサー企業を募り、香港のYGM貿易(YGMトレーディング)に渡った後、2017年3月にレナウンの親会社である中国の大手繊維会社、山東如意グループに買収された[5]

2017年にレナウンが日本国内での商標権を取得したが[6]、レナウンが2020年5月に経営破綻し[7]、同社のスポンサーとして小泉グループのオッジ・インターナショナルが当ブランドの事業を「ダーバン」と共に譲受する契約を締結した[8]

製品

製品はコートのほか、ネクタイスーツシャツ革靴などの服飾品にわたる。これらの製品にシンボルとしてあしらわれているのが、アクアスキュータムのハウスチェックである「クラブチェック」である。本来、イギリスにおいて貴族的スポーツとされるハンティングスタイルにおいてのスポーツコートに多用されるチェック柄を採用している。紳士服のほか婦人服も取り扱っており、王室御用達であった時代には、カシミアシルクウールを素材にしたスカーフや小物についても非常に高品質であるとして有名であった。

コート(トレンチ/オーバー類)に関しては、高品質な生地を用いている。特にトレンチコートは有名で、その原型として世界で初めて防水ウールの開発に成功した。 防水加工を施した生地を使用したコートを次々に生み出すと同時に、第一次世界大戦で兵士に提供した防水コートは、その防水性と保湿性が塹壕(トレンチ)で戦う兵士を守ったことにより、現在のトレンチコートの原型となった。

日本市場においてのライセンス品では、財布毛布食器などもある。変わったところでは、1980年代に自動車の内装部品を製作したこともあり、ロータス・エスプリロータス・エクセル三菱・デボネアVに、アクアスキュータム仕様がラインナップされていた。

コートの型(防水生地)

同社で、各防水生地のトレンチコートにおいては、以下のように独自の名称が付けられている。

  • Kingsway (キングスウェイ)

    現在はモダンなシルエットに改良され、同様の名称で継続されて販売されている型である。

  • Kingsgate (キングスゲート)
    「Kingsgate」は同社におけるトレンチコートの基本とされている型である、「Kingsway」が基となっている。
  • Princegate(プリンスゲート)
    「Kingsgate」から派生し、モダンに解釈した型。
  • Sandhurst(サンドハースト)
    名称は「イギリス陸軍サンドハースト王立士官学校」に由来するとされている[9]。従来の合わせ型であった「ダブルブレステッド」では無く「シングルブレステッド」であり、かつトレンチコートの「ヨーク」部分を全面と背面のそれぞれに配している。 また、エポーレット部分は取り払われている。
  • Travel Road (トラベル・ロード)
    旅行用のコートとして想定された型である[10]。「シングルブレステッド」で比翼仕立て、かつ「ラグランスリーブ」である。エポーレット部分は取り払われている。

その他、「Nigel」「Kingswalk」「Curtis」など多数の型の種類がある。

コートの生地

トレンチコートやステンカラーコートに扱われている生地はいくつか存在する。

  • Aqua5
    王室御用達時代を中心として扱われていたもので、綿100%の防水加工生地である。
  • NewAqua5
    王室御用達時代を含め、1900年代後半から現在に至るまで扱われている生地である。綿とポリエステル繊維の防水加工生地、または綿100%の生地がある。従前の「Aqua5」より、防水性に重きを置いた作りとされる。
  • Aqua Tech
    機能的だけでなく、伝統的かつ高級志向をコンセプトとした生地。綿とポリエステル繊維の防水加工生地となっている。撥水だけでなく、生地自体の軽量化を施している。
  • AquaLene
    1970年代辺りに扱われたと考えられる生地。綿とビスコースの混紡生地で、化学繊維による防水性の向上を目指したとされる。
  • Wyncol.D711
    大英帝国勲章受章につきナイト称号を得たエドモンド・ヒラリーが、エベレスト登頂の際に着用していたコート生地。独自開発の綿とナイロンの混紡生地である。

この他、「ナイロンやポリエステル繊維のみの生地」、「シルクを撥水加工したAqua5生地」といったものが挙げられる。

生産拠点

現在の生産拠点は明確にされていないが、これまでのトレンチコート等の類に関してはイングランド中東部、ノーザンプトンに近接したコービー(corby)にて、1909年から2012年まで「アクアスキュータム直営工場」として操業及び生産を行っていた。同工場は、2012年にスウェイン・アドニー・ブリッグ・グループ傘下となって社名を「The clothing works」に変更し[11]、OEMを中心に生産活動を継続している。


  1. ^ Kollewe, Julia (2009年9月8日). “Aquascutum: History of a trendsetter” (英語). the Guardian. 2018年10月11日閲覧。
  2. ^ “Permanent Style” (英語). Permanent Style. https://www.permanentstyle.com/2012/03/the-history-of-drakes.html 2018年9月28日閲覧。 
  3. ^ うんちく | SHINANOYA lifestyle Web Shop|横浜信濃屋”. shinanoya-lifestyle.com. 2018年10月1日閲覧。
  4. ^ “Aquascutum - the fashion retailer that clothed Crimean officers” (英語). The Independent. https://www.independent.co.uk/life-style/fashion/news/aquascutum-the-fashion-retailer-that-clothed-crimean-officers-7654619.html 2018年10月1日閲覧。 
  5. ^ “China's Shandong Ruyi expands fashion empire with Bally”. ロイター. (2018年2月9日). https://www.reuters.com/article/bally-ma-shandongruyi/chinas-shandong-ruyi-expands-fashion-empire-with-bally-idUSL8N1PZ61T 2018年2月22日閲覧。 
  6. ^ “レナウン、「アクアスキュータム」の国内商標権取得”. 日本経済新聞. (2017年12月26日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25100000W7A221C1000000/ 2018年2月22日閲覧。 
  7. ^ 倒産速報 株式会社レナウン”. 帝国データバンク (2020年5月18日). 2020年5月18日閲覧。
  8. ^ 小泉グループがレナウン「ダーバン」などを買収へ”. 東京商工リサーチ (2020年8月21日). 2020年8月22日閲覧。
  9. ^ Modern Military Dictionary by Aquascutum Vol.2 Inspired by Army -SANDHURST | BLOG | Aquascutum アクアスキュータム” (英語). aquascutum.jp. 2018年10月11日閲覧。
  10. ^ アクアスキュータム公式サイト”. aquascutum.jp. 2018年10月11日閲覧。
  11. ^ “Old Aquascutum factory is reinvented as The Clothing Works” (英語). Make it British. (2013年4月21日). http://makeitbritish.co.uk/uk-manufacturing-2/old-aquascutum-factory-reinvented-as-the-clothing-works/ 2018年9月28日閲覧。 
  12. ^ Marshik, Celia (2016-11-29) (英語). At the Mercy of Their Clothes: Modernism, the Middlebrow, and British Garment Culture. Columbia University Press. ISBN 978-0-231-54296-8. https://books.google.co.jp/books?id=YdobDQAAQBAJ&pg=PA84&lpg=PA84&dq=aquascutum+soldier%60s+letter&source=bl&ots=AvvzSb-J6l&sig=ACfU3U3kXW099YID4Rxefiwf9kd4eJX7_w&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwj5276GtJruAhWG7GEKHXqmC3AQ6AEwBnoECAcQAg#v=onepage&q=aquascutum%20soldier%60s%20letter&f=false 
  13. ^ Alexander, Hilary (2013年4月12日). “Margaret Thatcher: style, Aquascutum and the original power dresser” (英語). ISSN 0307-1235. https://www.telegraph.co.uk/news/politics/margaret-thatcher/8521433/Margaret-Thatcher-style-Aquascutum-and-the-original-power-dresser.html 2018年9月30日閲覧。 
  14. ^ “Raincoat maker Aquascutum sold for £97m” (英語). BBC News. (2016年12月22日). https://www.bbc.com/news/business-38404407 2018年9月30日閲覧。 
  15. ^ Moulds, Josephine (2012年4月17日). “Aquascutum falls into administration” (英語). the Guardian. 2018年9月30日閲覧。
  16. ^ “Above the Trench” (英語). The Glass Magazine. (2014年6月17日). http://www.theglassmagazine.com/above-the-trench/ 2018年9月30日閲覧。 


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