科学的調査
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/17 19:19 UTC 版)
1984年、ピッティ宮殿で催されたラファエロ展に際して行われた科学的調査は、『大公の聖母』についていくつかの重要な事実を明らかにした。1つは赤外線リフレクトグラフィーによる調査で、ラファエロが本作品を描くにあたってスポルヴェロ技法を使用していることが判明した。これは下絵を転写する際に用いる技法で、具体的にはカートゥーン(原寸大下絵)の線に沿って小さな穴をあけていき、そこから顔料を付着させることで転写するというもので、ラファエロの他の作品においても確認されている。もう一つはX線撮影による調査で、その結果、黒地の背景の下に室内空間の風景が隠されていることが判明し、これによって黒地の下にラファエロの真筆による風景が隠れているとする説が証明された形となった。しかしこの発見に対して、ラファエロが構想を変更し、黒い背景で描き直したとする説も唱えられたが、現在では黒地の背景部分をラファエロの加筆に帰す見解は否定されている。というのは、最下層の背景部分に剥離した個所があり、そこにも黒色顔料が塗りこまれていることが分かったからである。この事実は背景の加筆が、少なくとも、もともとの絵画の顔料が剥離するほどに時間が経過した後になされたものであることを示している。また黒地の上に塗られた部分については、拡大撮影した結果、ラファエロのものとは異なる闊達なタッチが確認されたほか、蛍光X線分析によって当該箇所の顔料の成分がラファエロの真筆部分と異なっていることも判明した。 以上の調査から、おそらく17世紀から18世紀の間に、背景部分の保存状態の悪さを覆い隠すために黒色顔料で背景が塗り直されたが、その際に部分的に聖母マリアとキリストの輪郭部分が隠れてしまったため、黒地の上に加筆がなされたと考えられている。
※この「科学的調査」の解説は、「大公の聖母」の解説の一部です。
「科学的調査」を含む「大公の聖母」の記事については、「大公の聖母」の概要を参照ください。
「科学的調査」の例文・使い方・用例・文例
- 科学的調査のページへのリンク