HD 129116とは? わかりやすく解説

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HD 129116

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/18 21:48 UTC 版)

HD 129116
超大型望遠鏡VLTの太陽系外惑星観測装置SPHEREで撮影したHD 129116系の画像。矢印で示されたのが惑星bで、右上の光は背景にある無関係の恒星。
(提供: ESO/Janson et al.)
星座 ケンタウルス座
見かけの等級 (mv) 4.00[1]
分類 B型主系列星[1]
二重連星系[2][3]
位置
元期:J2000.0[1]
赤経 (RA, α)  14h 41m 57.5906796s[1]
赤緯 (Dec, δ) −37° 47′ 36.594024″[1]
赤方偏移 0.000009[1]
視線速度 (Rv) 2.60 km/s[1]
固有運動 (μ) 赤経: -29.828 ミリ秒/[4]
赤緯: -31.914 ミリ秒/年[4]
年周視差 (π) 10.0339 ± 0.3143ミリ秒[4]
(誤差3.1%)
距離 330 ± 10 光年[注 1]
(100 ± 3 パーセク[注 1]
絶対等級 (MV) -1.0[注 2]
物理的性質
半径 2.93 ± 0.12 R[5]
質量 6.3 ± 0.1 M[6]
表面重力 4.23 ± 0.03 (log g)[5]
自転速度 129 km/s[7]
スペクトル分類 B3V[1]
光度 637.01 L[8]
有効温度 (Teff) 18,445 ± 344 K[5]
色指数 (B-V) -0.157[8]
色指数 (U-B) -0.69[5]
色指数 (V-R) -0.11[5]
金属量 -0.12 ± 0.13 [m/H] [5]
年齢 1840 ± 150 万年[6]
他のカタログでの名称
ケンタウルス座b星[1]
CD-37 9618[1]
GSC 07819-02819[1]
HIP 71865[1]
HR 5471[1]
SAO 205839[1]
TYC 7819-2819-1[1]
2MASS J14415758-3747366[1]
Template (ノート 解説) ■Project

HD 129116は、ケンタウルス座の北東部に位置している連星系[2][3]である。HD 129116という名称はヘンリー・ドレイパーカタログにおけるもので、バイエル符号におけるケンタウルス座b星英語: b Centauri)という名称でも知られている[1]見かけの明るさは4等級で、肉眼ではかすかに観測することができ、青白く光って見える。ガイア計画による年周視差測定の結果に基づくと、地球からは約330光年離れており[4]絶対等級は約-1等級となる[8]。HD 129116は93%の確率でさそり–ケンタウルス座アソシエーションと呼ばれるアソシエーションに属すると考えられている[9]

ケンタウルス座b星は2つの恒星が非常に近接している連星系で、主星は「ケンタウルス座b星A」、伴星は「ケンタウルス座b星B」と呼ばれる[2]。主星Aの特性は比較的容易に調べることができるが、主星より暗く、非常に近接している伴星Bはほとんどの観測施設では観測することができない。視線速度の変化が観測されていることから[10]、伴星Bは主星Aに動的な影響を及ぼしているとみられているが、その詳細については分かっていない[2]。ケンタウルス座b星の全体のスペクトル分類はB3V型のB型主系列星[1]水素による核融合反応でエネルギーを生成している状態である。いくつかの測光システムではこのスペクトル分類の「標準星」として扱われており、見かけの明るさの変光はしていないとみられている[11]。形成されてから約1800万年が経過していると推定されていて、少なくとも主星Aは自転速度が速く、射影された自転速度は129 km/sに達している[7]。主星Aの質量太陽の6.3倍[6]半径は2.9倍であるとされる[5]光球から放射される光度は637倍に及び[8]、その光球の有効温度は 18,445 K に達している[5]。2つの恒星を合わせた合計質量は最大で太陽の10倍であると考えられている[2]

惑星系

ケンタウルス座b星b(右)と主星のケンタウルス座b星系(左)の想像図

2021年チリパラナル天文台にある超大型望遠鏡VLTに搭載されている観測装置SPHERE英語版を用いた直接撮像法での観測で、ケンタウルス座b星の周囲を公転している大質量の太陽系外惑星ストックホルム大学の Markus Janson らによる研究チームによって発見された[2][3][12]。この惑星は連星であるケンタウルス座b星A・Bの両者の周囲を公転している周連星惑星であるため、ケンタウルス座b星b英語: b Centauri b、周連星惑星であることも踏まえてケンタウルス座b星(AB)bとも)と命名された[2][3]。質量は木星の約11倍で、主星から556 au(約832億 km)離れた軌道を最長で7,170年、最短でも2,650年かけて公転している[2]。ケンタウルス座b星bの発見後に行われたケンタウルス座b星系のアーカイブ画像の調査から、発見の20年以上前にラ・シヤ天文台の口径3.6 m望遠鏡によって撮影された画像にも写っていたことが判明している[3]

ケンタウルス座b星ほど質量が大きく表面が高温な恒星は強い紫外線X線などを放射するため、形成時に周囲に残る円盤内のガスが太陽程度の質量を持つ恒星よりも早く消失するとされているので、これまで太陽の3倍以上の質量を持つ恒星が大質量の巨大ガス惑星を持つことはない、もしくは稀であるとされてきた[2][12][13]。実際に、ケンタウルス座b星bが発見されるまではB型主系列星を公転していることが確実な太陽系外惑星は存在しておらず[14][注 3]、一つ下の分類となるA型主系列星を公転している太陽系外惑星もわずか約30個程度しか知られていない[16]。ケンタウルス座b星bと同じようにとても大きな軌道を持つ周連星惑星としてHD 106906 b英語版が知られているが、その主星HD 106906英語版系の合計質量は太陽の2.7倍程度である[2]。このケンタウルス座b星bの発見により、以前まで考えられていたよりもはるかに質量が大きな主星であっても惑星が存在しうる可能性が示され、惑星がどのような過程を経て形成されたのかを明らかにできることが期待されている[2][12]

ケンタウルス座b星の惑星[2]
名称
(恒星に近い順)
質量 軌道長半径
天文単位
公転周期
()
軌道離心率 軌道傾斜角 半径
b 10.9 ± 1.6 MJ 556 ± 17 2,650 - 7,170 <0.40 128 - 157°

脚注

注釈

  1. ^ a b パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
  2. ^ 視等級 + 5 + 5×log(年周視差(秒))より計算。小数第1位まで表記
  3. ^ NASA Exoplanet Archive には2021年12月時点でスペクトル分類がB型の恒星を公転している太陽系外惑星が8個掲載されている[15]。そのうち、主星が主系列星のものに限るとKELT-9bとHD 97048 bの2個になるが、そのどちらの主星もスペクトル分類はB型とA型の境界付近になっており、A型主系列星に分類される可能性もある。この他の事例はいずれも褐色矮星ほどの質量を持っているものや、主星が主系列星ではなくB型準矮星準巨星であるため(詳細はB型主系列星#惑星系を参照)[15]、確実にB型主系列星を公転しているといえる太陽系外惑星は知られていなかった。

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r Results for b Cen”. SIMBAD Astronomical Database. CDS. 2021年12月13日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l Janson, Markus; Gratton, Raffaele; Rodet, Laetitia et al. (2021). “A wide-orbit giant planet in the high-mass b Centauri binary system”. Nature 600: 231–234. arXiv:2112.04833. Bibcode2021arXiv211204833J. doi:10.1038/s41586-021-04124-8. 
  3. ^ a b c d e "eso2118 — Science Release | ESO telescope images planet around most massive star pair to date" (Press release). European Southern Observatory. 8 December 2021. 2021年12月13日閲覧
  4. ^ a b c d Gaia Collaboration. “Gaia data early release 3 (Gaia EDR3)”. VizieR On-line Data Catalog: I/350. Bibcode2020yCat.1350....0G. doi:10.5270/esa-1ugzkg7. 
  5. ^ a b c d e f g h Fitzpatrick, E. L.; Massa, D. (2005). “Determining the Physical Properties of the B Stars. II. Calibration of Synthetic Photometry”. The Astronomical Journal 129 (3): 1642–1662. arXiv:astro-ph/0412542. Bibcode2005AJ....129.1642F. doi:10.1086/427855. 
  6. ^ a b c Tetzlaff, N.; Neuhäuser, R.; Hohle, M. M. (2011). “A catalogue of young runaway Hipparcos stars within 3 kpc from the Sun”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 410 (1): 190–200. arXiv:1007.4883. Bibcode2011MNRAS.410..190T. doi:10.1111/j.1365-2966.2010.17434.x. 
  7. ^ a b Wolff, S. C.; Strom, S. E.; Dror, D.; Venn, K. (2007). “Rotational Velocities for B0-B3 Stars in Seven Young Clusters: Further Study of the Relationship between Rotation Speed and Density in Star-Forming Regions”. The Astronomical Journal 133 (3): 1092–1103. arXiv:astro-ph/0702133. Bibcode2007AJ....133.1092W. doi:10.1086/511002. 
  8. ^ a b c d Anderson, E.; Francis, Ch. (2012). “XHIP: An extended hipparcos compilation”. Astronomy Letters 38 (5): 331. arXiv:1108.4971. Bibcode2012AstL...38..331A. doi:10.1134/S1063773712050015. 
  9. ^ Rizzuto, Aaron; Ireland, Michael; Robertson, J. G. (2011). “Multidimensional Bayesian membership analysis of the Sco OB2 moving group”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 416 (4): 3108–3117. arXiv:1106.2857. Bibcode2011MNRAS.416.3108R. doi:10.1111/j.1365-2966.2011.19256.x. 
  10. ^ Gutierrez-Moreno, Adelina; Moreno, Hugo (1968). “A Photometric Investigation of the SCORPlO-CENTAURUS Association”. Astrophysical Journal Supplement 15: 459. Bibcode1968ApJS...15..459G. doi:10.1086/190168. 
  11. ^ Paunzen, E.; Rode-Paunzen, M. (2017). “BRITE photometry of seven B-type stars”. Second Brite-Constellation Science Conference: Small Satellites – Big Science 5: 180. arXiv:1612.04714. Bibcode2017sbcs.conf..180P. 
  12. ^ a b c 天文学:ケンタウルス座b星連星系を周回する未知の巨大ガス惑星が観測された”. Nature Asia (2021年12月9日). 2021年12月13日閲覧。
  13. ^ 大質量の星系で、中心星から遠く離れた巨大惑星を直接撮像で発見!”. アストロピクス (2021年12月9日). 2021年12月13日閲覧。
  14. ^ Gaudi, B. Scott; Stassun, Keivan G.; Collins, Karen A. et al. (2017). “A giant planet undergoing extreme-ultraviolet irradiation by its hot massive-star host”. Nature 546 (7659): 514–518. arXiv:1706.06723. Bibcode2017Natur.546..514G. doi:10.1038/nature22392. ISSN 0028-0836. 
  15. ^ a b Planetary Systems”. NASA Exoplanet Archive. 2021年12月13日閲覧。(「Spectral Type」の欄に「B」と入力するとB型星を公転する太陽系外惑星が表示される)
  16. ^ A_Star”. Extrasolar Planet's Catalogue. 京都大学. 2021年12月13日閲覧。

関連項目

外部リンク


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