黒体輻射における光子気体の熱力学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/06/25 16:03 UTC 版)
「光子気体」の記事における「黒体輻射における光子気体の熱力学」の解説
十分大きな気体分子の系において、分子のエネルギーはマクスウェル・ボルツマン分布に従う。この分布に達するためには、分子が互いに衝突し、エネルギーと運動量を交換するプロセスを経る必要がある。光子気体においても平衡状態は存在するが、光子同士は相互作用しないため、光子気体は何らかの別の方法で平衡状態に達することになる。 一般的に、光子気体系の平衡状態は、何らかの物体と相互作用することによって達する。光子気体系が入っている箱を想定し、光子が壁に吸収され、壁から放出されるとする。壁がある温度になっているとすると、光子気体のエネルギー分布はその温度の黒体輻射のエネルギー分布と一致する。 光子気体の、通常の気体分子系との最も顕著な違いは、光子気体の粒子数は保存されないことである。壁の物体中の電子に光子が衝突すると、電子はより高エネルギーの状態に励起され、光子気体系から光子は消滅する。励起された電子は、いずれ、より低いエネルギー状態に戻る(緩和)が、緩和が何段階かで起こるのであれば、その都度光子が放出される、光子気体系に光子が増えることになる。この過程において、放出される光子のエネルギーの和は吸収された光子のエネルギーと等しいが、光子数は変化しうるのである。このように、光子気体には粒子数の保存則がなく、その帰結として光子気体の化学ポテンシャルはゼロであることがわかる。 光子気体の熱力学的性質は、量子力学的な計算を用いて求めることができる。単位体積・振動数に対するエネルギー密度のスペクトル u は、以下のようになる。 u ( ν , T ) = 8 π h ν 3 c 3 1 e h ν / k T − 1 {\displaystyle u(\nu ,T)={\frac {8\pi h\nu ^{3}}{c^{3}}}{\frac {1}{e^{h\nu /kT}-1}}} h はプランク定数、c は光速度、ν は振動数、k はボルツマン定数、T は温度である。 振動数について積分し、体積 V を掛けることで、光子気体の内部エネルギーを求められる。 U = ( 8 π 5 k 4 15 c 3 h 3 ) V T 4 {\displaystyle U=\left(8{\frac {\pi ^{5}k^{4}}{15c^{3}h^{3}}}\right)VT^{4}} N = ( 16 π k 3 ζ ( 3 ) c 3 h 3 ( 2 π ) 3 ) V T 3 {\displaystyle N=\left({\frac {16\pi k^{3}\zeta (3)}{c^{3}h^{3}(2\pi )^{3}}}\right)VT^{3}} ここで ζ(n) はリーマンのゼータ関数である。なお、ある温度に対し、粒子数 N は体積 V のみに依存する、すなわち光子密度は一定になることが分かる。 光子は、本質的に相対論的量子力学に従う気体の状態方程式によって記述される。すなわち、 U = 3 P V {\displaystyle U=3PV} P V = ζ ( 4 ) ζ ( 3 ) N K T ≈ 0.9 N K T {\displaystyle PV={\frac {\zeta (4)}{\zeta (3)}}NKT\approx 0.9\,NKT} 以下の表に、光子気体の熱力学的な関係式をまとめる。なお、圧力は体積に依存せず、 P ∝ a T 4 {\displaystyle P\propto aT^{4}} と書ける。 光子気体における状態方程式状態関数 (T, V)内部エネルギー U = ( π 2 k 4 15 c 3 ℏ 3 ) V T 4 {\displaystyle U=\left({\frac {\pi ^{2}k^{4}}{15c^{3}\hbar ^{3}}}\right)\,VT^{4}} 粒子数 N = ( 16 π k 3 ζ ( 3 ) c 3 h 3 ( 2 π ) 3 ) V T 3 {\displaystyle N=\left({\frac {16\pi k^{3}\zeta (3)}{c^{3}h^{3}(2\pi )^{3}}}\right)\,VT^{3}} 化学ポテンシャル μ = 0 {\displaystyle \mu =0\,} 圧力 P = 1 3 U V = ( π 2 k 4 45 c 3 ℏ 3 ) T 4 {\displaystyle P={\frac {1}{3}}\,{\frac {U}{V}}=\left({\frac {\pi ^{2}k^{4}}{45c^{3}\hbar ^{3}}}\right)\,T^{4}} エントロピー S = 4 U 3 T = ( 4 π 2 k 4 45 c 3 ℏ 3 ) V T 3 {\displaystyle S={\frac {4U}{3T}}=\left({\frac {4\pi ^{2}k^{4}}{45c^{3}\hbar ^{3}}}\right)\,VT^{3}} エンタルピー H = 4 3 U {\displaystyle H={\frac {4}{3}}\,U} ヘルムホルツの自由エネルギー A = − 1 3 U {\displaystyle A=-{\frac {1}{3}}\,U} ギブスの自由エネルギー G = 0 {\displaystyle G=0\,}
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