酸素耐性機構
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 07:47 UTC 版)
窒素固定反応は古くから知られていたが、1960年のCarnahanの無細胞標品の抽出まで長らく生化学的性質が明らかではなかった。Carnahanは酸素を極力除去し、通常4 ℃で扱うタンパク質標品を20 ℃で扱うことによってニトロゲナーゼの活性を残存させることに成功した。ニトロゲナーゼ還元酵素およびニトロゲナーゼ二量体のいずれも酸素に対して不可逆失活する。ニトロゲナーゼ還元酵素の空気暴露に対する半減期(t1/2)は30秒、そしてニトロゲナーゼ二量体のt1/2は4分である。 上述のように、嫌気性菌以外にも通性嫌気性菌、好気性菌そして根粒菌がニトロゲナーゼ活性を有している。嫌気性菌については完全嫌気状態でなければ窒素固定反応は行わない。また通性嫌気性菌については酸素濃度が1キロパスカル以下の条件でなければ窒素固定反応は同様に行われない。また、A. vinelandiiのような好気性細菌については自らの高い酸素呼吸活性によって細胞周辺の酸素を極力除去し、なおかつニトロゲナーゼの立体構造の違いによって酸素の影響を回避している。 根粒菌については酸素に高い親和性を有するレグヘモグロビンを根粒の周囲に配置することによってニトロゲナーゼ系から酸素を除去している。レグヘモグロビンにとりこまれた酸素はニトロゲナーゼ系に触れることなく、植物の根を経て吸収され、体内で酸化的リン酸化に用いられる。 シアノバクテリアは光化学系のIとIIを同時に有し、酸素発生型光合成をおこなう。したがって、ニトロゲナーゼ系とは極めて相性が悪い。しかしながらAnabaena属のような繊維状のシアノバクテリアは酸素を発生する光化学系IIを細胞から除去したヘテロシスト(異質細胞)にニトロゲナーゼを発現し、窒素固定反応を行っている。しかしながら、繊維状の形態をとらない単細胞のシアノバクテリア(Trichodesmium属など)においてもニトロゲナーゼ系および窒素固定反応が確認されている。そうしたシアノバクテリアは昼間に光合成を行いATPを蓄積した後に、夜間窒素固定反応を行うといった方法をとっている。ただし、光合成と窒素固定を同時に行うシアノバクテリアも見つかっており、それらの機構についてはいまだ謎に包まれている。
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