酸素同位体比と気候変動および年輪セルロース
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 19:17 UTC 版)
「酸素同位体比年輪年代法」の記事における「酸素同位体比と気候変動および年輪セルロース」の解説
「酸素の同位体#同位体比測定による気候解明」も参照 酸素同位体比とは、測定対象に含まれる酸素の同位体のうち、酸素18の酸素16に対する存在比である。降水の酸素同位体比は地球上の場所によって異なるが、日本のように温暖湿潤な地域においては雨量効果と呼ばれる負の相関関係があり、したがって降水量が多いほど酸素同位体比が減る傾向にある。また水蒸気に含まれる酸素同位体比は、降水に比べて9‰低い事がわかっている 木材の主成分には、セルロース・リグニン・ヘミセルロースの3つがあるが、測定に用いるのはセルロースである。セルロースは、葉内の水を光合成して作られるグルコースを材料に作られるが 、この葉内の水分は、降水に由来する土壌水と葉の気孔から排出/流入する水蒸気とのマスバランスによって保持される。この際、軽い酸素16のほうが水蒸気になりやすく、乾燥した気象条件によって蒸散が促進されるほど葉内の酸素18の濃度が高くなる。したがって相対湿度とグルコースの酸素同位体比には負の相関関係が生じる。こうして作られたグルコースは師管を通って樹皮近くの形成層に運ばれ、直線状に繋がったセルロース分子が合成される。 以上のように、降水(水蒸気)の酸素同位体比および葉内の酸素同位体比は、いずれも降水量と負の相関関係にあり、結果として過去の降水量の情報が酸素同位体比として年輪セルロースに蓄積されていく。このような原理は何十年も前から分かっており、炭素同位体比による研究が先行していたが、酸素同位体比はセルロースが合成される過程で幹中の水分とグルコースの間で酸素原子の交換が起きることから、セルロースの酸素同位体比から気候変動がどこまで正確に復元できるか分かっていなかった。この酸素原子の交換率は2010年代の研究により安定していることが明らかになり、古気候の復元に利用可能であることが確認された。
※この「酸素同位体比と気候変動および年輪セルロース」の解説は、「酸素同位体比年輪年代法」の解説の一部です。
「酸素同位体比と気候変動および年輪セルロース」を含む「酸素同位体比年輪年代法」の記事については、「酸素同位体比年輪年代法」の概要を参照ください。
- 酸素同位体比と気候変動および年輪セルロースのページへのリンク