説の否定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/03 07:35 UTC 版)
熱とは物質が振動することによって波動として伝わってゆくものだとする熱の波動説の支持者に対して説明が求められたのは、熱を伝える物質のない真空中でも熱が伝わるという事実だった。この事実は、熱は通常の物質とは異なるものだとするカロリック説に有利なものだとされていた。熱波動説の支持者は真空中にはエーテルが存在していて、それが振動によって伝わると説明した。 やがて熱波動説が受け入れられていくと、カロリック説の支持者のなかには、このエーテルの概念をカロリックにあてはめることもあった。すなわち、熱はカロリックが振動することで伝わるとする考えである。このように、カロリック説の支持者のなかでも、カロリックの定義は大きく分かれるようになっていった。そのような中でも、説の支持者の間で見解が統一されていたのが、カロリックの存在、及びその量が保存するという熱量保存則であった。したがって、熱量保存則が成立しない事象(熱による仕事の創出、仕事による熱の創出)についての定量的な論展開が必要であった。 このような中で、1843年、ユリウス・ロベルト・フォン・マイヤーは、運動のエネルギーが熱に、あるいは逆に熱が運動のエネルギーに変わり得ることを明らかにした。1845年ジェームズ・プレスコット・ジュールは、実験を元に熱の仕事当量を算出した。また1847年ヘルマン・フォン・ヘルムホルツも、熱と仕事の等価性について論じた。このような一連の研究により熱力学第一法則(エネルギー保存の法則)が確立されると、この法則が熱量保存則では説明できない事象も含む広い範囲で成立することが明らかになり、熱量保存則に立脚していたカロリック説はその意義を失った。その後、熱が分子の運動であるとする熱の分子運動論が建設されるとともに、また熱力学の成立とともに熱素説は消滅した。
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