複製プログラム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/06 09:03 UTC 版)
複製プログラムとは、真核生物のDNA複製においてレプリコンが点火される順番である。全てのレプリコンが一度に点火されないことには例外があり、ショウジョウバエの初期胚の核分裂では多数のレプリコンが同時に点火され、S期は短縮されている。 染色体には「初期に複製する領域」と「後期に複製する領域」とがある。また、ブロモデオキシウリジンで複製フォークを標識し、抗体で染色して観察すると、染色が集中した「フォーカス」が染色体あたり100〜300観察される。このフォーカスはおよそ300以上の複製フォークを含む。これらのことから、ある時期にレプリコンの一群が一斉に点火されてそのDNA複製は局所的に制御されると考えられている。 複製プログラムの実態は複製開始因子が複製起点に作用する順番であり、クロマチン構造や核における三次元的配置といったエピジェネティクスな制御により各領域への複製開始因子の接近のしやすさを調節することで複製プログラムは制御されている。出芽酵母において複製開始因子のいくつかは複製起点の数よりも少なく、上述のように全てのレプリコンの同時点火は起こらず、また、複製開始因子の複製起点への結合がDNA複製の律速段階である。Saccharomyces cerevisiaeを用いた研究から、S. cerevisiaeのヒストン脱アセチル化酵素のRpd3は初期および後期の複製起点の両方の複製開始を抑制し、Sirtuinファミリー(NAD+依存性ヒストン脱アセチル化酵素)のSir2は初期の複製起点の複製開始を促進することが明らかとなった。 限られた複製因子を取り合うために、染色体外のリボソームRNAをコードしている多コピーのリボソームDNA (rDNA) 領域と単一コピー領域のDNA複製は競合しており、Sir2がDNA複製される活性なrDNAの複製起点の分布を低く抑えることにより正常なDNA複製が行われる。S. cerevisiaeの複製開始点の約30%が、ヒトの場合は50%がrDNA領域といった多コピーの繰り返し配列に存在する。S. cerevisiaeのrDNAには150~200コピーの繰り返し配列があり、各繰り返し配列に複製起点があるが、1回のS期においてDNA複製される活性な複製起点はそのうち20%に過ぎない。rDNAの活性な複製起点は転写が活性な遺伝子の下流に存在する。また、rDNAにおける活性な複製起点の分布はSir2により決定されている。rDNAにおいて隣接する3~4個の活性な複製起点の集団が形成されており、各集団はSir2によるヒストン脱アセチル化により不活性化された領域で隔てられている。 Sir2がrDNA領域の複製における負の制御効果を持つのに対し、Rpd3は正の制御効果を持つ。吉田和真は、複製プログラムの制御においてヒストン脱アセチル化酵素の各複製起点への作用よりもむしろrDNA領域の複製開始点の活性の操作の重要性が大きいとする説を提唱した。 複製プログラムは、細胞の系統や分化および発生の過程に応じて柔軟に変化する。複製プログラムの制御の生理的意義については、DNA複製を転写や修復といった染色体の他の機能と協調させることが遺伝情報の継承において重要であると考えられている。
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