色彩と黒色透明釉薬
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/10 07:57 UTC 版)
靖之作品の特徴として、まずは作品の色彩の豊かさと色彩の透明感が挙げられる。七宝焼の色彩となる釉薬はそれぞれの鉱物を焼成した際の化学変化から作られるが、靖之は鉱物の分量や配合の割合、焼成する際の時間や温度について気の遠くなるような試行錯誤を重ねて、多くの色彩や色彩のグラデーションを作り上げた。並河家には当時使われていた釉薬がそのまま残されているが、例えば「桐花瓶用別口黄色ボカシ」という色を表現するために、明度の異なる釉薬を15種類用いると書かれており、靖之の色への執着が窺われる。靖之が発明したものとして特に有名なのが、黒色透明釉薬である。黒色透明釉の発明により、それまでの七宝作品では存在しなかった透明感のある艷やかで深い黒が出せるようになり、靖之の作品でも背景色として良く使われて、色鮮やかで精緻な図柄を際立たせている。なお、黒色透明釉薬も青味がかったものから赤味を帯びたものなど、複数あるのを目視で確認できる。17点の作品を科学調査したところ、少なくとも6種類あるのは確認できるが、その技法までは判明していない。反面、黒色透明釉薬は小さな傷や僅かな釉薬の乱れも隠せないため、製作には相当な技量が要求される。黒色透明釉を使った作品で特に高名なのが、1900年のパリ万博に出品された後に皇室に買い上げられた「黒地四季花鳥図花瓶」であり、現在は三の丸尚蔵館に納められている。また靖之はモスグリーン、アイボリー、ライトグレー、小豆色なども好んで使った。 色彩以外でも、作品の優美で繊細なデザインや精緻な技巧への評価が非常に高い。他の七宝作家の作品と同じく花鳥風月を題材にしたものが多いが、並河家の家紋が蝶だったこともあり、蝶がデザインの題材としてよく使われている。
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