自明と真
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/02 09:57 UTC 版)
混同しがちだが、ある命題が自明であることは、それが真であることを必ずしも一致しない。 例えば、『重いものほど速く落ちる』という命題において、実際にピサの斜塔から重い球と軽い球を何回落としても(大抵は)重い球の落下速度の方が速くなる。『重いものほど速く落ちる』のは自明であるという者もいるかもしれない。 しかしながら、古典物理学では、重さ=質量x重力加速度であり、真空中で剛体が自由落下する時の落下速度は質量の大小には依存せず、落体の初速度と重力加速度と落下時間の値に依存するとされる。この為、『重いものほど速く落ちる』という命題は、真であるとは限らない。 『重いものほど速く落ちる』という命題の中にある『重い』という記述だけでは、重いもの(質量x重力加速度の積がより大きいもの)が軽いものに比べてどう重いのかがわからない。質量も重力加速度も大きいのか、その一方は小さいものの他の一方が十分大きいために積が大きいのかということが分からないので、重いほうが遅く落ちることは十分ありうる(月面上における1トン重の剛体(=重いもの)の真空内自由落下速度は、地球上における1マイクログラム重の剛体(=軽いもの)の真空内自由落下速度より当然遅い)。 また、重いもののほど落下中に強い上昇気流が発生したり、抗力係数が大きくなったり、初速度が小さくなるような条件下でも、重いものほど遅く落ちる場合がある。 従って、『重いものほど速く落ちる』という、ある意味では自明な命題が厳密に真となりうるのは、重いものと軽いものの落下経路を比較した時に、同一な重力加速度であること、同じ流速であること、落体の抗力係数に差がないこと、また落体の初期状態が同じであることなどの(一般的に想起されるような地球上の単純な物理実験では大抵当たり前とされるような)条件が整っている場合である。 また、数学では、ユークリッドは、いくつかの公準や公理の下に、その幾何学の大系を築いた。その際、彼はこれらを自明のものとして取り扱ったが、それが本当に自明であるかの判断を追求することから、非ユークリッド幾何学が発展した。現在では、公理や公準は、その理論を成立させるための仮説であると考えられる。
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