物質の不足と赤方偏移の影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/01 03:16 UTC 版)
「オルバースのパラドックス」の記事における「物質の不足と赤方偏移の影響」の解説
ケルヴィンの恒星の年齢という議論は、宇宙に存在する物質がその質量をどの程度放射に変えられるかという点で、宇宙論のあり方以前に本質的なものであり、宇宙に存在する物質の密度がパラドックスの成立に必要とされる量には遥かに及ばないという議論に結びつく。 実際の恒星は質量の 0.1 % ほどを放射に変えるだけであるが、ハリソンによれば、仮に宇宙の物質が質量のすべてを放射に変えるとしても、そのエネルギーは恒星の表面温度より遥かに低い 20 K の温度にしか相当しない。 これはどのようにしても、恒星の輝く状態で宇宙全体を平衡状態に達せられるほど元々星の寿命を長くできず、星から発せられた放射が空間を十分満たす遥か以前に星が消滅してしまわざるをえないことを意味している。 すなわち、宇宙がいかに広く、年齢が大きくとも、現在の宇宙の物質の密度では宇宙を恒星の表面温度レベルの放射で満たすことはできない。 宇宙が放射で満たされるために必要な時間は背景限界に相当する 1023 年のオーダーとなるが、恒星の寿命はおよそ 1010 年ほどであり、オルバースのパラドックスが成立するためには、宇宙の大きさによらず現実の10兆倍ほどの密度で物質が存在していなければならない。 また、ハリソンは宇宙が膨張し遠方からの放射は赤方偏移で冷やされても、時間に関する距離の伸びが一定なら、通常の膨張宇宙モデルでは赤方偏移は放射のエネルギー全体を半分にしか減らせず、ほとんどの放射は赤方偏移の小さな近距離の星からの放射からならざるを得ないと主張している。 天体物理学者ポール・ウェッソン (Paul S. Wesson) もほぼ同様の結論を導いている。 このことは、仮にすべての星が赤方偏移せずに地球に降り注いだとしても、夜空の明るさは全体としてせいぜい数倍程度にしかならず、10兆倍という背景限界から導かれる制限と比べてわずかな寄与しかもたらさないことを示している。 よって、赤方偏移はオルバースのパラドックスが成立しない本質的理由とはなりえない。
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