物質のコヒーレンス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/17 09:39 UTC 版)
原子や電子の波動関数においてもコヒーレンスが定義できる。例としてエネルギー固有状態 | n ⟩ {\displaystyle |n\rangle } にあった物質系に電磁波が入射し、物質と電磁波との間に相互作用が生じた時を考える。時刻tにおける物質系の状態が | ψ ( t ) ⟩ = ∑ n c n ( t ) | n ⟩ {\displaystyle |\psi (t)\rangle =\sum _{n}c_{n}(t)|n\rangle } と書くことができるとすると、準位a、b間のコヒーレンスは ρ a b = c a ( t ) c b ∗ ( t ) {\displaystyle \rho _{ab}=c_{a}(t)c_{b}^{*}(t)} と定義される。これは時刻tに置ける準位a、bの時間発展展開係数の位相関係を反映した量である。 また電気双極子遷移を考えるとき、マクロには電気分極 P {\displaystyle \mathbf {P} } の期待値 ⟨ P ⟩ {\displaystyle \langle \mathbf {P} \rangle } を求めれば相互作用を議論することができる。この期待値は密度行列を用いて ⟨ P ⟩ = T r ( ρ P ) {\displaystyle \langle \mathbf {P} \rangle =Tr(\rho \mathbf {P} )} を求めればよい。したがって密度行列を通して、電磁波の位相を物質系に移すことができる。つまり電磁波のコヒーレンスを物質系に転写することができる。密度行列を介して物質の電気分極に生じるのが「電気分極のコヒーレンス」である。同様にして、対象が励起子のときは「励起子のコヒーレンス」、対象がスピンのときは「スピンのコヒーレンス」を考えることができる。 たとえば原子における基底状態 | a ⟩ {\displaystyle |a\rangle } と励起状態 | b ⟩ {\displaystyle |b\rangle } の2準位系を考える。はじめ | a ⟩ {\displaystyle |a\rangle } にあった系に電磁波が照射されると、 | a ⟩ {\displaystyle |a\rangle } と | b ⟩ {\displaystyle |b\rangle } との間でラビ振動が起こる。ラビ振動は自然放出によって | b ⟩ {\displaystyle |b\rangle } から | a ⟩ {\displaystyle |a\rangle } への遷移が起こるまで続く。この時間が物質系のコヒーレンス時間に対応する。照射する電磁波の縦コヒーレンス長L1と横コヒーレンス長L2に対して、体積V~L1*L22の領域内の原子が、秩序だった位相関係を持って励起される。よって多くの同じ2準位系が存在するときは、これらは電磁波の入射とともに同位相でラビ振動するが、それぞれ異なる時間に自然放出による基底状態への遷移が起こるので、位相のそろった原子の数は減っていく。この現象をデコヒーレンスという。
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