決定不全と証拠
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/30 16:34 UTC 版)
ある結論が決定不全であることを示すためには、証拠によって同じくらい確実に支持されるような競合する結論を示さなければならない。決定不全の自明な例として、「ただしその証拠を確認したときだけ」という文を主張に付け加えればよい(より一般的には、反証不可能にしてしまえばよい)。例えば、「地球付近の物体は手放されると地球に向かって落ちていく」という主張は、「地球付近の物体は手放されると地球に向かって落ちていく、ただしそのことを確認しようとしたときだけ」という主張と対立するだろう。このような付け足しは任意の主張に対して行えるから、あらゆる主張は少なくとも自明な決定不全性を持つ。もしオッカムの剃刀を適用するなどして以上のような主張を排除してしまえば、このような「トリック」では決定不全が引き起こされなくなる。 同じようなことは科学理論(英語版)に対しても適用される。例えば、ある理論によって取り扱えない状況を見つけ出すことも容易である。例として、古典力学は加速しない基準系の間に区別を持たないため、そのような基準系についての結論は決定不全であった。太陽系は静止しているとしても、あるいは一定の速度で特定の方向へ移動しているとしても、理論と齟齬はなかったのである。ニュートン自身、そういった可能性の間では区別が存在しないと述べていた。より一般に、競合する理論を区別したり、あるいはそれらを統合するような別の理論を決めるためには、不十分な証拠しか存在しない可能性がある。これは例えば一般相対性理論や量子力学などにおいても同じように言える。 もう一つの例は、ゲーテの色彩論である。「ニュートンはプリズムを用いた実験によって、太陽光が様々な色の光線を合わせたものであると証明できると信じた。ゲーテは、この観察から理論への道筋がニュートンの考えたものより困難であることを示した。その現象自体は理論への道筋を与えてはないのだと言い張ることで、ゲーテは我々の自由で創造的な影響が理論構築に寄与していることをあらわにした。ゲーテの洞察は驚くべきもので、ニュートンのプリズム実験の結果は代替理論とも正確に一致することを正しく示したのである。だとすると、既存の物理理論に対して代替を提示することで、ゲーテはデュエム-クワイン・テーゼ以前に決定不全の問題にたどりついていたのである。」(ミューラー, 2016)。ヘルマン・フォン・ヘルムホルツは、「私個人としては、色に関してどんな意見を持っている人だろうと、ゲーテの理論それ自身は論理的に一貫していることをいかにして否定できるのかわからない。仮定を受け入れてしまいさえすれば、事実を完全にかつ実に簡潔に説明できるのである」(ヘルムホルツ, 1853)と述べた。
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