懐胎時期の推定と離婚後300日問題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/16 09:39 UTC 版)
「嫡出」の記事における「懐胎時期の推定と離婚後300日問題」の解説
772条2項は「婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と規定する。懐胎時期が母の婚姻中であったことを証明しなければ父性推定が働かないとすると、父性推定の実質的意義が損なわれ、子の保護の点からも妥当でないことから、772条2項はこのような不都合を解消しようとする趣旨である。 本項はあくまでも懐胎時期の推定の規定で、父子関係存在の推定とは直接的には関係がなく、懐胎時期について具体的な立証があった場合には、その立証された懐胎時期を基準として父性の推定が生じるか否か判断される。 しかし、かつて実務は、婚姻解消後300日以内に出生した子が出生証明書の妊娠月数からの逆算で、婚姻解消後に懐胎した子とみられる場合についても、嫡出でない子としての出生届は受理されなかったため(昭和24年9月5日民事甲1942号(二)337号民事局長回答)、離婚後300日以内に前夫以外の者を父とする子が生まれた場合には、722条2項により子は前夫の子と推定されることになって、実際の自然血縁関係と異なる結果を生じることとなってしまい、この推定を覆すためには前夫による嫡出否認の訴えが必要となる。この場合、女性が前夫との関わりを避けたい場合に出生届を提出しないことも多く、戸籍のない子などの社会問題(離婚後300日問題)を生じたため、現在の戸籍実務では医師の懐胎時期に関する証明によって772条の推定が及ばず、前夫の子としない出生届を提出することが可能となった(平成19年5月7日法務省民一第1007号民事局長通達)。 ただし、事実上の離婚状態のまま事実上の再婚状態となり、出産に至った場合には、上の戸籍実務での救済はない。 このような場合、出産した新生児と前夫との親子関係を否定するためには審判が必要であるが、出生届の提出前に遺伝上の父に対して認知を求める訴えを提起することは出来ないため、出生届提出後に原則として前夫が嫡出否認の訴えを提起するしかない。 なお、戸籍がなくとも住民票の交付、学校教育を受けることは可能であるが、パスポートの交付は受けられないため海外渡航は不可能である。
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