情報学環教育部とは? わかりやすく解説

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東京大学大学院情報学環教育部

(情報学環教育部 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/17 13:44 UTC 版)

東京大学大学院情報学環教育部(とうきょうだいがくだいがくいんじょうほうがっかんきょういくぶ)は、東京大学大学院情報学環に併設されている教育機関である。[1]在籍する学生は全員が「教育部研究生」(後述)で、教育部に在籍する研究生は「教育部生」や「教育部研究生」と呼ばれる。

概要

情報学環教育部は、1949年に設立された旧・東京大学新聞研究所(1992年に社会情報研究所へ改称、2004年に大学院情報学環へ統合)の教育部を前身とする。2004年、東京大学社会情報研究所が大学院情報学環と合併したことに伴い、社会情報研究所教育部に在籍していた教育部研究生とその学則は、大学院情報学環・学際情報学府に移された。

情報学環教育部は一般の研究生制度とは異なり、教育部研究生には単位/修了認定を行われるという点でユニークな教育課程を実施している。メディアや情報、マスコミ、ジャーナリズムの分野に関心をもつ学生を対象にした学部レベルの課程(教育部課程)を2年間で学修する。

教育部は、標準修業年限2年の最長4年の教育課程を学修し24単位を取得すると修了となる。所定の課程を修了すると、単位取得を証する「成績証明書」と「正規の課程の修了証」を取得することができ、履修証明制度とは異なっている。

沿革

教育部の起源は、1929年(昭和4年)の東京大学文学部新聞研究室にまでさかのぼる。ドイツで興った新聞学を日本に移入しようとした小野秀雄が新聞学講座の開設を計画し、渋沢栄一を寄付発起人総代として貴族院議員の阪谷芳郎大阪毎日新聞社主の本山彦一らを支援者として集めた[2]。支援者は、日本の思想が不安定なことを心配し、新聞は非常に大きな影響力をもつが、新聞記者に必要な知識を教え、人格を養う教育機関が存在していないことことを憂い、東京帝国大学に新聞学講座を設置するための基金を集めた。

予め新聞講座開設の了解を古在由直総長から得て基金を集めたが、いざ寄付の段階になり、国史学の三上参次、宗教学の姉崎正治、社会学の戸田貞三各教授の賛同は得たものの、文学部教授会は、「本学に於て新聞に関する研究をなすものは主として純学理上の研究をなすものにして、新聞の記者又は経営者の養成の如きは寧ろ間接なる事に属す[3]」として、純粋な学問ではないことを理由に講座の設置に反対した[4]。そのため、大学は、講座の代わりに新聞研究室の設置を寄付者に打診したところ、寄付者からは5項目の申し送りを条件に寄付が行われ、新聞研究室として設置された[5]。文学部嘱託の小野秀雄が主任をつとめ、法学部文学部経済学部からそれぞれ1名ずつ指導教授、研究員が配置された[5]。寄付者の申し送りには「2、貴学に於いて適当と認められる場合には、成るべく速やかに新聞講座を創設せられたき事」「5、卒業後新聞事業に関係する学生に対しては適当の指導方法をこうぜられたき事」が記載されていた。

なお、講座開設を妨げられた小野は1932年に明治大学で新聞高等研究科[6]上智大学で日本初[要検証]となる新聞学科を立ち上げ念願を果たすが、晩年の自著の中で、東大での講座反対は、当時文学部長だった滝精一大阪朝日新聞社出身であったため、大阪毎日新聞社出身の自分を敵視したからであると述懐している[7]

第二次世界大戦後、GHQは日本の政府や大学に対し、ジャーナリスト養成のための学部設置を勧告した。1946年には東京帝国大学の南原総長を訪ね、学部開設を非公式に求めた。これに対し大学は、新聞研究室を研究所へ発展させ、学生教育を行う計画を示した。GHQは最後まで4年制学部でのジャーナリズム教育を求めたが、東大は「まず教員を育成する必要がある。そのため新聞研究所を設け、教員養成と学生教育を並行して行う」という方針を貫いた[8]

1947年に新聞研究所官制案が作成されたが、その中の「新聞、出版、放送および映画に関する研究並びに教育を行う」という規定に対し、法制局は「学校教育法によれば研究所は研究施設であって教育施設ではなく、『並びに教育』は抵触する」と異議を唱えた。

しかし、戦時中には文部省直轄の「国民精神文化研究所」が「研究、指導及び普及」を掲げ、実質的に教育を行っていた前例があった。このため、最終的には新聞研究所の設置目的を「新聞及び時事についての出版、放送又は映画に関する研究、並びにこれらの事業に従事し、又は従事しようとする者の指導及び養成」(国立学校設置法1949)とし、研究教育組織として新聞研究所を設置することが認められた。ここに教育部(学科)が置かれ、学生教育を行うことが可能となった。

南原繁総長も「研究と教育をなすべき大学の機能内で教育を行うことに支障はない」と述べ、この形で法制局の了解が得られ、法制化された。この法律が教育部の根拠法となる。なお国立学校設置法自体に教育部の名称は記載されていないが、「国立学校設置法施行規則(昭和24年6月22日 文部省令第23号)」によって担保されている。これは、国立学校設置法に学部は記載されるが学科は記載されず、施行規則で補っているのと同様の扱いである。

この結果、新聞研究所は国立大学の附置研究所として唯一の研究教育組織となり、研究組織としての研究部と、教育組織としての教育部が設置された。[9]

これにより、小さな組織だった新聞研究室は、戦後まもない1949年(昭和24年)に、文系の学際的研究教育組織である独立部局の新聞研究所へと発展した[7]。新聞研究所は「新聞および時事についての出版、放送または映画に関する研究並びに、これらの事業に従事し、または従事しようとする者の指導および養成」を目的として設置され、1950(昭和25)年には新聞研究所教育部課程が開講された。ここでは研究と並行して、マスメディアで働く記者などの実務家の育成が行われた。

新聞研究所は、全国の国立大学に附置された研究所の中で唯一の研究教育機関であり、学生の自治を重んじ、教員や同窓生を交えて自由闊達に議論を行う学習の場として発展してきた。

1992年(平成4年)、新聞研究所は社会情報研究所へと改組され、マスメディアに限定されない、情報に関わる幅広い社会現象の研究が進められることとなった。これに伴い、新聞研究所教育部の学則は社会情報研究所の学則として引き継がれ、教育部研究生は社会情報研究所教育部に所属することとなった。また、この改組にあわせて教育部のカリキュラムも改定された。

2004年(平成16年)には、社会情報研究所が大学院情報学環と合併して発展的に解消し、教育部はそれまでの学則と教育部研究生が引き継がれ、社会情報研究所教育部の教育部研究生は、情報学環教育部の教育部研究生に、学籍が変更になった。大学院設置基準第七条の三に定める「研究科以外の教育組織」として学際情報学府が、「研究組織」としては情報学環が対応しているとされているが、情報学環教育部という教育組織に関する説明はない。

東京大学大学院情報学環・学際情報学府組織運営規則(東大規則第62号)14条には、「情報・メディアに関する学部レベルの学際的な特別教育プログラムを実施するために、学環に学環教育部を置く。」 とあるが組織図の上では、学環教育部という組織はない。また、情報学環教育部という名称の教育組織も見当たらないなど学内でも存在感が非常に薄い組織である。

教育部研究生

教育部研究生は大学院情報学環教育部に入学し、教育部課程の授業を履修することになる。その特徴は以下の通りである。

  • 情報学環教育部は在籍者のすべてが教育部研究生であり、定員は1学年約30人である[注 1]
  • 入学年度となる前年度に筆記(一次試験)・面接(二次試験)による入試を実施している。内部生以外の大学生や大卒以上の社会人も受験できる。ただし大学院生は内部生も含めて受験できない。すべての入学志望者は、競争率が2~3倍程度となるこの試験に合格しなくてはならない。
  • 学部学生の入学および同時履修を認めている。現在、教育部生の約7割を東京大学の学部生であり、残りは他大学の学部学生と社会人である。
  • 東京大学の学生で、教育部に入学したものは、2つの学籍を持つ。東京大学の卒業後も、教育部を修了していない場合は在籍することができる。
  • 修業年限は2年間(最長4年間まで在籍可)で、所定の単位を修得した者には修了証が与えられる(俗に言う「研究生」は単位認定は無く、修業年限や修了制度がない)。ただ、学部の授業や就職活動との両立が難しいため、修了者は少ない。
  • 教育部研究生は、東京大学大学院情報学環教育部に在籍する「学生」であるため、当然に図書館利用やデータベースサービス、東京大学生協にも加入でき、学校保健安全法により健康診断の受診義務もある他、学校学生生徒旅客運賃割引証も発行される。
  • 教育部研究生だけで組織する学生自治会がある。自治会長は教育部研究生による選挙によって選ばれる。講義や研究生合宿のサポートをする互助組織で政治色はない。2025年度の自治会長は園田寛志郎。
  • 講義は主に福武ホール(設計:安藤忠雄)と情報学環本館の教室で行われる。また福武ホールには学環コモンズという365日24時間利用可能な学際情報学府の大学院生との共同スペースがあり、ポータブルプロジェクター、ウォーターサーバー、プリンターなどの設備が利用できる。なお入室時にはIC学生証/研究生証が必要である。
  • 東京大学の他の部局に本籍がある(他の部局でIC学生証が発行されている)教育部生は受験料、入学金、授業料が無料だが、本籍が東京大学で無い教育部生は受験料のほか、入学金・授業料(非課税)などの学費がかかる。
  • 全学科の在籍者を対象とする、学生教育研究災害障害保健(学研災)Aタイプ(大学が保険料を負担)に”情報学環・学際情報学府”の学生として学府の大学院生とともに外部から入学した教育部研究生は一括加入している。また、授業目的公衆送信補償金制度にも同様に情報学環・学際情報学府として加入しており、授業の過程に必要な資料については個々に著作権利者の許諾なく、利用が可能であり、オンラインの授業でも利用が可能である。

授業科目

情報学環教育部では、以下の4領域を教育している。

  • メディアとジャーナリズムについて学ぶ「メディア・ジャーナリズム」領域
  • 情報産業の構造や仕組みについて学ぶ「情報産業」領域
  • 情報社会の歴史や現状について学ぶ「情報社会」領域
  • 情報と技術の関わりについて学ぶ「情報技術」

教育部では、領域情報社会論、メディア・ジャーナリズム論、情報技術論、情報産業論、特別演習(グループ研究)などの科目が開講されている。そのうち情報産業論では、新聞論、出版論、広告論、情報と法といった授業が行われ、情報技術論では、情報と交通、ITS、Physical Computingといった授業が設けられている。

また、教育部の授業は学部との同時履修を考慮し、午後2時50分~8時30分(4限から6限)の時間帯に開講されている。

学歴に対する扱い

新聞研究所は、国立大学の附置研究所として唯一の教育研究組織として設置され、教育部に入所した学生は「本科研究生」と呼ばれていた。その後、この呼称は「社会情報研究所教育部研究生」「情報学環教育部特別研究生」「教育部研究生」と変遷し、現在では「東京大学大学院情報学環教育部に入学し、同課程を修了(中退・退学)した」という学歴として表記される。

教員

吉見俊哉北田暁大林香里関谷直也ら情報学環の教授准教授のほか、ジャーナリストやテレビ映画、出版関係者、広告代理店クリエーター、映像・放送技術者といった外部講師による講義、OBOGによる同窓会講義もある。

著名な出身者(新聞研究所出身者を含む)

一度でも在籍すれば、修了しなくても東京大学新聞研究所・社会情報研究所・大学院情報学環教育部同窓会に所属することができる。

脚注

注釈

  1. ^ 学部生時に入部し、その後大学院生になった者も4年以内であれば、在籍し続けることができる。

出典

  1. ^ 情報学環教育部 - 東京大学大学院情報学環・学際情報学府
  2. ^ 佐藤卓己 2018, p. 80.
  3. ^ 小野秀雄 1971, p. 213.
  4. ^ 佐藤卓己 2018, pp. 80–81.
  5. ^ a b 佐藤卓己 2018, p. 81.
  6. ^ 明治大学百年史編纂委員会 『明治大学百年史』 第四巻 通史編Ⅱ、学校法人明治大学、110-113頁
  7. ^ a b 「新聞学なるものの学問としての性格」再考佐藤卓己、京都大学 生涯教育学・図書館情報学研究 vol.10. 20II年
  8. ^ macintosh128k (2023年10月23日). “新聞研究所設立時の経緯 「法制的に行悩み」 東京大学新聞 昭和22年10月16日号”. Dream-Lab’s blog. 2025年6月29日閲覧。
  9. ^ macintosh128k (2023年10月23日). “新聞研究所設立時の経緯 「法制的に行悩み」 東京大学新聞 昭和22年10月16日号”. Dream-Lab’s blog. 2025年6月29日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク


情報学環教育部

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/15 15:39 UTC 版)

東京大学大学院情報学環・学際情報学府」の記事における「情報学環教育部」の解説

学際情報学府とは別に、旧:社会情報研究所教育部引き継いだ情報学環教育部が設置されている。 詳細は「東京大学大学院情報学環教育部」を参照

※この「情報学環教育部」の解説は、「東京大学大学院情報学環・学際情報学府」の解説の一部です。
「情報学環教育部」を含む「東京大学大学院情報学環・学際情報学府」の記事については、「東京大学大学院情報学環・学際情報学府」の概要を参照ください。

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