循環的赤字と構造的赤字
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/17 22:32 UTC 版)
財政赤字を景気との関係から捉えると、税収や失業給付の増減を通じて景気の好不況に応じて変動する「循環的」部分(循環的財政赤字)と、こうした「循環的」部分を実際の財政収支から取り除いた「構造的」部分(構造的財政赤字)の2つに分けることができる。つまり、構造的財政赤字とは、景気が良くなってもなくならない財政赤字を意味する。以下では、90年代初め以降の財政赤字を循環的財政赤字と構造的財政赤字とに分けて推計し、財政赤字拡大の要因を分析する。それによると、次のような点が明らかになる。 構造的財政赤字は、度重なる経済対策や社会保障費用の増加などによって大幅になってきており、最近年では、実際の財政赤字(99年度GDP比7.4%)の8割以上が構造的赤字(GDP比6%程度)となっている。 循環的財政赤字は、バブル崩壊後の90年代初めに景気の弱さから増加した。90年代半ばは、景気回復に伴ってやや改善したが、97年度から再び赤字が拡大し、98~2000年度はGDP比0.8%程度の赤字となっている。 2001年度は、構造的財政赤字は引き続き大幅なものとなっている。仮に2001年度の経済成長率が実質でゼロ%、名目でマイナス1%だとすると、循環的財政赤字が若干拡大し、景気の自動安定化機能が働いている。 以下では、これらの点を詳しくみていく。 まず、第2章でのGDPギャップの推計をもとに、一般政府の財政収支を、循環的財政収支と構造的財政収支に分ける。これによると、バブル経済の崩壊をはさんだ90年度から93年度の間に、循環的財政収支、構造的財政収支はともに赤字が拡大した。GDP比で、循環的財政収支は1.6%増加して0.7%の赤字に、構造的財政収支も3.2%赤字が拡大して1.5%の赤字となった。94年度以降は、循環的財政赤字が96年度に景気が回復したことにより一時減少したものの、97年度に再び赤字が拡大し、98年度以降GDP比0.8%程度で推移してきている。一方、構造的財政赤字は、減税を含む度重なる経済対策の実施や、社会保障費用(医療費や公的年金給付など)の増大のために増加傾向にあり、最近ではGDP比約6%と高止まりしている。 さらに、2001年度については、大幅な構造的財政赤字が続く中で、仮に経済成長率を実質でゼロ%、名目でマイナス1%と置くと、循環的赤字が若干拡大する。なお、成長率の仮定をプラス・マイナス1%程度変えても、推計結果は大きくは変わらない。 循環的財政赤字の拡大は、景気が悪くなると税収が減少したり、失業手当などの政府支出が拡大するという財政の自動安定化機能(ビルト・イン・スタビライザー)が働いていることを意味している。一方、構造的財政赤字の拡大は、景気情勢に応じて、財政支出や減税を拡大する裁量的な経済政策などを反映している。90年代の景気低迷に対応した政府の積極的な景気対策実施や社会保障費用の増加などの結果、92年度以降、2001年度末までの構造的財政赤字の累計は約200兆円で、2001年度のGDPの約4割となっている。短期的な景気の下支えを目的とした財政政策は、結局持続的な成長にはつながらず、大幅な構造的赤字が残ったと考えられる。今後日本経済が潜在成長率に復帰し、循環的財政赤字がなくなったとしても、抜本的な財政の構造改革を実施しなければ、GDP比で約6%の構造的赤字が残ると見込まれる。財政再建を果たすためには、財政赤字の大部分を占める構造的赤字の削減に対する積極的な取組みが必要である。
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