尿への影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/20 04:32 UTC 版)
アスパラガスを食べると、尿の臭いが変化するという観察結果は、古くから記録されている。1702年、ルイス・レムリ(英語版)は「尿に強烈で不快な臭いがする」と指摘し、ジョン・アーバスノット(英語版)は「アスパラガスは...尿に悪臭を与える」と述べている。ベンジャミン・フランクリンはこの匂いを「不愉快」と表現し、マルセル・プルーストはアスパラガスが「私の部屋のポットを香水のフラスコに変える」と主張した。1891年にはマーセリ・ネンキ(英語版)がこの匂いをメタンチオールによるものとしている。この臭いは、アスパラガス酸の硫黄を含む代謝物の混合物によるものとされている。 アスパラガスの尿臭の起源は、この野菜に特有の物質であるアスパラガス酸である。アスパラガス尿の臭いの原因となる化合物に関する研究の多くは、上記の化合物の出現とアスパラガスの摂取との間に相関関係があり、摂取後15分程度で出現するとされている。しかし、これではその生成に至る生化学的プロセスについての情報は得られない。 アスパラガス酸とα-リポ酸は、カルボン酸が結合した1,2-ジチオラン環を持つ点で類似しており、クエン酸回路などのα-ケト酸酸化系において、アスパラガス酸がリポ酸の代替となる事が報告されている。α-リポ酸の (R)-(+)-エナンチオマーは、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の補酵素であり、好気的代謝に必須である。α-リポ酸の分解経路はよく研究されており、ジスルフィド結合の還元、S-メチル化、スルホキシドを生成する為の酸化などの証拠が得られている。アスパラガス酸も同様の変化を経て、アスパラガスの尿から検出された様な代謝物になると考えられる。合成研究では、ジチオラン環のS-オキシドを生成するためのアスパラガス酸の酸化が比較的容易である事が確認されている。ヒトでの実験の結果、分解の速度は被験者によって大きく異なった。匂いが消えるまでの典型的な半減期は約4時間で、被験者間のばらつきは43.4%である。 少数のヒトではアスパラガスを摂取してもこれらの代謝物が生成されないが、アスパラガス酸が消化管から体内に取り込まれないか、あるいは揮発性の硫黄含有物の放出を最小限に抑えるような方法でアスパラガス酸を代謝しているという単純な理由であると考えられる。
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