対称こま分子
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/15 09:21 UTC 版)
三つの主慣性モーメント IA, IB, IC のうちの二つが等しい分子を、対称こま分子という。とくに IA = IB < IC である分子を扁平対称こま(英: oblate symmetric top)分子(偏平対象こま分子)という。逆に IA < IB = IC である分子を偏長対称こま(英: prolate symmetric top)分子という。たとえばクロロホルム CH35Cl3 は、分子の対称軸まわりの慣性モーメント I∥ が対称軸に垂直な軸のまわりの慣性モーメント I⊥ よりも大きいので、扁平対称こま分子である。それに対して、塩化メチル CH3Cl は、I∥ が I⊥ よりも小さいので、偏長対称こま分子である。一般に、軸対称の分子であれば慣性主軸のひとつが対称軸と一致し、対称軸に垂直な任意の軸まわりの慣性モーメントはすべて等しくなるので、軸対称の分子は対称こま分子である。たとえば3回回転対称軸を持つアンモニア NH3、6回回転対称軸を持つベンゼン C6H6、それに4回回映対称軸を持つアレン CH2=C=CH2 はすべて対称こま分子である。慣性主軸は IA ≤ IB ≤ IC となるように選ぶので、扁平対称こま分子である CH35Cl3, NH3, C6H6 の対称軸は慣性主軸のc軸となり、偏長対称こま分子である CH3Cl, CH2=C=CH2 の対称軸は慣性主軸のa軸となる。 対称こま分子の回転状態は三つの量子数 J = 0 , 1 , 2 , 3 , ⋯ , m J = 0 , ± 1 , ± 2 , ⋯ , ± ( J − 1 ) , ± J , K = 0 , ± 1 , ± 2 , ⋯ , ± ( J − 1 ) , ± J {\displaystyle J=0,1,2,3,\cdots ,\qquad m_{J}=0,\pm 1,\pm 2,\cdots ,\pm (J-1),\pm J,\qquad K=0,\pm 1,\pm 2,\cdots ,\pm (J-1),\pm J} で記述される。量子数 J と量子数 mJ の意味は二原子分子のときと同じである。量子数 J は分子回転の角運動量の大きさを表す量子数であり、回転の基底状態では J = 0 である。量子数 mJ は分子回転の向きを表す量子数であり、空間に固定されたxyz座標系における量子化軸(通常はz軸)まわりの分子回転の角運動量の大きさ、すなわち角運動量のz成分を表す。 mJ = 0 かつ J ≠ 0 であれば、角運動量ベクトルはxy平面内にあるので、分子回転の回転軸もまた空間に固定されたxy平面内にある。それに対して |mJ| = J ≠ 0 であれば、角運動量ベクトルはほぼz軸に沿う方向にあるので、空間に固定されたz軸の正方向から見るなら mJ = J であれば分子は反時計回りに、 mJ = −J であれば分子は時計回りに、それぞれ回転している。 量子数 mJ が空間に固定された軸のまわりの角運動量の大きさを表すのに対して、量子数 K は、分子の対称軸まわりの角運動量の大きさを表す。K の回転と −K の回転は、回転の向きが逆になるほかは同じ回転である。 K = 0 かつ J ≠ 0 であれば、角運動量ベクトルは対称軸と直交するので、分子回転の回転軸もまた分子の対称軸と直交する。このときの回転運動は、古典力学的には、分子の宙返り運動に対応する。たとえば ベンゼンのような平面分子であれば、コイントスのコインのような回転に対応する。あるいはCH3Cl や CH2=C=CH2 のような棒状に近い分子であれば、このときの回転は棒状の攪拌子のような回転に対応する。それに対して |K| = J ≠ 0 であれば、角運動量ベクトルはほぼ分子の対称軸に沿う方向にあるので、分子回転の回転軸は分子の対称軸とほぼ重なる。たとえばベンゼンであれば、 |K| = J ≠ 0 の回転は、6回回転対称軸を回転軸とする車輪のような回転に対応する。一般に、 |K| ≠ 0 の回転状態は、古典力学的には歳差運動に相当する。
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