寒天培地の利点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/20 15:16 UTC 版)
寒天を培地の固体化に利用するのは、微生物研究に使用する上で、非常に優れた性質があるからである。 寒天は、溶液のpHを極端に上下させる物質でなければ、たいていの水溶性物質を溶け込ませ、固化させることができる。このことは、さまざまな液体培地を、寒天を加えることで固体培地として使えることを意味する。 寒天を分解する能力のある生物がほとんどいない。したがって、さまざまな微生物を培養する場合に、途中で分解されて液化してしまうことが少ない。 寒天は高温でも化学的に安定で、培地に加えたままオートクレーブ滅菌 (121 °C) が可能である。加熱によって分解されないため副生成物をほとんど生成せず、またもともと化学的に純度の高いものが得られやすいために、微生物の生育や検査試験の結果に誤差が出にくい。 純度が高い寒天は無色透明であり、培地上に成長する微生物を観察する上で非常に便利である。また、柔らかいが弾力があるため、刃物で切ったり削ったりといった加工もしやすい。混入した微生物があってもそれを確認がしやすい上、その部分を除去するのも比較的簡単である。また、カビなどの場合、寒天上に成長するものを、そのまま切り取って封入してプレパラートとすることもできる。 寒天はおおむね 96 °C で融解し、冷やすと 60 °C 以下で固まる。比較的低温で固化するこの性質のため、固まる寸前の寒天に生きた微生物を混入し、寒天内に混ぜ合わせてから固化させる混釈による希釈平板法を行うこともできる。土壌などに混在している細菌数の測定などでは有効な技術である。 寒天そのものは、多糖類ではあるが上記のようにほとんどの生物がこれを分解できないために、実質的には栄養源としては利用されることがなく、一般には他の栄養素を追加することで培地として利用が可能になる。しかし、試料に含まれる栄養分のみで十分な場合など、寒天のみの培地が使われる例もある。 他に、このような性質を生かして、生物研究の道具として寒天を利用した例は数多い。有名な例として、発生学でのヴァルタ―・フォークトの局所生体染色法、植物生理学での新芽の先のオーキシンの移動を見る実験などがある。
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