天敵による害虫防御
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/11 02:25 UTC 版)
農業生態系においては、自然生態系よりも害虫の大発生は起こりやすい。 一例として、海外から害虫のみが侵入した場合がある。天敵は侵入しないで、害虫のみが侵入した場合は、トップダウンの害虫抑制効果がない状態であり、この侵入害虫は多発生する。この場合は、侵入地の生態系が乱れる可能性があり、侵入種の攻撃対象が農作物の場合は、多大な農業被害を受けることになる。しかし、侵入した土地において、侵入種の防除のために農薬を広範囲に散布すると、農薬の非標的な影響によって、生物相がさらにかく乱される可能性もある。そのため、侵入した害虫が元々すんでいた場所から有力な天敵を侵入地に導入することで、侵入害虫を特異的に防除する場合がある。このような害虫防除法は、侵入地での個体群の定着を目的としているため、永続的な効果があり、伝統的生物的防除と呼ばれている。侵入種を特異的に防除できない場合は、過去の事例から、生態系への悪影響を及ぼす可能性があり、近年では生態系への影響を評価した上での天敵導入が推奨されている。 一方で、農地における人為的かく乱により、害虫を抑制する特定の天敵種が欠乏または欠落している場合は、人為的に天敵種を放して、圃場で飼う場合がある。この方法は歴史上2番目の天敵による害虫防除技術となり、放飼増強法という。放飼増強法には、2種類あり、少しだけ放して天敵が増えたころに害虫を抑制する方法と、大量に放してすぐに害虫を防除する方法がある。前者を接種的放飼と呼び、後者を大量放飼という。日本では、天敵利用といえば一般的に接種的放飼のことを指しており、農薬を使わないという環境問題の解決手段としてよりは、農業従事者に好まれる省力化技術として施設栽培を中心に徐々に普及している。 3番目の天敵による害虫防除技術として、土着天敵の保護利用がある。この方法は、圃場やその周辺にそもそも存在する天敵を呼び込んだり、数が増えるように植生などを管理したりする方法である。現在、この方法に注目が集まっているが、害虫防除技術として確立しているとは言えない状態である。 土着天敵の利用例 「タバコカスミカメ」というカメムシの一種は、施設栽培のナスやトマト等で利用例がある。
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