多様体
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/06/27 22:07 UTC 版)
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多様体(たようたい、仏: variété, 英: manifold, 独: Mannigfaltigkeit[注 1])とは、解析学(微分積分学、複素解析)を展開するために必要な構造を備えた空間のことである(ただし位相多様体においてはその限りではない。ただ、単に多様体と言った場合、可微分多様体か複素多様体のことを指す場合が多い)。それは局所的にユークリッド空間と見なせるような図形や空間(位相空間)として定義される。多様体上には好きなところに局所的に座標を描き込むことができる。
直感的な説明

多様体に座標を描くという作業は地球上の地図を作る作業に似ている。地図の上の点は地球上の点に対応し、さらに地面には描かれていない緯線や経線を地図に描き込むことによって、地図に描いてある地域の様子が分かりやすくなる。座標の無い地球上の様子は、人間が作った座標のある地図と対応させることによって非常に把握しやすくなる。
地球は球であり、世界地図を一枚の平面的な地図におさめようとすれば、南極大陸が肥大化したり、地図の端の方では一枚の地図の中に(連続性を表現するために)同じ地点が複数描き込まれたりする。世界地図をいくつかの小さな地図に分割すると、こういった奇妙なことはある程度回避できる。例えば、北極を中心とした地図、南極を中心とした地図、ハワイを中心とした地図、ガーナを中心とした地図…… などのように分割できる。そして隣り合った地図の繋がりをそれぞれの地図に同じ地域を含めることで表現すればよい。こうすることによって異なる地図同士では重複する部分が出てきてしまうものの、一枚の地図の中に同じ地域が 2 箇所以上描かれることをなくすことはできる。
地球と同じように多様体は好きなところに小さな地図(局所座標系)が描ける図形である。逆に、このような小さな地図を繋げていったら全体としてどのような図形ができあがるのか?という問題は位相幾何学の重要な問題の一つでもある。地図だけみれば地球をまねて作っているようなゲーム(例えば、ファミコン版のドラゴンクエストシリーズ[1])の世界が、実は球面ではなく平坦トーラスだったということもある。
多様体は性質のよい図形であり、多様体でない図形も多く存在する。円や球や多角形、多面体などは全て多様体として扱えるが、ペアノ曲線やフラクタルなどは適当な地図を描くことはできず、多様体にはならない。
定義
多様体の定義で重要な点は、多様体の上にいかにして座標系を貼り付けるか?ということと、どのような座標系を用いたとしても計算に違いが現れないようにすることである。多様体は計算したいときに座標を導入でき、しかもどのような座標系で計算したとしても違いがない、すなわち座標系に依存しないという非常に扱いやすい性質が追求された図形である。
ここでいう計算とは関数やベクトル、それらの微分、積分などのユークリッド空間の上で普通に行われているような座標を用いた計算のことである。
局所座標系

M を位相空間とする。M の開集合 U に対して、m 次元ユークリッド空間の開集合 U ' への 同相写像
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U∩Vは、 φ(U∩V) と ψ(U∩V) の 2 通りの局所座標で表されているが局所座標同士は座標変換で写り合う M の二つの座標近傍 (U,φ) と (V,ψ) について、 U ∩ V が空でないとする。局所座標系 φ と ψ は U と V をそれぞれ m 次元ユークリッド空間の開集合 U ', V ' に写すとする。すなわち
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2 次元多様体の例:トーラス - (φλ × ψτ)(p,q) = (φλ(p), ψτ(q))
という写像である。
- この式の右辺は成分で表せば (φ1(p),φ2(p), … ,φa(p), ψ1(p),ψ2(p), … ,ψb(p)) のことであり、単に成分を並べたものと考えてよい。
このように座標近傍同士の直積によって座標近傍系 S3 = {(Uλ × Vτ, φλ × ψτ) | λ ∈ Λ , τ ∈ Τ} を定めたとき、 (M1 × M2, S3) は、 a + b 次元 Cn 級多様体になる。この (M1 × M2, S3) を (M1,S1) と (M2,S2) の積多様体 (product manifold) という。同様にして M1 × M2 × … × Mm というような、 3 つ以上の多様体から作られる積多様体も定義できる。
直線と円周の直積 R1 × S1 を考えれば、直線を軸とした無限に伸びる円柱の側面を多様体と見ることもできるし、円周同士の直積 T2 = S1 × S1 を考えればトーラスを多様体とみることもできる。
その他の例
原点を通る直線は
- y=m x
のように書かれるが、これらの直線はmの値と対応し、あらためて一つの点と考えることができる。直線の集合は図形ではないが、このように直線を点に読み替えることで直線のなす集合にも適当な座標系を入れることができ、多様体という図形として扱えるようになる。
多様体上の関数
m 次元 Cn 級多様体 M 上で定義された実数値関数 f を考える。
- f: M → R
これは、多様体上の点 p ∈ M に対して実数値 f(p) を対応させる関数である。特定の局所座標を考えているわけではないので、この関数の変数は (x1, x2, ..., xm) のように数を並べた座標ではなく単に点を表している。
多様体上には局所座標を貼ることができるためこの座標を用いた微積分などの計算が可能である。 M には座標近傍系 S = {(Uλ, φλ) | λ ∈ Λ} が与えられていて
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多様体論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/28 14:18 UTC 版)
多様体の定義においてモデル空間は Rn である必要はないのだが、そうするのが最も一般的な選択であり、微分幾何学においてはほとんどそうである。 他方、ホイットニー埋蔵定理(英語版)は任意の m-次元可微分多様体が R2m に埋め込めることを述べる。
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